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第80話 もっとはじけろ! コーラ星人

 ビービービー。


 船内に作戦開始を告げるブザーが響いた。

 俺がオペレーターを担当するセブンソードの出撃順は最後だ。


 出撃まではモニタで戦況を確認することとなっている。

 敵の数、機体の性能、地形の影響……さまざまなデータがモニタ上に流れている。

 俺は画面を食い入るように見つめる。手のひらが汗ばむのを感じた。モニタ上の数値は冷静なものだけれど、実際の戦場ではその一つ一つが生死を分ける情報だ。


 俺の視線は自然とカトー氏の動きに引き寄せられた。

 彼の戦い方はまるで教科書のように洗練されている。それなのに、どこか型破りでもある。

 定石通りの動きかと思えば、次の瞬間には奇想天外な立ち回りを見せる。敵が追いついたと思ったら、すでに別の場所から撃ち込まれている。まるで戦場に溶け込むかのような動きをするのだ。


 深夜の闇に加え、雷雲が広がり、さらに暗さを増していた。

 暗視能力の高さが活かされる状況だと思う。


 出撃したカトー氏は敵軍の前方1キロ地点から遠距離射撃を開始した。

 通常、狙撃というものはどこから撃ったのか分からないようにするものらしいが、カトー氏はあえて居場所が分かるように攻撃を行った。

 レーダーを見ると、敵はMkⅡを包囲するような陣形をとり、カトー氏に向かって動き始めた。


 砲撃の閃光が雷雲の闇を切り裂き、次々と爆発が起こる。敵軍は混乱しながらも、狙撃手の位置を特定しようと動きを止めた。その瞬間を狙い澄まして、カトー氏は次の一撃を放つ。

 カトー氏は一定の戦果を上げたことを確認し、一旦帰還した。

 ボス氏は敵軍の動きをレーダーで確認し、背後を取る形で再びカトー氏を出撃させた。

 背後からの再度の射撃により、敵軍の混乱がレーダー上ではっきりと確認できた。


 カトー氏の攻撃で、敵の地上部隊は混乱している。

 だが、空を見上げれば、まだ脅威は残っていた。複数の戦闘機が高速で旋回しながらMkⅡの位置を探っている。迎撃しなければ、地上戦の優位もに崩れるかもしれない。


 ここでナミ氏が出撃した。

 ナミ氏のガンガルウィングは赤のパーソナルカラーだったが、今回は闇へ溶け込むような黒に変更している。

 ウィングはまるで影のように宙を舞い、敵戦闘機の後方へと素早く回り込む。レーダーに映らないことをいいことに、一方的な狩りを楽しむかのようだった。


「イチロー、まずいことになったぞ」


「サクラ氏、どうした?」


 突然、サクラ氏からの通信が入ったので、何かトラブルでも発生したのかとドキドキしたのだが……。


「このままじゃ、私たちの出番が無くなっちまう!」


「いや、それならそれでいいじゃん。二階堂氏、何かフォローしてよ」


「サクラ、ちょっと落ち着こうよ。多分、ちゃんと出番はあると思うからさ。そのための専用装備も用意したんだしさ」


「そうは言うけどさ、私は暴れたいんだよ……」


 怖いなあ……。

 もう40代なんだから、少し落ち着いたらいいのに。


「サクラ、ずいぶんと苛ついているようだが、出番だぞ。暴れてこい」


「遅いぞ、ハゲおやじ。私抜きで終わるかと、ヒヤヒヤしちゃったじゃないか。作戦どおり、きちんと終わらせてやるぜ!」


 サクラ氏の声には、焦りと不満が入り混じっていた。彼女はこういう戦闘の場を何よりも楽しむタイプだからね。

 出撃が遅れることが、彼女にとってどれほどのストレスだったか……想像に難くない。


「じゃあ、サクラ氏。転送行くよ。3……2……1……GO!」


 サクラ氏の転送位置は破壊ロボットの100m上空だ。

 武器はグングニルと名付けられた巨大な槍を装備している。

 光を反射する槍の鋭利な穂先が、雷の閃光に照らされ、一瞬だけ戦場を煌めかせる。これがサクラ氏の戦場への登場の合図だった。


 カトー氏とナミ氏が破壊ロボットの周りをクルクル回りながら攻撃をしているので、破壊ロボットの位置を固定することに成功している。

 そこに、グングニルを構えたセブンソードが急降下してくるという作戦だ。


「うおおおおっ!」


 ガン!!!


 周囲に轟音が響いた。

 衝撃が大気を震わせ、砂煙が巻き上がる。爆風が俺のモニタ越しにも伝わってくるかのようだ。セブンソードの影がぼんやりと煙の中に揺らめく。


 グングニルは破壊ロボットの装甲を突き破り、背中に突き刺さっていた。

 だが、破壊ロボットはその状態で活動を続けている。さすがに強いな。


「サクラ氏、作戦プランBだ。ガンガルブレードを転送する」


「いつでもいいぞ」


 俺は実体剣のガンガルブレードをセブンソードのすぐ横に転送した。

 さすがはサクラ氏。素早く剣を掴むと、接近戦を開始した。


「イオン発生装置作動!」


 イオン発生装置というのは、グングニルのオプション装備だ。

 一応ボス氏から説明を受けたのだけど、イマイチ何のために使うものなのかよく分からなかった。とにかく、俺は遠隔操作で装置を作動させた。


 サクラ氏が接近戦に突入すると、カトー氏は後方へ、ナミ氏は上空へと移動し、援護射撃を開始した。

 特にカトー氏のMkⅡは武器をレールガンに変更したのだが、これがなかなか凄い武器だった。命中する度に凄まじい音を立て、破壊ロボットがバランスを崩している。

 そこにセブンソードの回転斬りが脚を襲う。

 ウィングは上空からビーム砲台を正確に撃ち抜いていった。


 この3機は各自の強みを活かしながら、互いをサポートし合っていた。

 阿吽の呼吸というのは、このような状況を指すのだろう。

 それほど見事な連携だった。


「くそっ、こいつなかなか硬いな」


「サクラ氏、ちゃんとダメージは入っているよ。脚は2本が機能停止しているし、もう少しだ」


 ズガガーン!


 そのとき、破壊ロボットに突き刺さったグングニルへ雷が落ちた。雷のエネルギーはグングニルを通して、破壊ロボット内部へ伝わったはずだ。

 高圧電流が内部の回路を焼き尽くす音がかすかに聞こえた。そして、破壊ロボットの動きが、まるで壊れた人形のようにぎくしゃくと鈍くなった。


「動きが止まったぞ、一気に行くぞ!」


 3機は一瞬動きを止め、息を合わせて一斉攻撃に移った。

 やがて、破壊ロボットの脚はすべて切断され、胴体は穴だらけになり、ついに活動を停止した。


 やった!

 俺たちの勝利だ。


 ちなみに、このマラカイボという土地は非常に雷が多いのだそう。

 そこで、ボス氏はこの地を通る際に強襲することを選択した。

 雷が落ちやすいようにグングニルの持ち手部分を尖らせ、イオン発生装置を装備させたのはハカセの案だ。


「この勝利は全員で掴んだものだな。誰一人欠けても上手くいかなかったと思う」


 帰還したサクラ氏がそう言うものだから、皆ちょっと驚いた。

 でも、俺もそう思う。

 俺たちは誰一人欠けてもダメなんだよ。


「サクラ氏、俺もそう思うよ。思えば、俺たち7人が生き残ったというのは偶然という言葉で片付けられるものではないね」


「ついでに言えば、二階堂さんとの出会いや地球に来たのも、あまりに出来過ぎだな。俺たちは本当に運がいい」


「なあ、ウチ……体が動く限り、この星を守っていこうと思った。カトリン、ウチに目的を作ってくれて……ありがと」


 ナミ氏がギャル語を使わずに感謝するなんて、滅多にないことだ。


「あざまるじゃないの?」


 あ、ほら……ハカセが不思議そうな顔してる。

 でもさ、ちょっとだけ空気読もうね。


「本気で感謝してんの。ってことで、カトリン……未来永劫……ずっとよろしくな」


 ナミ氏の声は、普段の軽い調子ではなく、どこか真剣だった。

 彼女はカトーの目をじっと見つめながら、ゆっくりとその言葉を口にした。


 未来永劫!?

 それって……。


「おおっ、カトー氏! よかったじゃん!」


「まあな。やっとナミも俺の魅力に気付いたという訳か」


(……ずっと気付いてたわよ……)


「ん? 何か言った?」


「し~らないっと」


「あはは」


 俺が思わず笑ったら、皆も同じように笑い出した。


 その後、俺たちの戦いが報道され、この星には『守り神』がいると言われるようになった。

 そのためか、各地の戦争は次々と終わり、ようやく世界に平和が訪れた。

 実際には破壊神みたいな女もいるんだけどね。


 この平和は長く続かないだろう。きっと誰かがまた戦争を始めるから。

 でも、俺たちがいる限り、何度でも戦争を止めてみせる。



 ――


「イチロー、ちゃんと偵察用カメラを無効化してきたよな?」


「大丈夫だよ。だから、カトー氏、二階堂氏、今日は楽しもう!」


「そうだけど、サクラにバレたら……えらいことになるんだよな」


「あはは、大丈夫だよ」


「御主人様、お給仕はいかがいたしますか?」


「オムライス3つね。飲み物は……俺はもちろんコーラ!」


「今日は俺もコーラをもらおう。少しだけなら問題ないらしいからな」


「じゃあ、私もコーラで」


 今日はカトー氏と二階堂氏と一緒に、メイドカフェに来ている。

 もちろん、それぞれの妻であるハカセ、ナミ氏、サクラ氏に内緒だ。

 たまにはハメを外して、義兄弟の親睦を深めようということだ。


 戦場ではどれだけ緊迫した状況でも、こうして地球でのんびりしていると、すべてが夢だったんじゃないかと思えてくる。

 けれど、俺たちは確かに戦ったし、勝利した。だからこそ、今この時間を楽しむのも悪くない。


 メイドカフェは良い。我が家以上のやすらぎがそこにあると思う。

 俺たちは、魔法のかかったオムライスを味わいながら、久々の息抜きを堪能していた。

 背徳感をスパイスにしたコーラの味は、これまでのどの一杯よりも最高だった。


「はああ……五臓六腑に染み渡る……メイドカフェで飲むコーラ最高……」


「へえ、そんなのどこで飲んでも一緒じゃないの?」


「そんなことないだろ、自宅でのむコーラより、メイドカフェの方がいいに決まってる……って、えっ!?」


 思わず声のする方を振り向くと、隣のテーブルには見覚えのある顔が3つ……。


「カトリン、ウチはそんなに気にしないよ。だから選ばせてあげる。電気ショックと電気ショックと電気ショックのどれがいい?」


「進……。お前、いつからバカ共の仲間入りしてるんだ?」


「イチローの……ばかああ」


 うわああああああああ!?

 俺たちは顔を見合わせ、財布から適当に札を抜き取り、テーブルに放り投げた。


「に、逃げろ~」


「逃がすか~、まて~!」


 俺たち6人は、秋葉原の街を必死に駆け抜けた。

 でもね……やっぱり地球最高!



 はじけろ!コーラ星人 完。

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