「先ほど、レオニダス殿が申し上げた虐殺と破壊の件ですが、具体的な数値を述べさせていただきます」
「女性125名、子供230名、老人53名が落命しており、破壊された家屋362棟となります。これが多いのか少ないのかは人それぞれでしょうが、壊滅的な被害が出ていることは間違いがありません」
私は具体的な数値をあげた。
レオニダスは私の発言に頷いてくれたが、セリオスは顔色を悪くしていた。
私はこのまま畳み掛けることにした。
「そもそも、この戦争の発端は魔界のオーク族が人間界で略奪を行ったことが原因です」
「魔界側に非があるのは間違いありませんが、オークの一族のような小さな部族まで完全に管理できるはずもなく、魔王がオーク族に略奪命令を出すはずがありません」
「本来であればオーク族の討伐とすべきであり、魔王討伐という大義名分自体に無理があります」
「先に攻撃をしかけておいて、無関係だとでもいいたいの?」
セリオスが黙っているので、イシルが反論をしかけてきた。
直接対決は臨むところだ。
「無関係とは言いませんが、外交問題ではなくいきなり全面戦争というのは別の目的があったのでは、と言われても仕方がないでしょう」
「そのような疑惑がある中で、我々にとって不利な条件で降伏をし、全てを水に流して交易を再開しようと言うのです」
「水に流してとは、ずいぶんと上から見ているわね。ご自身の立場を分かっているのかしら?」
「今回の戦争で魔界王家の戦力は壊滅状態ですが、もし魔界に再度侵攻なさるなら、今度は王家の影響下にない魔人族やデーモン族まで敵に回すこととなるでしょう」
「そうなれば、人間界側にも大きな被害が出ることは必定。お互いに殺し合って、どちらかが滅びるまで続けるつもりですか?」
「この条約は双方に利があり、結ばない理由などないはずです。英雄としての名声を独り占めしようと考えているのであれば反対すべきでしょうけど」
「陛下、スカーレット殿の申されていることは事実です。大量のミスリルをタダで手に入れることができるチャンスは他にありません。我が国の発展のためにもお受けするべきです」
レオニダスが再び援護射撃の発言をしてくれた。
皇帝レナルディオと宰相ヴィンセントの雰囲気が変わって、乗り気になっているように見える。
「ヴィンセント、このような意見が出たがお前の見解も聞かせてくれ」
「レオニダス殿が申されるとおり、大量のミスリルは非常に魅力です。このタイミングを逃せば、このような好条件で条約を結べない可能性が高いです」
「うむ、そうだな。スカーレット殿、この条件でお受けしようと思うが、他に何か言いたいことはあるか?」
条約については上手くいったようだ。
あとは食糧問題の支援をどれだけ受けられるかだ。
「はい、お願いがございます。我が国では農業生産力が低く、度々飢饉が発生しております。オーク族が略奪を行ったのも飢饉が原因であり、早急に改善の必要があると考えております」
「そこで、人間界から優秀な人材と作物の種、当面の食料を支援していただきたいのですが、いかがでしょうか」
「そういうことであれば、協力することもできなくはない。しかし、人間界からの支援は、我が国にとっても負担であることを忘れるな。作物の種と食料を提供するのであれば、魔界の特産品を十分な量で輸出することを条件とする」
「また、人間界からの人材派遣というのは、言い換えれば人質ではないか。魔界の者が学びに来るというのではどうか」
人質という単語にイシルがニヤリと笑った。
「陛下、ちょうどいい人物がいるではないですか。ベルモントですよ」
その名前が出た瞬間、全員の顔が曇る。
どうやら訳アリの人物らしい。