レンナーラとの約束を守るため、私たちは城塞都市マジェスティアへ戻っていった。
今までの道中は男ばかりで心が休まらなかったが、今はかわいい侍女と一緒に馬車へ乗っている。
馬車の中は暖かい雰囲気に包まれていた。
窓から差し込む日差しは穏やかで、外の風景がゆっくりと流れていく様子が感じられた。
私は侍女のアメリアと向かい合って座り、微笑みながら会話を楽しんでいた。
「ねえ、まっぴー。マジェスティアに着いたら、カイルはゾルトのおっさんと一緒に離脱するんだよね?」
前言撤回。
この言葉遣いだけは、どうにも慣れない。
別な意味で心が休まらないのよね。
「そうね。カイル君はゾルトの弟子になったから、しばらくはお別れになるけど寂しい?」
「ウチらは双子だから生まれた頃からずっと一緒だったけど、いつかは自分の人生を歩むことになるでしょ。カイルにとっては今がその時なんだよね。少し寂しいけど、二度と会えない訳じゃないし、ウチは大丈夫だよ」
言葉遣いは怪しいけど、アメリアはしっかりした考えを持っているようで少し安心した。
兄のカイル君はアメリアと離れ離れになるということで、落ち込んでいるみたいだけどね。
「そういえば、アメリアは魔力制御が得意なんだよね?私はあまり上手くないみたいなので、ちょっと見てくれるかな」
「りょ。じゃあ、ここで使ってもへーきな魔法を使ってもろて」
私は煌輝羽衣を使って、10匹くらいの蝶を出してみせた。
アメリアはじっとそれを見ていたが、しばらくして深い溜息をついた。
「ちょっと、溜息は止めてくれる?さすがに落ち込むわよ」
「まっぴーの魔力制御が下手だとは聞いていたけど、予想以上すぎて……さげみざわ」
言葉の意味はよく分からないが、とにかくすごく問題があることは理解できた。
「具体的にどこが問題なの?」
「簡単に言うとね、魔力100で使える魔法に150くらい使っている感じ。特に魔法の使い始めで魔力放出が遅いのと、無駄に魔力を垂れ流しているのが原因ね」
えっ、そこまでひどいの?
でも、逆に言えばこれが解決すれば、魔力の使いすぎで倒れることもないのかしら。
「なるほど、それほどなのね……。どうやって直したらいいか分かる?」
「まっぴーは頭で考えすぎなので、感覚で使えるようにしたほうがいいと思う。ウチが適当な数字を言うから、その数の蝶を出してみよっか」
ちょっとだけやってみたが、思った以上に難しい。
ちゃんと出しているつもりなのに、多かったり少なかったり……。
自分が想像していたより、私は本当に制御ができていないことが認識できた。
「これは問題よね……。アメリア、もう少し続けてくれるかしら」
「じゃあ、もし間違えたり遅かったりしたら、ウチがまっぴーにデコピンするってのはどう?それなら集中できるっしょ」
アメリアは可憐な少女なのだが、魔人族なので見かけによらず怪力という可能性もある。
ちょっと怖いけど、ここで止めるわけにもいかないな。
「よし、それでいこう」
「ではいきますよ~。3、6、1、3……。はい、間違えました~。デコピンいくよお」
バチン!という音とともに、私の額に激痛が走る。
痛い!
やっぱり魔人族は筋力が違う。なんかずるい。
――
「おや、陛下……。額どうなされました?ずいぶんと赤くなっていますが」
夕食の際、ゾルトが私の額に気付いたようだ。
それを見たカイル君、青ざめた顔でアメリアをどこかに連れて行った。
さすが双子だよね。妹の仕業だとすぐに気付いたのだろう。
「これね……名誉の負傷といったところかしら……」
「?」
ゾルトが不思議な顔をしたので、私は思わず笑ってしまった。
アメリアは相当変わった子だけど、笑いの尽きない日々が送れそうだ。