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第74話 この小説、会議室ネタ多すぎない? って思われてそう

「あ、あやめちゃん!」


「一花ちゃん、博太郎くんだあ。一緒にあそぼ~。イチローおじさん、ハカセおばさん、お久しぶりです!」


 今日はステラ・ヴェンチャーの会議室に集合している。

 うちの子たちと、二階堂氏とサクラ氏の子である『あやめ』ちゃんは同じ歳でとても仲が良い。

 あやめちゃんは、サクラ氏の子なのに礼儀正しくて、俺たちと会うと深々とお辞儀をする。


「あやめちゃん、こんにちは。今日も礼儀正しくて偉いね!」


 あやめちゃんは小さな手を胸の前でそろえ、微笑んだ。その所作には、幼いながらも気品が感じられる。

 まだ6歳なのに、既に大人びた雰囲気を持っているのが不思議だった。


「ありがとうございます。イチローおじさんはいつも素敵ですね」


 ちょっと……。コレだよコレ。

 6歳の子がこんな会話をできるなんて!

 一体どう育てたら、こんなにいい子になるんだろうか……。


「おう、イチロー。お腹空いたから、なんか美味いもん作ってくれよ」


 そこに、母親のサクラ氏がやってきた。相変わらず、失礼を極めたような人だと思う。

 どう考えても、二階堂氏の教育が良いのだろう。間違いない。


「冷凍庫にピラフがあるから、チンして食べたらいいんじゃないか」


「イチロー、お前……。あやめと私を比べて、『なんでこんな礼儀正しい子が生まれたんだろう』とか考えてるだろ?」


 サクラ氏はニヤリと笑い、俺の顔をじっと見つめる。まるで、俺の思考が顔に書いてあるかのようだった。


「サクラ、そのくらいにしておこうよ。あやめはね、サクラみたいなガサツにならないよう、俺がしっかり教育しているんだ」


 二階堂氏、さすがだよ。

 そういえば、二階堂氏は礼儀正しいもんね。


「そろそろ始めようか。全員会議室に集合!」


 会議の議題は予め聞いていた。もちろん、ナミのことだ。

 ナミがいなくなってから、俺たちはずっと彼女のことを考えていた。今まで何度も危機を乗り越えてきた仲間だ。

 それでも、今回のミッションは今までとは違う緊張感がある。

 軽い冗談を交わしていた先ほどとは、一転して空気が引き締まった。


「ボス氏、全員揃ったよ」


「じゃあ、始めようか。皆も知っている通り、ハカセが時空制御装置の開発に成功したと報告を受けたので、ナミを迎えに行こうと思う。出発は2週間後、目的地はガンガルのテストパイロット試験会場のアステロイド帯だ。ただ、これはリスクが高い。私は全員を無理やり連れて行こうとは思っていない」


「俺とハカセは行くよ。時空制御装置にはハカセが必要だからね」


「俺もだ。ナミがこういう状況になったのは、俺のせいでもあるからな」


「私と進も当然行くよ。大事な妹だからな、愚問だろ」


「もちろん、私も行きますよ。彼女の秘密を抱えていた私に責任がありますから」


 結局、俺たちは全員行くことに決まった。

 それぞれが決意を固めた顔をしている。どんな危険が待ち受けているか分からないが、誰もこの場から退こうとはしなかった。

 そりゃそうだ。だって、ナミは家族だから。


「わたしも迎えにいく~」

「ぼくも行きますよ」

「私も行きます」


 一花、博太郎、あやめの3人も行くと言っている。

 幼いながらも真剣な表情でこちらを見つめる三人。大人たちと同じように、自分たちもナミのことを大切に思っているのだと、その目が語っていた。


「あなたたちは学校があるでしょ?」


 ハカセが3人を説得しようとするが、博太郎が反論した。


「大丈夫だよ。だって、出発時の時間まで戻ればいいんだから。それに、設計者のぼくがいないというのも、問題が起きたときどうするの?」


「ひろくんの言う通りだよ。それに、お父さんとお母さんが戻れなくなったら、もう会えなくなるんでしょ? そんなのいやだよ」


「私も一花ちゃんと同意見です。おじさま、おばさま、迷惑はかけませんから、私たちも連れて行ってください」


 一花とあやめも同じ意見のようだ。

 俺とハカセ、サクラ氏はどうしたものかと顔を見合わせた。


「私は子どもたちに賛成ですよ。ハカセさんだって、子どもの頃から皆さんと一緒に冒険していたんでしょ? こういう経験も成長に繋がるかもしれませんよ」


 二階堂氏は賛成のようだ。

 そう言われてみれば、確かにそうだった。でも、俺たちのときは、それしか選択肢が無かったから……。

 果たしてどうするのが正解なんだろうか。


「イチロー、私は連れて行ってもいいと思ってる。ナミは私たちが来ることを知っていたのだから、少なくとも片道は成功する見込みがあるってことよ。ということは、技術的に問題はないってことでしょ」


「私もいいと思うぞ。私たちは今までだって何度も覚悟を決めてきたじゃないか、大丈夫。きっと上手くいく」


「分かったよ。俺も賛成しよう。ボス氏、それでいいかな?」


「君たちがいいなら私は反対しないよ。では、子どもたちも含めて迎えに行こう」


「わーい」

「やったあ」

「皆様、ありがとうございます」


 子どもたちは大喜びだ。でも、本当にこれで良かったのか……?


「ついでになるが、皆に相談があるんだ。妻の冴子のことだ」


「ボス氏? 冴子さんに何かあったの?」


 ボス氏は少し沈黙した後、ゆっくりと口を開いた。

 その表情には、冴子さんへの深い愛情と、どうしようもない無力感が滲んでいるように見えた。


「皆も知っている通り、冴子は交通事故で下半身が動かなくなってしまったんだ。できることなら、メディカルマシンで治療してやりたいんだ」


「地球人の治療は初めてですが、恐らくは可能でしょう。でも、事故から時間が経っていますので、手術が必要になります」


「冴子さんなら、家族みたいなものだし、反対する理由なんてないでしょ。ボスがハゲを治したいって言うのなら反対するけどさ」


 サクラ氏が恒例のハゲいじりをしたが、ボス氏は無反応だった。

 それだけ、冴子さんのことが気がかりなんだろう。


「ナカマツ氏、手術を含めて治療にはどのくらいの期間が掛かるの?」


「長くても2週間ほどで終わると思いますよ。出発予定には影響が無いでしょう」


「なら、全く問題ないでしょ。ボス氏、反対はいないみたいだよ」


「そうか、ありがとう。もう1つお願いなんだが、サクラに冴子の身の回りの世話をお願いしたい。同じ女性ということで、サクラが適任だと思うんだ」


「いいよ、私に任せて。ついでにボスの恥ずかしい秘密でも聞こうかな」


「……それだけは、マジでやめて!」


 ボス氏、なんか色々やらかしてるの?

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