- 宇宙海賊との戦いから15年後 -
この15年間、私の研究はまったく進展しなかった。
ナミを元に戻すため、タイムスリップを実現する必要があるんだけど、その実現方法が見えなかった。
タイムスリップ理論は、理論上は可能だと言われているものの、まだ誰も実現したことはない。理論と実現可能性の間には、途方もない隔たりがある。
私が考えた実現方法は、ワープ理論と基本的に同じ仕組みだ。
高重力化で素粒子の振る舞いを操作することで、時空の歪みを発生させるというもの。
しかし、実験をしてみると、時空の歪みを発生させるには今まで見たこともない程の高エネルギーが必要みたい。
さらに解決を困難としているのが、一瞬で高エネルギー状態にしなければならないということ。
考えつく限りの方法を試したが、どれもエネルギー不足だった。
毎回結果が同じで、無駄にエネルギーを消費していく自分に、嫌気がさすこともある。
こんなときにナミがいてくれたら……。
物質転送装置を作ったときだって、ナミがいたから出来たようなものだったのよね。
「ねえ、イチロー。子どもたちを風呂に入れてくれない? 私、もう少し研究を続けたいからさ」
「いいよ。一花、博太郎、お風呂いくよ」
「わーい、今日はお父さんと一緒だ~」
私は6年前に双子を出産した。姉の一花と弟の博太郎だ。
私とイチロー、それぞれの名前の一部を取って子どもに名付けたのだが、偶然にも性格まで名前通りになってしまった。
一花はいい加減でオタク気質、博太郎は勉強が得意だけど、気分屋でちょっと面倒な性格。
私とイチローの性別を逆にしたような感じね。
イチローは子どもの世話をよく見てくれる、優しくて頼れる父親だ。
ちょっと問題なのが、やたらとジャンクフードを与えてしまうことと、グズっているときにアニメを見せて黙らせようとすることだ。
あ、ほら……また、アニメを見せようとしてる。
「イチロー、またアニメなの? 見せすぎだっていつも言ってるじゃない」
「そう言うけどさ、一花が見たがっているんだから、ちょっとくらいいいじゃん。なあ、一花」
「うん。私、お父さんとガンダム見るの~」
またガンダム……。本当に、昔から変わらないんだから。
そんな成長しない人が、もう一人増えたみたいだ。
「一花、アニメばかり見てるとバカになるよ!」
「え~、大丈夫だよ。だって、お父さんバカじゃないじゃん」
「お父さんは、昔からずっとバカなのよ!」
「えっ、ちょっと酷すぎない? 博太郎もそう思うだろ」
「お父さんはバカなくらいが丁度いいんじゃないかな。お母さんみたいな神経質が2人もいたら、それこそ大変だよ」
「……」
「……」
私、もしかして……子育て間違ったのかしら?
思わず、イチローと顔を見合わせちゃったじゃない。
「ほら、お母さんも一緒に見ようよ。たまには息抜きだって必要でしょ」
一花がイチローみたいなことを言っている……。
「分かったわよ。今日だけね」
「わーい。今日はみんな一緒にガンダムだ~。私が……ガンダムだ!」
一花がよくわからないセリフを叫びながら、棚からブルーレイディスクを取り出してプレイヤーにセットした。
えっと、ガンダムダブルオー? 私にはガンダムが多すぎて覚えきれない。
でも、この『ガンダムダブルオー』、なんだか興味をそそられる作品ね。
GN粒子とかいうご都合主義的な設定はさておき、『粒子量をコントロールするために、ツインドライブで粒子量を自乗化する』ですって?
時空制御装置もそんな感じで、粒子をコントロールできたらいいのにね。
「なあ、ハカセ。時空制御装置にツインドライブを使ってみるのはどう?」
あ、ほら……。
絶対に言うと思ってたわよ!
「あのね、粒子量は別に今のままでもいいのよ。問題は高エネルギー化だって、いつも言ってるじゃない」
「お母さん、お父さんの言ってることは正しいと思うよ。粒子加速器2機を同調させて粒子加速の渦を作り出すんだよ。そうでしょ、お父さん?」
「えっ、ああ……。そ、そうかな?」
こいつ、絶対に分かっていないな。
しかし、博太郎……。いつの間にそんなことを覚えたの? あなた、まだ6歳でしょ。
「設計図書いてみるね~」
博太郎はクレヨンを持って、画用紙になにやら書き出した。
その手つきは、まるですでに完成された計算式を描いているようだ。まさか、こんなにも頭の良い子だとは思わなかった。
ちょっと待って……。この設計図、もしかして本当に正しい!?
確かに、粒子を加速することで高エネルギー状態にすることは可能ね。
さらに、粒子加速器を2機を同調させれば……一瞬で高エネルギー状態に持っていけるかも!
「ねえ、博太郎。どこでそんなことを覚えたの?」
「僕、暇なときはお母さんの本棚を読んでるんだ。一応、全部頭に入ってるよ」
私の本棚なんて……物理の専門書しかないのに。
本当に、あの子はどこまで賢いのか。物理の話がこんなにも理解できるなんて、正直信じられない。
「ちなみに、一花は暇なときに何をしているの?」
「うーんとね、お父さんの漫画を読んでるよ。一応、全部頭に入ってるよ」
同じような行動をしているようだけど、内容は正反対なのね。
行動が似ているのは、双子だからかしら。
私は改めて、博太郎がクレヨンで描いた設計図をじっくりと見直した。
うーん……やっぱり……正しいわね!