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第78話 セブンソード

「全員揃ったようだな。では、カトーの話を聞こうか」


 ボス氏は真剣な表情を浮かべている。

 カトー氏の態度から、重い話になると予想しているのだろう。

 彼の表情には、いつもの冷静さがあったが、どこか吹っ切れたような雰囲気も漂っていた。決断の末にたどり着いた答えなのだろう。


「俺は……不老不死のまま治療しないことにした。もちろん、その意味は分かっているつもりだ」


「カトリン、あんたやっぱバカでしょ。ウチに合わせるつもりなら、迷惑だからやめてほしい」


「それを決めるのは俺だ。お前じゃない」


「いや、こんなタイミングでそんなことをいい始めたら、完全にウチのせいじゃん」


「ナミ、そんなことを言うなよ。確かにナミの存在がきっかけになったのは事実だが、元々俺が考えていたことなんだ」


 カトー氏はずっと治療をしてこなかったから、今さらという気もする。でも、ナミ氏にとっては『自分のせいで……』と感じてしまうのも無理はない。

 でも、治療をすれば、いずれナミ氏は独りぼっちになってしまうんだ……。

 カトー氏は遠回しにそう言っているのだと、俺は理解した。


「ナミ、ちょっと落ち着こうか。まずはカトーの話を聞こう。カトー、話を続けて」


 ボス氏がナミ氏を静止した。

 ボス氏も、何か思うところがあるのかもしれない。そもそもナミ氏は熱くなりがちだしね。

 ナミ氏はまだ不満そうだったが、一旦腕を組んで黙った。


「俺がこれからやろうと思っているのは、影から地球を守る存在だ。つまり、今までと何も変わらないが、目的が明確になったということだ」


「異星人からの攻撃に備えるということ?」


 カトー氏は腕を組み、ゆっくりと周囲を見回した。まるで、この場にいる全員に何かを確かめるように。


「それもあるが、それだけじゃない。あの戦いでヨーロッパとアジアは壊滅状態となり、それがきっかけとなって世界中で戦争が始まってしまった。俺はこれを終わらせたい」


「なあ、カトー。戦争は地球人同士で終わらせるべきなんじゃないか」


 サクラ氏が言うように、俺たちのルールはずっとそうだった。

 地球人同士の争いには関与しないというものだ。


 でも、このルールは特効薬の捜索に影響が出ないようにするためという理由があった。

 その必要が無くなった今、ルールに縛られる必要もないのかもしれない。


「本当にそうだろうか。俺たちはもう地球人だよ。そして、異星人でもある。こんなことができるのは俺たちしかいないのだから、その運命に従うべきだと思う」


「そこまでする必要はないだろう。あの戦いで私たちがどうなったか、思い出してみろよ」


「皆、よく考えてみてくれ。俺たちの星では、戦争が続いていたんだ。確かに宇宙海賊によって滅んだのかもしれないが、やつらが来なくたって滅亡したのかもしれない。同じような状況がおきていて、それを解決できる力があるのに、見て見ぬふりをするっていうのか?」


 正論だと思う。

 俺たちは、歴史の中で何度も同じ過ちを繰り返してきた。それでも、今ここで動くことができれば、少しは違う未来を作れるかもしれない。

 これからも地球人として生きていくのであれば、こういう考え方は必要じゃないかなと思えた。


「話は戻るけど、結局ウチに居場所を作ろうとか考えてんでしょ」


「まあ、それはあるな。実際、目的がなけりゃ不老不死なんてできないだろ」


「話は分かった。カトーの話にも一理あるとは思う。今までは特効薬の探索が目的で、戦いはその手段でしかなかったからな。私とカトーは元軍人だからかな、戦いというものが日常にあるのだろう」


「俺は戦いしか能が無いからな」


「分かったよ、そういうことならウチは一緒にやろうかな。まずは地球の戦争を止めてみて、それから考えてみたらいいんじゃね」


「なんか、そういうふわっとした感じが、俺たちらしいんだよね」


 思わず口に出してしまったけど、ずっとそんな感じでズルズルやってきたように思う。

 最終的な判断はボス氏に任せていたけど、ボス氏は皆の意見をできるだけ取り入れようとしてくれていたから、結局はふわっとした感じになりがちだった。

 それでも上手くやれてきたのは、個々の能力の高さとチームワークの良さだったのだろう。


「あのさ、私はイチローが戦うのはもう嫌なんだけど、どんな感じで運用していくつもりなの?」


「普段は地球人として生活しつつ、緊急時に集合して戦う感じだな。もちろん、基地はステラ・ヴェンチャーで、主力兵器はガンガルだ」


「パイロットはどうするの?」


「俺とナミがメインで、状況によって都度対応でいいと思う。ガンガルは用途に応じて、あと数機増やしたいところだ」


 ガンガルは現在3機。

 初号機とMkⅡは15年前の戦いでかなりのダメージを受けたが、改修をして性能もアップしている。

 さらにセブンソードという、接近戦に特化した機体も開発した。これは、宇宙海賊の破壊ロボットとの戦いで実体剣の必要性を感じたことによる。

 カトー氏が言っているのは、砂漠戦とか水中戦を想定した機体も必要だということだろう。


 ガンガルに乗るのは楽しい。でも、俺は実戦向きじゃないと思う。

 15年前はサクラ氏の指導でなんとか戦えたけど、毎回そう上手くいくものじゃないだろうから。


「なら、セブンソードとかいう新機体は私が使わせてもらおうかな」


 えっ!?

 予想外の発言に、俺は思わずサクラ氏の顔を二度見した。彼女の口元には、わずかに笑みが浮かんでいる。

 サクラ氏、もう戦わないって言ってたような気が……。


「サクラ……お前、もう戦わないって……」


「私も自分と向き合ったんだよ。ボスも言っていたけど、私にとっても戦いというのが自分を肯定できるものなんだ」


 サクラ氏なら、どんな仕事でもこなせそうな気がするんだけど。でも、本人にとってはそうでもないのかもね。

 どちらにしても、サクラ氏が戦ってくれるのなら、こんなに心強いことはないけどね。


「ねえ、ママって強いの?」


「うん、強いよ。多分、宇宙で一番強い」


「すっごーい。パパよりも強いの?」


「パパも同じくらい強いよ」


「わーい、あやめも強くなりたーい」


 あやめちゃん、絶対強くなりそう。

 サクラ氏と二階堂氏の子だもんね。


「そっか、じゃあピーマン食べないとね」


 サクラ氏が、得意げに腕を組む。その様子はまるで、すべての母親が通る道を踏みしめているかのようだった。


「え~、じゃあ強くならなくていいや」


 サクラ氏も野菜を全然食べなかった気がするんだが……。母親になると、こうも変わるものなんだね。

 ハカセは……あまり変わってないかな?


「サクラ、お前が強かったのは過去の話だろ。セブンソードは一番強い人が使うことにしたいんだ。だから、乗りたかったら俺と戦って勝つしかないな」


「いいぜ、望むところだ」


 カトー氏は時計を確認し、わずかに考え込む仕草を見せた後、頷いた。


「じゃあ、勝負は元の世界に戻ってから3日後としよう。今回は剣を使うから、模擬刀の寸止めルールでやろう」


 サクラ氏にどんな心境の変化があったのかは分からないけど、剣なんて使えるのかな? 俺には素手で戦うイメージしかない。


「盛り上がってるところ悪いんだけど、そろそろ換装が完了する時間だよ」


「お、もうそんな時間か。じゃあ、続きは戻ってからだな。全員座席に着いてくれ」


「ボス、準備OKだよ」


「よし、では元の世界に!」


 ハカセが転送ボタンを押すと、再び捻れたような感覚が体中を駆け巡った。

 その感覚が収まったころ、モニタには出発前の景色が映っていた。

 俺は深く息を吸い込んで、ゆっくりと吐き出した。


 ナミ救出作戦、大成功!

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