私とスカーレット、ゾルトの3人で即位の件を議論していたとき、絶望とも思える報告がもたらされた。
人間界の勇者一行が再び現れ、王都へ向かっているというのだ。
私は目の前が真っ暗になった。
父上や兄上、親衛隊がいても敵わなかった相手に私たちが敵うだろうか。
私の家臣はスカーレットとゾルト、マジェスティアから連れてきた20人の兵士だけなのだ。
「その勇者はセリオスですか?」
スカーレットが冷静な口調で兵士に訪ねた。
「いえ、今回はレオニダス一行のようです」
勇者レオニダスか……。
人間界には複数の勇者がいる。
父上を討ったのはセリオスだが、レオニダスはセリオスより強いと言われている。
最悪の事態だ。
「やはり、レオニダスですか……。これはまさに、絶好の機会かもしれません」
スカーレットはレオニダスだと確信していたのだろうか。
どういうこと……チャンス?どう考えてもピンチじゃないの?
「どうしてレオニダスだと分かったの?」
「まず、セリオスには攻める理由が無いからです。陛下を倒し、英雄として帰還したのですから、しばらくはゆっくり休んで傷を癒やしたいはずです」
「一方で同じ勇者でも、陛下との戦いに加われなかったレオニダスは焦りを感じています。何か1つでも手柄を立てたいとか……そういうことでしょう」
いや、さっぱり分からない。
ピンチというのは変わらないじゃないか。
「スカーレット殿、拙者にも分からないのだが、レオニダスだと何故チャンスなのだ?」
「先ほども言ったように、レオニダスは手柄に飢えています。これが私たちの切り札です。レオニダスの手柄と引き換えに、魔界の再建に必要なものを手に入れるのです」
「そんなことが本当に可能なの?」
もしこれが本当なら、素晴らしいことだ。
経済、食糧、治安、王都の復興など、現状の問題は山積みで、解決の見込みがない。
これで一挙に解決できるなんて、本当にうまくいくのだろうか……。
「はい。では説明します」
私とゾルトはスカーレットの話を聞いた。
それは……私が思いつきもしなかった、起死回生の一手だった。
「スカーレット……その案を採用します。早速、レオニダスを王都に迎えましょう」
私はスカーレットの案を受け入れることとした。
スカーレットの案というのは、魔界にとって都合のいい条件で降伏するというものだった。
その結果、様々な問題を一挙に解決できると見込んでいる。
そのためには、まずレオニダスを王都に迎える必要がある。
私はすぐに『レオニダス一行には手を出さない』、『レオニダス一行には敬意を払う』という命令を下した。
「殿下、ここで一言申し上げたいことがあります」
「なんでしょう?」
「殿下は今後も様々な困難に直面することでしょう。しかし、チャンスというものは最初は困難に見えるものなのです。冷静かつ大胆に対処できれば、自然とチャンスに変わるでしょう」
「そういうものなのか?」
「はい、これからそのことを実感することになります。もしものことがあれば私がサポートしますので、ご安心して会談に臨んでください」
こうして、私はレオニダスとの会談に臨むこととなった。