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第48話 魔界改造計画

「陛下から魔力切れ問題をお聞きし、私なりに考えたことがあるのです。聞いていただけますか」


「もちろんよ。解決できそうかしら?」


 ルナティカ村で倒れたとき、私はすがるような思いでスカーレットに手紙を書いていた。

 私が戻るまでの間、一所懸命に解決案を考えてくれたのだろう。

 どんな答えが出てくるのかを考えると、心臓がバクバクと激しい鼓動をしていることに気づく。


「まず、先程の会議で申し上げたように、国営農場を区画割りすることで魔法を使いやすくします。陛下の魔力量であれば、おそらく問題はありませんが、それでも解決しない場合は、さらに区画を半分にすることも検討しています」


「100分割するということは、最短でも100日掛かるということよね……。もう少し早くなるといいのだけど」


「焦る必要はありません。区画にする理由は、瘴気が消えた区画から並行作業で農作業を開始できるという利点があるからです」


 魔力の量という数字の問題に対して、スカーレットが出した答えは単純な算数による解だった。

 問題解決はシンプルな方が良いとスカーレットはよく言うのだけど、なるほどと思える答えだ。


「季節に合った作物を植えるタイミングがあれば、早い段階から収穫が始まることになりますね」


「陛下が全ての区画の瘴気を消す前に、最初の収穫が始まる予定ですよ」


 作物によっては2ヶ月程度で収穫できるものがあるらしい。

 瘴気が消えた区画からどんどん植えていくなんて、毎日変わっていく景色を楽しめるじゃない。


「素晴らしいわね。他に案があるのかしら?」


「念の為、陛下の支配地区全域に『光属性を持つ者を探す』という触れを出します。私や陛下がそうであるように、人間界の血を引く者もそれなりにいます。珍しいので気付いていないケースや周りと違うことを気にして隠している者がいるかもしれません。そこで光属性を持つ者を高給で召し抱えます」


 光属性は私しか使えないので、どんなに忙しくても私がやるしか無いと思っていたのだけど、他にいるなら話は変わってくる。

 魔界の将来を考えると、もっといたほうがいいわよね。


「もし、他に見つかれば……国営農場計画が早まるわね」


「それだけではありません。国営農場が南門から1キロの位置となるのは陛下の安全を考慮してのことです。もし、他の者が見つかれば王都から離れたところにも国営農場を作ることができます」


「魔界改造計画といったところかしら。聞いただけでワクワクしてくるわね」


「現状、陛下の魔法に頼らざるを得ませんが、やはり陛下は不器用すぎると思いますので、魔力制御の稽古は続けてもらいます」


 えっ!?

 ちょっと、スカーレット……。突然何を言い出すの!


「はっきり言ってくれるわね。でも、そこまで不器用じゃないと思うけど?」


「不器用ですよ。アイリーン様の娘なのに音痴ですし」


「そ……それは、言わない約束じゃない!というか、魔法と関係ないでしょ」


 私のコンプレックス……。それは魔法が下手なことよりも、音痴なこと。

 よりによって母上が歌姫だもんね。みんな私の歌に期待し、そして残念な顔をする。


 どちらといえば、魔法よりも歌の練習をしたいくらい。


「ともかく、出発前より上手くなっているのは分かりますので、引き続き続けていただきます」


「分かったけど……なんだか腑に落ちないわね」



「最後にもう1つあります。人間界と魔界とで魔法の使い方に大きな差がありますよね、分かりますか?」


「癒やし(ヒール)魔法かしら。魔界では癒やしの魔法が使えないわね」


「そうです。人間界の勇者一行が魔界を蹂躙できたのも、癒やし魔法の有無が極めて大きいと考えています。しかし、魔界には人間界のように神はおらず、人間界と同じ魔法は覚えることができないのです」


 魔法には色々な体系がある。

 人間界と魔界では種族や環境の違いで、その体系にも違いがある。


 例えば、私が使う光属性や、スカーレットの無属性は魔界では使えるものが少ない。

 逆に闇属性は人間界で使えるものがいない。


 そして最大の違いが、魔界には癒やし魔法が存在しないことだ。

 人間界の癒やし魔法は、人間界の神の力を使うと言われており、魔界の住民には使うことができない。

 人間界の勇者一行には癒やし魔法の使い手がおり、ダメージを即座に回復できてしまうため、魔力があるうちは何度でも立ち上げって戦うことができるのだ。

 これは人間界と戦うときに、魔界側に大きなハンデとなる。


 でも、なんだか不思議。

 なぜ人間界の神の力が魔界に届くのだろう。別の世界なのに。

 それほど人間界の神は強い力を持っているのだろうか。


「まさか、魔界に人間界の神を布教するとか?」


「いいえ、人間界の癒やし魔法は『神聖魔法』という神の力を使ったものですが、魔界が目指すべきは『医療魔法』とでも言うものです」


 スカーレットは人間界の魔法を魔界でも取り入れるということでなく、新しい魔法体系を作り出すということなのだろう。

 相変わらずとんでもないことを言い出したのだが、そう簡単なことではない。


 新たな魔法体系を作り出すには、既存の魔法体系とは異なる概念を生み出すため、いわゆる天才タイプの閃きが必要になるのだ。


「また凄いことを言い出した……。相変わらず容赦しないわね」


「『医療魔法』は医療行為を魔法化したもので、自然治癒力を魔法でブーストすると考えてください」


「面白いけど、それって新しく魔法を開発するのよね。誰が担当するの?」


「それが一番の課題です。魔法の達人だと過去の経験が邪魔すると言われています。むしろ、斬新な考え方ができる、センスのある者が適任と考えていたのですが、ちょうどいい人選ができませんでした」


「まだ見つからないの?」


「いえ、先程見つけました。侍女のアメリアです。彼女を選んだ理由は、独創性とセンスにあります」


 アメリア!

 そうか、彼女なら……うまくいくかもしれない。

 彼女の魔法はほぼ我流だし、『髪を乾かす魔法』を即座に再現できるほど、センスがいいのだから。


「言われてみれば、丁度いい感じがするわね。あの子、常識が全く無いけど頭の回転はすごく早いのよ」


「陛下が良いのであれば、アメリアを使いましょう。上手く行けばいいですね」


 アメリアとカイル君、この若い双子に国の命運を左右する重要な計画を委ねることになるとは……。

 初めて会った時は予想もつかなかったことだ。


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