「あのさ、ちょっといいかな?」
動く事ができないからよくはわからないが、どうやらここはファンタジー世界の貴族屋敷のようだ。
「相談したい事があるんだけど……」
話しかけただけで驚かれた。目を丸くし、口は半開きのまま固まっている。
擬音を入れるなら“ぽか~ん”だな。
でもね、わかるよ、わかるんだ。そりゃあ俺に話しかけられても困るのはわかる。でもさ、どう考えても自分一人では解決できなさそうな問題なんだ。知恵を借りたい気持を理解して欲しい。
まってまって、逃げたい気持ちもわかるからさ。だからってそんなあからさまに距離を取る事はないじゃないか。そんなにこの場にいるのが辛いって事?
……ひどいなぁ、もう。
「俺だって、
「はあ、そうですか……」
「そりゃあね、自分の部屋に置いてあるぬいぐるみが、いきなり話しかけて来たら驚くのは仕方がないと思う。でもね、この部屋にリアルタイプ三葉虫のぬいぐるみが置いてあるのは俺のせいじゃないよね。せめてここはペンギンとかイルカとかじゃないのか?」
「それ……アノマロカリスです」
「わかるか!」
わかるかそんなもん。つか、問題はそこじゃないっての。
「あのさ……。コンビニの帰りにマンションから落ちて来た植木鉢に当たって三葉虫のぬいぐるみに転生したら、持ち主は悪役令嬢にTS転生した
「そ、そんな事、言われてもわかりません……それからアノマロカリスです」
「なんでオドオドしてんだよ! お前、俺だろ? 元魔王だろ? ああもう、なんかイライラするな~」
「お、落ち着きましょうよ。えと……私さん?」
なんかスゲー他人事スタンス。もうちょい親身になろうぜ、俺。
「ぬいぐるみに転生した気持ちわかるか? 動けねぇんだぞ? 熱くて蒸れるし湿気はすぐに吸うし。そもそも体内は綿だらけで生きてる実感ねぇんだよ。おまけにアレだ、ぬいぐるみにならないとわからないんだけどよ……」
「あ、はい……なんでしょう?」
「体内にいるんだよ」
「なにが、ですか?」
「モゾモゾしてんだよ。大量のダニが体内で
バッチリ想像しやがったな。『ひいっ……』と声を漏らしてその場に座り込む令嬢の方の俺。真っ青な顔色がここからでも見える。
「寄らないでください……」
「寄れと言われても無理」
「は、離れて下さい……」
「だから無理」
よろよろと立ち上がり、サイドチェストに寄りかかる令嬢の方の俺。
「じゃあ……」
「ん? ……オイオイ、チョットマテよ俺!」
「燃やしますね」
手には燭台、ロウソクに火が灯っている。
「おいおいおいおいおい、なにやってんだ、ダニくらいで! お前が着ている服やベッドにだっているじゃねえか」
「駄目です。体内でモゾモゾを想像してしまったので……フフフッ」
うわ、マジか~。こいつ、転生してサイコさん属性まで付いていたのか~。仕方がない。やられる前にやる! これが生き残る鉄則だ。
俺が転生する時に手に入れたチートスキル。その名も……
「【
“ぼぼん!”という音をまとった白い煙と共に、“悪役令嬢にTS転生した
――カランッと音を立ててころがる燭台。
「ええ、なんてことを……戻してください~」
「あ、無理。その魔法戻らないから。ざまぁみろだ、なにもできねえだろ。ま、俺も同じなんだけどな」
「ひどい……大体ぬいぐるみなのに魔法使えるとかおかしくないですか?」
「そう言われてもなぁ。貰ったチートスキルだし。詠唱もなにもなしで、思ったら即発動!
「あ、そんな事を言ったら……」
「……」
「……ぇ?」
「……」
「……あ⁉」
その時……この世界で動くものは、機械仕掛けの時計と太陽だけになった。
マジか~。やっちまった。人間も犬も猫も鳥も、全てぬいぐるみ化してしまった。
でも俺だけぬいぐるみになっているとか不公平だからな。人類総ぬいぐるみでもいいじゃないか。
これなら人種問題も差別問題も領土問題もなにも起こらないぞ。
それに今は最高にすがすがしい気分なんだ。もぞもぞしなくなって最高にスッキリしているんだ。
なんたって、体内で蠢いていたダニもぬいぐるみになったのだから!
まあ、それはそれとして……
あのロウソクの火、
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