その日の夜、私は鬨の声によって叩き起こされた。
慌てて着替えて屋敷を出ると、革鎧姿のセリアナが駆けてきた。
「何事だ、セリアナ!」
「殿下、山賊の襲撃です。危険ですから、避難してください!」
こんなタイミングで山賊とは……。
いや、違うな……。こんなタイミングだから襲撃してきたのだ。
父上が討たれたという情報は魔界中を駆け巡っているに違いない。
「私も戦います。多少は魔法の心得があるので、戦力になるはずです」
私は小さなマジックワンドを握りしめた。
初めての実戦になるだろうが、やるしかないようだ。
だが、怖い……。杖を持つ手が小刻みに震える。
「いいえ、殿下、避難してください。ガイランド!殿下を地下室に避難させて!」
セリアナは私の様子を見て、戦闘は無理だと判断したのかもしれない。
私はガイランドに引きずられて、集会所の地下室に避難させられた。
既に地下室には、年配者、子供、女性など、戦えない人が所狭しと詰め込まれていた。
私は入り口近くで杖を構えた。
山賊がここまで来た場合は、私が守らねばならない。
そう自分に言い聞かせるのだが、やはり震えが止まらない……。
外からは剣と剣のぶつかり合う音が絶え間なく聞こえてくる。
私がこうして震えている間にも、私達のために衛兵が戦っているのだ。
やがて、外の音が止んだ。
2~3時間程の戦闘だったはずだが、私には永遠のようにさえ感じられた。
入り口が開かれ、外に出た私は……思わず息を呑んだ。
あの美しい村が襲撃によって、変わり果てていた。
燃えている家、道に沿って倒れている兵士と手当てをする者、破壊された倉庫、そして山賊の死体。
「殿下、ご無事でしたか……山賊はなんとか撃退できましたが、この有様です」
「ガイランド……お前、その姿……」
ガイランドは他の兵士と並んで道に横たわっていた。
頭部に怪我をしているようで、包帯を巻かれているが出血で真っ赤に染まっている。
「私はなんとか無事です。それよりもセリアナが……」
ガイランドは絞るような声でそう言うと、村の中心地を指差した。
「セリアナ!セリアナ!」
私は必死でセリアナを探した。
やがて見つけたセリアナは、既に冷たくなっていた。
「セリアナ!目を覚まして!また一緒にケーキを食べるのでしょう!」
私は必死でセリアナに呼びかけたが、彼女は冷たく、目を開けることは無かった。
――
翌日、亡くなった村民の葬儀が行われた。
亡くなったのは5名。
私の親友はその中の1名だ。
「セリアナ……」
綺麗なドレスを着せられたセリアナに土が被せられていく。
もう……大好きなセリアナと話すことはできない。
「殿下、昨日の襲撃で山賊の頭と戦ったのはセリアナだったのです。激しい一騎打ちの末、相討ちとなり、残った山賊は撤退しました。私達が今日こうして生きているのはセリアナのおかげなのです……。本当にすごい人でした……」
包帯だらけのガイランドが、涙を流しながら昨日の出来事を語ってくれた。
「当たり前よ……。セリアナは……強いんだから……」
私は無力感で潰れそうだった。
襲撃時、私は震えで動くことができなかった。
戦うと言った私をセリアナが止めたのは、正しかったと思う。
もし、私が戦場にいたら、確実に足を引っ張っていただろうから。
敵の襲撃はこちらの準備が整っていない瞬間を狙ってくるものだ。
だから、常に備えをしておく必要がある。
私は多少の魔術を使えるが、実戦を想定した訓練をしていなかった。
セリアナは私と同じ歳なのに、山賊の頭と戦って相討ちに持ち込み、撤退に追い込んだのだ。
私と一緒にティータイムを楽しみつつも、日頃から鍛錬をしていたのだろう。
もし、私が十分な戦闘訓練をしていたとしたら……。
セリアナを救えただろうか。
意味のない想像なのは分かっているが、そう考えずにはいられなかった。