目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

第66話 最強の敵、登場!

「ハカセ、125番!」


 目の前の壁が消えた。

 私と進は、小型転送モジュールで壁に穴を開け、ショートカットしながら目的地に向かっている。


「サクラ、あと150mくらいだ」


 進には特殊能力がある。

 強い者が出す闘気を感じることができるらしい。

 この能力を使って、私たちは闘気を感じる方向へ進む作戦を採用した。


 宇宙海賊という性質上、強さが力関係を決めている可能性が高い。

 つまり、強い者を探せば、それが首領ということになる。


 それにしても、この船は本当に広い。ステラ・ヴェンチャーの何倍もありそう。

 50機もの円盤が収容されていたのだから、当然といえば当然よね。


「ねえ、進。顔色がよくないけど、大丈夫?」


 進は額に薄く汗を浮かべ、呼吸が浅い。普段なら戦闘中でも冷静な彼が、どこか落ち着かない様子だ。何かに怯えているのだろうか……。


「ああ、大丈夫だよ……」


「あなた、何か隠しているわね? もしかして……この船で一番強いやつ、私より強いの?」


「それは分からない。でも、サクラと同じくらいの強さを感じる」


「へえ、それは楽しみね。手加減なしで本気で戦えるってことよね?」


「俺は……多分役に立たないだろうと思う。正直なところ、サクラを戦わせたくない……」


 そう……。実は私もなんとなく感じている。

 とてつもなく強い何かがいるというのは、間違いないだろうと思う。


 でも、戦いというのは戦闘力だけで決まるものでもない。

 戦い方次第で、いくらでも手があるんじゃないかしら。


「いたぞ、あそこだ!」


 目の前の通路の奥に、さらに多くの影が見えた。敵は減るどころか、次々と湧いてくる。まるで蟻の巣を突いたようだ。これでは前に進むどころではない……。

 この船、どれだけ戦闘員がいるのよ! 倒しても倒してもキリがないじゃない!


 直線距離だったら近いのに、どんどん敵がやってくるから、私たちはなかなか前に進めなかった。

 しかも通路は狭いので、私が接近戦を仕掛け、進が銃で支援する形をとらざるを得ない。

 一緒に並んで戦えると思っていただけに、ちょっと残念。


 ――


「サクラ、この先だ!」


 いよいよ、最強の敵がいると思われるドアの前にやってきた。

 かれこれ、20分近く戦い続けている。

 ついに銃弾も尽きた……これが最後であってほしい。


「入れ!」


 中から、意外にも若い女性の声がした。

 私がドアを開けると、あちこちをヒラヒラのレースで装飾したピンク色の部屋だった。


 部屋の中心には丸テーブルが置かれ、若い女性が食事をしていた。

 船内が戦闘状態となっているのに? この人は一体何をしているのだろうか。


「貴様がこの船のボスか?」


 目の前の女性は、悠然とフォークを動かし、ナイフで肉を切り分けていた。

 こちらに気づいているのに、まるで気にも留めていない様子だ。まるでこれまでの戦闘が彼女にとって何の意味もないかのように……。


「そうよ、あなたたちもご一緒に食事をいかがかしら。ここまで来るのに疲れたでしょう?」


 私は、女の向かいの椅子にゆっくり腰を下ろした。


「そうだな。この船の者は客人に銃を向けてくる礼儀知らずばかりだからな」


「あら? でも、どこの世界でも侵入者への対応なんて、そんなものじゃないかしら。ねえ、侵入者さん」


「サクラだ。こっちは二階堂」


「自己紹介ありがとう。私はフィリアーネ。3年前にここの主となったの」


「3年前? 7年前……惑星アルカンドルを襲ったのは誰だ!」


 3年前だとすると、フィリアーネは進の星を襲った犯人ではない?


「惑星アルカンドル……懐かしい名前ね。私もかつてそこで暮らしていた」


「ふざけるな! ならば、なぜ仇の首領などになっている!?」


「私は、人質として捕まったんだよ。その後で兵士として実績を挙げ、この船を乗っ取ったんだ。分かるだろ? この船は海賊船で、力が全てなんだよ」


「じゃあ、アルカンドルを襲ったやつは……」


 進の手が震えた。怒りか、困惑か、それとも絶望か。

 彼の目はフィリアーネを射抜くように見つめているが、声はかすれていた。


「私が殺したよ。私にとっても家族の仇だからね」


「くそっ……じゃあ俺は、今まで何のために戦ってきたんだ……?」


「ならば、私の配下になるがいい。ここまで二人だけで来られた実力を評価してやろうじゃないか。死んでいった部下たちよりも役に立ちそうだ」


「お前の配下になるくらいなら、犬の配下になったほうがマシよ。そういえば、『力が全て』って言ってたわよね。つまり、私の方があんたより強かったら、この船は私のモノってことだろ?」


「ほう……私とやろうってのかい?」


「ああ、やろう」


 緊張が張り詰める。

 わずかに指を動かすだけでも、一触即発の空気が漂う。先に動いたほうが負けるかもしれない……だが、私に迷いはない。


 私は丸テーブルを蹴り上げた。

 そのままフィリアーネの顔を蹴ったつもりだったが、奴は私の蹴りを片手で受け止めた。


 そこに進が飛び蹴りをした。

 進の蹴りはフィリアーネの顔面を捉えた。しかし、奴はびくともせず、微笑すら浮かべていた。


「手加減は無用だ。本気でやれ」


 私と進は左右から同時攻撃をしかけた。

 だが、私の攻撃は全て躱され、進の攻撃は受け止めもしなかった。


「あ~、やっぱりこのままじゃダメか……。仕方ない……」


 カチャリ……ガシャン!


 私は、腕と脚に付けていた重りをすべて外した。総重量30キロ。

 身体が軽くなる。

 重りを外した解放感が、全身に漲る力へと変わる。まるで檻から解き放たれた獣のように、今こそ本気を出す時だ。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?