- 同時刻:マジェスティアの作戦会議室 -
「ゾルト、ヴァルゴン挙兵の報告が入ったわ。侵攻ルートは予想通り、マジェスティアになりそうよ」
副太守であり、拙者の妻であるレンナーラがそう告げた。
彼女の声には、冷静さの中にも微かな不安が滲んでいた。長年の戦いで培われた冷静さがその表情にも現れていた。
北部地区の情勢や進攻ルートの予想はスカーレット殿から聞いていたので、全て想定通りではあったが、相手がヴァルゴンとなると簡単なことではない。
また、要所であるマジェスティアが戦場となることで、この戦いの結果が国家の未来を左右することは明白だ。
「そうか、ではカイルとゾルテスをここに呼んでくれ。例の話をしようと思う」
レンナーラが2人を呼びに部屋を出た。
拙者は倉庫に向かい、陛下からの贈り物を作戦会議室に運んだ。
ついにこの日が来たか……。
「師匠、お呼びでしょうか」
カイルが元気よくやってきた。
息子のゾルテスも一緒だ。
「先ほど、ヴァルゴン挙兵の報告が入った。間もなく、このマジェスティアが戦場となるだろう。そこでそなたたち2人に大事な話があるのだ」
「ヴァルゴン……あの四天王最強だったヴァルゴンですか!?」
「そうだ。前に話したことがあるかもしれないが、ヴァルゴンは戦の最初に一騎打ちを申し込み、勢いをつけようとするだろう。そこで、ヴァルゴンの相手はカイル、お前に任せたいのだ」
「俺にヴァルゴンの相手ができるでしょうか?」
「拙者の見立てでは、ヴァルゴンの方が強いと思う。しかし、拙者の強化魔法で強化し、性能の良い武具を使えば互角の勝負ができると考えておる」
拙者は陛下からの贈り物の箱を全て開けた。
箱の中にはカイルとゾルテスのために作製された、白く輝くミスリル製の武具が入っていた。
その武具からは、見る者を圧倒するほどの美しさと力強さが感じられた。
カイルには双剣と軽量鎧一式、そして王家の紋章の入ったマント。
ゾルテスには大剣とヘビーアーマー一式、そして王家の紋章の入ったマント。
いずれも魔界最高のミスリル職人が作った、最高の武具といえる逸品だ。
ミスリルの細工は精緻を極め、武具の表面には魔法のルーンが刻まれていた。
それらは強力な魔力を秘め、戦士の力を引き出す。
「こ、これは俺たちの武具……でしょうか?」
「そうだ。そして、陛下からカイルに『勇者』の称号が与えられた」
拙者は陛下からいただいた認定証明書をカイルとゾルテスの前に置いた。
「『勇者』とはどのような称号なのでしょうか?」
「国を守るため、勇気、正義、強さを持つ者を指す。人間界で使われている称号だが、魔界でも使えるように拙者が進言したのだ。カイルは『勇者』として、ゾルテスはその勇者を守る盾として、国に尽くしてもらいたい」
『勇者』の称号が持つ重みは、単なる名誉以上のものであり、国の希望そのものを象徴するものだ。
この計画はグリーンヘイヴンでカイルを弟子にした際、陛下にお願いしたものである。
ヴァルゴンの相手をさせることになるとは、あのときは全く予想していないことだったのだが。
「その『勇者』として初仕事がヴァルゴンの相手だなんて……いくらなんでも無茶すぎませんか?」
「大丈夫だ。お前なら必ずやりとげると信じている」
実際、拙者との修行でカイルは相当強くなった。
元々強かったのだが、カイルは我流だったので動きに無駄も多く、練習方法にも改善すべき点が多かった。
拙者はカイルの良さを残しつつ、これらの問題点を解決していった。
ゾルテスにはオーガ流の奥義を伝授した。
これは大剣を使う技なのでカイルには使うことができないのだが、ゾルテスがカイルを守るために役立つだろう。
「分かりました。俺も師匠を信じます」
こうして、魔界にも『勇者』が誕生した。