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第63話 永遠のワルツ

「カトー、無事か!」


「その声は……サクラか!」


「正確にはイチローも一緒だぞ。私らが来たからにはもう大丈夫だ!」


 俺は、ガンガル・ウィングを操縦している。

 念願のパイロットだというのに、こんなに恐ろしいなんて……。

 でも、ここが正念場だ!


「イチロー、もっと早くだ。倍のスピードで動け!」


「やれるだけやってみる!」


 サクラ氏が速度アップを指示してきた。

 この2週間、俺とサクラ氏は毎日社交ダンスの練習をしていた。

 サクラ氏が言うには、俺はこの動きをすればいいらしい。


 俺はガンガルでワルツを踊った。

 一緒に踊るパートナーはいないけど、複座にいるのはサクラ氏だ。


 俺はこのとき、やっと社交ダンスを踊った意味が分かった。

 サクラ氏は俺の動きが予想できるのだ。そして、その動きに合わせて銃を撃てばいい。

 加えて、敵は俺たちの動きを予想できない。だって、戦闘用の動きじゃないからね。


 ズキューン、ズキューン。

 ビームライフルの音がこだまする。


 サクラ氏は誰もいない場所に向かってトリガーを引いていた。

 しかし、撃つ瞬間、その場所に敵が飛び込んでくるのだ。


「1つ……2つ……3つ……4つ……」


 撃墜数を数えるサクラ氏の声がする。

 その数は、トリガーを引いた数と完全に一致していた。


 嘘でしょ!? サクラ氏って、こんなことまでできたの?

 知っていたつもりだったけど、戦闘の勘というやつだろうか、俺の想像をはるかに超えていた。


「49……50!」


 たった1分程度で、全ての円盤を撃破してしまった。

 こっちはたった1機なのに……。


「サクラ氏……すごいな……知ってたけどさ」


「イチロー、まだだ。あの触手を全て切り落とすぞ。根元だ、根元を狙え」


 俺はビームサーベルで1本ずつ切り落としていった。

 幸いなことに破壊ロボットの動きは遅く、俺でも十分に対応できた。

 ガンガル・ウィングの拡張パーツを取り付けたことで、サーベルの威力も上がっていたらしい。


「や、やった……俺、やれたんだ……」


「イチロー、よくやったな。カトー、聞こえているか? 私たちは別の任務があるから、先に帰還する。あとのことは任せた」


「分かった。二人とも……救援に感謝する。そっちの任務も上手くいくといいな」


 ――


 俺とサクラ氏は、ステラ・ヴェンチャーに帰還した。

 駆け足で転送室へ向かうと、二階堂氏が俺たちを待っていた。


「お疲れ様、さすがサクラだな。君の強さには本当に驚かされるよ」


「そうかしら。今回はイチローも大活躍だったのよ」


「うん、あの動きはなかなか面白いな。サクラとのコンビネーションも完璧だったよ」


「ありがとうございます。そう言ってもらえて、自信が付きました」


 俺は不思議な高揚感に包まれていた。

 自分でも思っていた以上に上手くいったためだ。実のところは、ほぼサクラ氏のおかげだったんだけどね。


「そろそろ時間ね。ボス、ハカセ、こちらはいつでもいいわよ」


「了解、ではハカセ、転送開始だ」


「転送開始。3……2……1……」


 景色がパッと変わり、俺たちは牢の中に転送された。

 牢の中には、数十人の捕虜が囚われている。


「うわっ、貴方たちは一体!?」


「しっ、黙って。私たちは、あなたたちを助けに来ました。私は外で警戒しますので、この者の指示に従って脱出してください」


 サクラ氏は、そう説明をしながら、小型転送モジュールを鉄格子に貼り付けた。


「ハカセ、101番だ」


 半径1mの鉄格子がポンと消えた。

 よし、作戦は上手くいきそうだ。


 小型転送モジュールには予め番号を振っている。

 サクラが貼った小型転送モジュールは101番なので、ハカセは101番を対象に転送を行ったのだ。


 1番から100番までは、ナミ氏が破壊ロボットへ侵入するために使用している。

 今回使用した101番から200番は半径1m、201番から300番は半径2mといったように転送範囲を設定しているので、状況に応じて使い分けるという作戦だ。


 捕虜の救出は3人ずつ俺が抱えて、ステラ・ヴェンチャーに戻るという方法を採用した。

 小型転送モジュールは細かい設定ができないため、救出には向いていない。体の一部が千切れたりするかもしれないからね。

 問題は、何往復もすることで時間がかかってしまうということだ。

 きっと敵にも気付かれてしまうだろうけど、最強のコンビがきっと守ってくれる。


「それでは、俺が皆さんを救出します。3人ずつになりますが、必ず全員助け出すので慌てないでください」


「なんだと! 俺を誰だと思ってるんだ。俺を真っ先に救出しやがれ」


 俺が説明しているというのに、一人の老人が騒ぎ出した。

 何処にでも、こういうクズみたいな人はいるものだ。

 俺はこういう奴が本当に嫌いだ。よし、こいつは後回し決定だな。


 だが、この判断が間違っていたことを俺は知ることとなる。

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