「レスタリオン将軍、ヴァルゴンの計画についても説明をお願いできますか」
「私が掴んだ情報になりますが、近いうちに陛下の従兄弟にあたるブレンダル殿下を王に擁立し、城塞都市ソルステリアを首都として独立するつもりのようです」
独立……。
暗殺ばかり警戒していたけど、そういう手段もあるのね。
「ということは、いきなり戦争になるということはなさそうですが、最終的には全面戦争で雌雄を決するということになりますね」
「はい、スカーレット宰相のおっしゃるとおりです。北部地区はほぼヴァルゴンが掌握していますが、まだ準備が整っている訳ではありません。恐らくは準備が整い次第、ヴァルゴン自ら軍を率いて攻め込んで来ると思われます」
「ヴァルゴンはどのくらい強いのでしょうか?」
ヴァルゴンはかつて四天王首席だった男だ。
父上が王都最強の部隊を彼に任せたと聞いているので、将軍としての能力もかなり高いのだろう。
「ヴァルゴンは人間界の勇者一行、テオドール様と陛下を襲撃した際と、失敗続きですが、本来は無敗将軍と言われるほど強いです。まともに戦えば、おそらく勝つことは難しいでしょう」
「こちらにはゾルト、ゾルガリスの将軍がいますが、彼らが戦っても難しいですか?」
「ヴァルゴンの戦術はシンプルです。まず一騎打ちを仕掛け、相手が乗ってくればそのまま討ち取り、乗ってこなければ臆病者と罵ることで両軍の士気に差が生じたタイミングで一気に力押しをします。戦術が分かっていてもシンプル故に対処が難しいのです」
「なるほど、そうですか……。そうなると、ゾルト殿が鍵になりそうですね」
スカーレットはそう言うと、腕を組んで考え始めた。
「スカーレット、なぜゾルトが鍵となるの?」
スカーレットは立ち上がり、地図上でソルステリアを指差し、マジェスティアまでのルートをゆっくりとなぞった。
「ソルステリアから王都に向かうルートはマジェスティアの近くを通るのです。私がヴァルゴンであれば、挟み撃ちになることを恐れ、まずマジェスティアを落としてから王都へ向かいます。以前テオドール様とヴァルゴンに襲撃された場所もマジェスティアの近くでしたよね」
確かに、私が襲撃されたのはマジェスティアとノヴァレインの中間地点だった。
やはり、マジェスティアをゾルトが守りきれるかが王国存亡の分かれ道となるようだ……。
ゾルトの肩には重大な責任がのしかかっていることに私は気付いた。
それと同時に、私はゾルトの計画を思い出していた。
そうか……もしかしたらゾルトはこの事態を予測していたのかもしれない。
「レスタリオン将軍!この国を守るにはどうすべきか、あなたの意見を聞かせてくれますか」
「先ほども申し上げたとおり、ヴァルゴン側はまだ準備が整っておりません。ですから、こちらが先に兵士の訓練、兵糧、城の防備を万全としなければなりません。また、我らがこの情報を知っていることを向こうは知りませんので、気付かれないよう慎重に進める必要もあります」
「スカーレットはどう思う?」
「レスタリオン将軍と同意見です。その上で被害を最小限に抑え、確実にヴァルゴンを討ち取る策も考えねばなりません」
ヴァルゴンを討つ……。
スカーレットは簡単に言うけど、そのためには野戦かヴァルゴンの立て籠もる城を落とす必要がある。
そんなことは可能なのだろうか……。