- 3日後 -
俺たちは再び、ステラ・ヴェンチャーに集合している。
理由はもちろん、サクラ氏とカトー氏の模擬戦を見届けるためだ。
訓練室ではサクラ氏が木刀を豪快に振るっている。
昔ほどの強さはないらしいけど、それでも凄いキレの動きをしているんだよな……。
一方のカトー氏も目を見張る動きを見せている。
武器を極めているだけあって、これはどうなるのか全く想像がつかない。
「始め!」
ボス氏の合図で戦いが始まった。
カトー氏は低く構え、一瞬の隙も見せない。サクラ氏も木刀を肩に担ぎ、ゆったりとした足取りで間合いを詰める。
しかし、次の瞬間……カトー氏は床に倒れ、サクラ氏はその喉元に木刀を突きつけていた。
一体……何があったんだ!?
今の動き、まったく見えなかったぞ!?
「勝負あり! 勝者サクラ」
強い! 強すぎる……。
15年前の強さ、いや……もしかしたらもっと強くなっている気がする。
「くそっ、相変わらず狂った強さだな……。だが、それでこそサクラだ……」
「今まで心配かけたな。でも、もう大丈夫だ」
「約束だからな、セブンソードはサクラに預けるよ」
セブンソードは近接戦闘に特化した機体だ。
射撃兵器はビームガン程度で、あとは運動性能とパワーを大幅に強化している。
実体剣も含め、7種の近接武器を装備している。
まさに、今のサクラ氏にうってつけの機体だ。
「まかせろ。と言いたいところだけど……近接戦闘専用機なんて、実際に使い道があるのか?」
「そうだな。では、俺が作戦目標として考えている、この地の戦いを見て欲しい」
カトー氏はそう言いながら、端末を操作した。
モニタに映っているのは南アメリカ戦線のようだ。だが、そこには信じられないものが……。
「こ、これは!? 15年前の破壊ロボットじゃないか!」
サクラ氏が驚くのも無理はない。
モニタに映るそれは、かつて俺たちを絶望の淵に追い込んだ機体だった。鋼鉄の巨体に無数のセンサーアイ、圧倒的な火力と装甲。
ナミ氏が停止させたのち、自爆したはずの破壊ロボットが暴れていたのだ。
だが、よく見ると以前とは微妙に違っていた。
脚の数が増えているようだし、動きも若干遅いような気がする。
「そう、あのとき俺たちが破壊した、あの破壊ロボットだ。数日前から南アメリカ戦線に現れ、破壊の限りを尽くしている。どういう訳かテレビでは報じられていないようだが、あの戦いでの生き残りが関わっている可能性がある」
「そうか、宇宙海賊の技術者が生き残っていて、どこかの陣営に協力しているということか……」
「俺たちの初仕事は、この破壊ロボット討伐戦としたい。俺にとっては、避けられない戦いだ」
カトー氏は静かにそう告げた。彼の拳がわずかに震えているのを、俺は見逃さなかった。
悔しさか、それとも覚悟か……15年前、ナミ氏を守れなかった無念を乗り越えたいという、強い意志を感じる。
「でもさ、15年前は全く刃が立たなかったよね? また同じ結果にならないかな……俺、もうナミが犠牲になる戦い方は嫌だよ」
「それは……戦ってみなければ分からない。だが、ガンガルの性能は大幅にアップしているので通用すると思う。特に今回はセブンソードがある。ナミに計算してもらったんだが、おそらくは装甲を貫けるはずだ」
「ナミ、それは本当なのか?」
「多分いけるよ。15年前に戦った破壊ロボットは、地球産じゃなかったんだよ。だから、地球上の硬度を元に強度を計算したって訳。脚が増えているのも、地球の素材だと重たくなってしまうから増やさざるを得なかったんじゃないかな」
「ボス、データは用意するので、この作戦を立ててもらいたい。あの戦いを経験した俺たち全員にとって、避けられない戦いのはずだ」
「分かった。私に任せてもらおう。今度は全員無傷で帰ってこれるようにしなければならないな」
- 1週間後 -
作戦の招集がかかり、俺たちはステラ・ヴェンチャーに集合している。
「それでは作戦を伝える。目的地は南アメリカのベネズエラ、マラカイボという町を通過する際に強襲を行う。日本時間13時に作戦開始とするが、現地は深夜0時だ。レーダーと暗視技術を活かしてほしい」
俺は端末に表示された地図を見つめた。
マラカイボ……南米でも有数の油田地帯だ。敵がこの地域に向けて進軍しているのには、戦略的な意味があるのだろう。
「それってさ、ウチらの技術の方が優れているから?」
「そのとおりだ。宇宙海賊の技術を取り込んでいるとは思うが、破壊ロボット以外は地球の兵器のようなので、総合的に見て我々の技術の方が優れている可能性が高い。敵戦力は破壊ロボット1機、地球製の戦車と戦闘機が多数だ。そこで、まずMkⅡのカトーが遠距離射撃で地球製兵器を狙い撃ちしてくれ」
「了解!」
「敵側が気付き、MkⅡへの対応を始めたら、ナミの出番だ。ウィングで上空から牽制をしてくれ。戦場を引っ掻き回すような感じでいい」
「りょ」
「地球製兵器が破壊ロボットの支援ができなくなったら、サクラと二階堂さんの出番だ。セブンソードで一気に破壊ロボットを破壊してくれ」
二階堂氏は複座でセブンソードに搭乗予定だ。
セブンソードは脚や背中にも武器が用意されているので、これらの武器を担当することになった。
「まかせて」
「承知しました」
「オペレータはハカセ、イチロー、ナカマツで1機ずつ担当してもらう。もちろん、私は指揮を執る」
俺は思わず息をのんだ。
つまり、俺の役割は戦闘ではなく、オペレーションだ。直接戦うことはないが、それでも責任は重い。もし判断を誤れば、仲間の命に関わる。
全員、万が一に備えてパイロットスーツを着用し、作戦開始時間までモニタで戦況を見ながら待機している。
今回、俺が担当するのはサクラ氏のオペレータだ。
サクラ氏は破壊ロボットにトドメを刺すことになっているため、最も重要な役目と言えるだろう。
戦場には出ないものの、一緒に戦っているつもりで気持ちを引き締めていこうと思う。