私たちが全員無事で戻ってきたのを見て、グリーンヘイヴンは騒然とした。
長老の家の前には、安堵の表情を浮かべた村の者たちが集まり、一部では歓声が上がっている。
家々からは喜びの声が聞こえ、村全体が無事な帰還を祝福している。
長老は不安と緊張が入り混じった表情を浮かべ、彼の目は地面を見つめていた。
彼の心は新たな支配者との関係について揺れ動いているようだった。
「皆様……ご無事でしたか。フェルドリムは一体……?」
長老はためらいながらも私たちに向き直り、口ごもるように言葉を紡いだ。その間、彼の手が微かに震えているのが見受けられた。
「フェルドリムなら、もちろん倒したわよ。洞窟を確認してもらえるかしら」
長老は慌てた様子で、村の者を確認に行かせた。
1時間ほどすると、確認に行った者が興奮して戻ってきた。
「魔王陛下のおっしゃるとおり、フェルドリムが殺されていました。これで奴に怯えることもないのですね!」
「い、一体……どうやって……?」
「『どうやって』ですって? おかしいわね……酒で寝かせれば倒せるって言ってなかったかしら」
「いや、それはその……」
「そういえば、フェルドリムが言っていたわよ。『酒なんかで倒せないことはお前たちが知っているはず』だって。どういう意味なのか説明していただけるかしら」
「……」
長老の額から脂汗がダラダラ垂れてくる様を見ながら、私はやや過度に振る舞ったことを反省した。
でも、カイル兄妹がこれまでに味わった苦しみに比べれば、このくらい……とも思った。
「陛下、そのくらいにしておきましょうか。グリーンヘイヴンは王国の統治下に入ることとなりますので、この者も陛下の民ということになります」
「そうね、約束どおり王国の支配下に入ってもらいましょう。異論はないはずよね?」
「はい、約束ですから……」
「そう構えないで大丈夫よ。食料支援や経済交流も増えるのでメリットの方が大きいはずよ」
長老は肩を落としていた。きっと自分の発言を後悔しているのだろう。
だが、いずれは王国の統治下に入って良かったと思うようになるかもしれない。
そうなるように、私は良い国づくりを進めなければならない。
――
「陛下!アメリアを連れてきました」
カイル君に手を引かれてやってきたアメリアは、周囲の注目を集める中、かわいらしい笑顔を浮かべていた。
華奢で小柄な体型に白いワンピースを着た彼女はとてもかわいらしく、今すぐ抱きしめたいと思えるほどだった。
「アメリアと申します。この度はカイルの我儘につきあってもらい、私の命まで助けていただいたとのこと。本当にありがとうございました」
「アメリアは魔法が得意で、特に魔力の制御が上手いと言われているんですよ」
アメリアの事を話すカイル君は本当にかわいい。
双子の妹が本当に大好きなんだね。
「そういうことなら、魔力制御の秘訣でも教わろうかしら。カイル君から聞いていると思うけど、アメリアも私と一緒に来てくれるかしら?」
「はい、喜んで。ウチとまっぴーはズッ友だからね」
ん?まっぴー?ズッ友?
えっと……一体何を言っているのかしら。
「あ、陛下……申し訳ありません。こいつ、村の若者言葉が口癖になってまして、変な話し方になってるんです……。決して悪気はないんですよ」
「カイル、悪気なんてあるわけないじゃん。まっぴーは命の恩人なんだから、ウチは一生お仕えするつもりだよ」
「あのさ、アメリア……。その『まっぴー』ってのは何?」
私はアメリアに尋ねてみた。
それ、ずっと気になっているんだよ。
「魔王だからまっぴー。鬼かわっしょ?」
うーむ、わけがわからない……。
この村の若者はみんな、こんな変な言葉遣いなのだろうか。
「あ、うん……かわいいとは思うんだけどさ。2人でいるときはともかくとして、公の場では問題になりそうなんだよね」
「え~、仕方がないなあ。公の場では陛下と呼ぶことにするから、普段はまっぴーでいい?」
「じゃあ、それでいいよ。アメリアは今から私の侍女になるということで決定だね」
「まっぴーの侍女とか、エモすぎっしょ。まじやばたにえん」
私はかわいい侍女ができたことを喜びつつも、その言葉遣いが周りに伝染しないかが心配になっていた。
特に私が一番気をつけねば……。