今日はゾルトとの勝負を行う日だ。
昨晩のうちにスカーレットと共に情報収集を行い、それぞれの馬の強さを確認した。
馬は全部で6頭おり、その中で特に強い2頭、普通の2頭、力不足の2頭に分類できる。
同じ強さの2頭の間には差がほとんどなく、真っ向勝負となれば技術の差がそのまま結果に直接影響するだろう。
ゾルトは競馬では不利となる巨漢なのだが、この勝負ではほとんど負けたことがないらしい。それほど高い乗馬技術を持っていることが分かる。
馬選びは私から選んだのだが、強い馬、普通の馬、力不足の馬をお互いに1頭ずつ選ぶこととなった。
つまり、選んだ馬によるハンデは無い。
私に有利なハンデがあるとすれば私の体重がゾルトに比べて軽いことなのだが、軍馬にとってはあまり影響がないようにも思える。
私とゾルトの勝負はマジェスティア中に広まっており、多くの住民が観戦に集まっていた。
黒い着物姿の私が入場すると、会場は大歓声に包まれた。
中には母の名前を叫ぶ者もいた。私の名前を知らないのだろうか……まだまだ知名度が足りないと痛感した。
「殿下、準備はよろしいですかな?」
「もちろんよ、いつでもいけるわ」
私とゾルトは1レース目の馬に乗り込み、スタート位置に着く。
旗が振り下ろされ、レースは開始した。
私は良いスタートを切れたのだが、ゾルトにどんどん引き離されていく。
結局、1レース目は私の惨敗となってしまった。
「殿下、上手く乗れていますよ。その調子です。次で巻き返しましょう!」
スカーレットが元気よく言った。負けた私を励まそうとしているのだろうか。
2レース目。スタート位置についた私は深呼吸をし、集中力を高める。
旗が振り下ろされると同時に、最高のスタートを切った。
ゾルトの馬が離れずに付いてくるが、そのままの態勢でゴールすることとなった。
なんとか1勝した私に観客は歓喜している。
よく見たら、スカーレットが観客にまざって応援の指揮を執っているようだ。
ここまでは1勝1敗。最後のレースで勝負がつく。
馬を乗り換え、再びスタート地点で深呼吸をする。
今度はゾルトと並んでスタートを切った。
お互い、脚を溜めつつ、最後のコーナーでムチを入れた。
激しいデッドヒートが繰り広げられ、僅かな差で私の馬が押し勝った。
勝った!
四天王のゾルトに!
と、私の脳内は興奮に包まれていたが、実はこれにはタネがある。
1レース目、ゾルトは強い馬、私は力不足の馬を選択し、ゾルトの勝ち。
2レース目、ゾルトは普通の馬、私は強い馬を選択し、私の勝ち。
3レース目、ゾルトは力不足の馬、私は普通の馬となり、私の勝ち。
初戦はゾルトの強い馬にわざと一番弱い馬で負けることで、2レース目、3レース目に馬の強さで優位に立っていたのだ。
それにしても、3レース目……馬の差があるにも関わらず、僅差まで持ってくるとは、さすがゾルトだな。
「殿下、作戦通り勝てましたね!」
そう、この作戦を考案したのはスカーレットだ。
ルールを聞いただけでこの作戦を思いつくとは……本当に味方で良かったと思う。
「参りました。約束通り、今後は家臣としてグロリア殿下にお仕えいたします」
ゾルトは私の下へ駆け寄り、臣下の礼をとった。
「ゾルト、お前も見事であった。お前ほどの豪傑を家臣にできるとは……私は幸せ者だな」
私がそう言うと、ゾルトは微笑んだようだった。
そして、観客に向けて大声でこう宣言した。
「この勝負、グロリア殿下の勝利とする。よって、マジェスティアはグロリア殿下の支配下に入る!魔王陛下以来の豪傑の誕生を祝おうぞ!」
ゾルトの敗北宣言によって、会場は拍手に包まれた。
私はマジェスティアの住民にも認められたのだ。
その晩、マジェスティア中で私の勝利を祝い、お祭り騒ぎとなった。
城内でも宴会が催され、飲みすぎた私は風に当たろうと中庭に出た。