アメリアと馬車の中で魔法の練習すること数日、私たちはマジェスティアに戻ってきた。
レンナーラとの約束通り、ゾルトとはここで別れることとなる。
ゾルトが弟子にしたカイル君ともここで別れることになるのだが、カイル君はアメリアと離れるのが辛いらしく、ここ数日は彼女に寄り添ってばかりいた。
そのせいでアメリアは彼の執着に少々うんざりしていたようだ。
「ちょっとカイル!いい加減にしてくれる?」
ぷんぷん怒っているアメリアはかわいいが、本人はそれどころじゃないのだろう。
「分かってるよ、分かってるんだよ……。分かってるんだけどさあ、俺はアメリアが心配なんだよ」
「カイルの気持ちは分かるよ。でもさ、カイルは今一番大事な時期なんだよ。ゾルト将軍に鍛えてもらって、もっと強くなって、そしたらまたウチを守ってよ」
アメリアはカイル君をぎゅっと抱きしめた。
二人とも目に涙を浮かべている。
カイル君が言ってたのだけど、カイル君にとって妹は自分自身と同じなのだそう。
物心がついた頃から、おそろいの服を着てずっと隣にいた存在。
同じものを食べ、同じ景色を見て、一緒に泣いたり笑ったりしていたのだ。
私にも兄様がいるけれど、双子という存在は想像以上に強い絆で結ばれているのだろう。
双子の別れを見届けた後、ゾルトが私のもとに近づいて、小声で話しかけた。
「カイルのことなのですが、陛下にお願いがございます」
「私にお願い?」
「はい。カイルのために、陛下に用意していただきたいものがあるのです」
そう言って、ゾルトはカイル君を弟子とした目的を話し始めた。
それは私の想像を超えた計画であり、ゾルト自身にとっても人生最大の大仕事となることが予想できた。
「それは……カイル君に伝えたの?」
「いえ、まだその時ではないと考えています。来たるべきその時に備えて、陛下に準備をお願いしたく」
「分かりました。そういうことであれば喜んで準備しましょう。その計画、私も支持します」
「ありがとうございます。これで安心してカイルと鍛えることができます。我が息子にとってもよい練習相手になるでしょうし、良いことづくめです」
えっ、今、息子がどうとか言ってなかった?
「ねえ、今、息子って……」
「はい、拙者とレンナーラの息子、ゾルテスがカイルと同じ歳なので共に鍛えようと思っております。後ほど、レンナーラと共に挨拶させます」
えっと……うん。レンナーラの時と同じ展開だよね。
私、ゾルトのこと、本当に何も知らないのね。
「ねえ……ゾルト。ゾルトの家族は他に誰がいるの?」
「拙者、家族の話を全然していませんでしたね。他には娘が2人おります」
やっぱり……他にもいるんだ。
なんとなく、そんな気はしていたけども。
「あのね、ゾルト。国ももちろん大事だけど、家族のこともちゃんと大事にしてあげてね。あなたの家族は私にとっても家族同然なんだから」
「お気遣いありがとうございます。短い間でしたが、陛下のお側でお仕えできて、拙者は幸せでした」
「ゾルト、今まで私を守ってくれてありがとう。あなたがいなかったら、私はとっくに死んでいたわ」
「勿体ないお言葉です。陛下、どうか無理をなさらないように。また会える日を楽しみにしております」
これは永遠の別れではない。
ゾルトは今までもこれからも、私が最も信頼する家臣なのだ。
――
出発前、レンナーラとゾルテスが私を訪ねてきた。
ゾルテスは私より年下だけど既に2m近い大男で、筋骨隆々のゾルトによく似ていた。
父親の名に負けないよう鍛錬してきたことが想像できる。
「陛下、約束を守っていただき、ありがとうございました。ゾルトが無傷で戻ってきて、久しぶりに家族の時間が作れそうです」
レンナーラが深々と頭を下げた。
「さっき、ゾルトにも言ったのだけど、あなたの家族は私にとっても家族同然なのよ。だから家族の時間を大事にしてね」
「はい!陛下にこのような優しい言葉をかけていただけるなんて、光栄です。この御恩は忘れません」
「レンナーラ、ゾルトから聞いているとは思うけど、カイル君をお願いね」
「承知しました。私も息子が増えたようで楽しみです」
「ありがとう。レンナーラにそう言ってもらえたら安心ね」
私はレンナーラと固く握手を交わし、マジェスティアを後にした。
次に会えるのはいつになるのだろうか。