「カトー、無事か!」
「その声は……サクラか!」
「正確にはイチローも一緒だぞ。私らが来たからにはもう大丈夫だ!」
俺は、ガンガル・ウィングを操縦している。
念願のパイロットだというのに、こんなに恐ろしいなんて……。
でも、ここが正念場だ!
「イチロー、もっと早くだ。倍のスピードで動け!」
「やれるだけやってみる!」
サクラ氏が速度アップを指示してきた。
この2週間、俺とサクラ氏は毎日社交ダンスの練習をしていた。
サクラ氏が言うには、俺はこの動きをすればいいらしい。
俺はガンガルでワルツを踊った。
一緒に踊るパートナーはいないけど、複座にいるのはサクラ氏だ。
俺はこのとき、やっと社交ダンスを踊った意味が分かった。
サクラ氏は俺の動きが予想できるのだ。そして、その動きに合わせて銃を撃てばいい。
加えて、敵は俺たちの動きを予想できない。だって、戦闘用の動きじゃないからね。
ズキューン、ズキューン。
ビームライフルの音がこだまする。
サクラ氏は誰もいない場所に向かってトリガーを引いていた。
しかし、撃つ瞬間、その場所に敵が飛び込んでくるのだ。
「1つ……2つ……3つ……4つ……」
撃墜数を数えるサクラ氏の声がする。
その数は、トリガーを引いた数と完全に一致していた。
嘘でしょ!? サクラ氏って、こんなことまでできたの?
知っていたつもりだったけど、戦闘の勘というやつだろうか、俺の想像をはるかに超えていた。
「49……50!」
たった1分程度で、全ての円盤を撃破してしまった。
こっちはたった1機なのに……。
「サクラ氏……すごいな……知ってたけどさ」
「イチロー、まだだ。あの触手を全て切り落とすぞ。根元だ、根元を狙え」
俺はビームサーベルで1本ずつ切り落としていった。
幸いなことに破壊ロボットの動きは遅く、俺でも十分に対応できた。
ガンガル・ウィングの拡張パーツを取り付けたことで、サーベルの威力も上がっていたらしい。
「や、やった……俺、やれたんだ……」
「イチロー、よくやったな。カトー、聞こえているか? 私たちは別の任務があるから、先に帰還する。あとのことは任せた」
「分かった。二人とも……救援に感謝する。そっちの任務も上手くいくといいな」
――
俺とサクラ氏は、ステラ・ヴェンチャーに帰還した。
駆け足で転送室へ向かうと、二階堂氏が俺たちを待っていた。
「お疲れ様、さすがサクラだな。君の強さには本当に驚かされるよ」
「そうかしら。今回はイチローも大活躍だったのよ」
「うん、あの動きはなかなか面白いな。サクラとのコンビネーションも完璧だったよ」
「ありがとうございます。そう言ってもらえて、自信が付きました」
俺は不思議な高揚感に包まれていた。
自分でも思っていた以上に上手くいったためだ。実のところは、ほぼサクラ氏のおかげだったんだけどね。
「そろそろ時間ね。ボス、ハカセ、こちらはいつでもいいわよ」
「了解、ではハカセ、転送開始だ」
「転送開始。3……2……1……」
景色がパッと変わり、俺たちは牢の中に転送された。
牢の中には、数十人の捕虜が囚われている。
「うわっ、貴方たちは一体!?」
「しっ、黙って。私たちは、あなたたちを助けに来ました。私は外で警戒しますので、この者の指示に従って脱出してください」
サクラ氏は、そう説明をしながら、小型転送モジュールを鉄格子に貼り付けた。
「ハカセ、101番だ」
半径1mの鉄格子がポンと消えた。
よし、作戦は上手くいきそうだ。
小型転送モジュールには予め番号を振っている。
サクラが貼った小型転送モジュールは101番なので、ハカセは101番を対象に転送を行ったのだ。
1番から100番までは、ナミ氏が破壊ロボットへ侵入するために使用している。
今回使用した101番から200番は半径1m、201番から300番は半径2mといったように転送範囲を設定しているので、状況に応じて使い分けるという作戦だ。
捕虜の救出は3人ずつ俺が抱えて、ステラ・ヴェンチャーに戻るという方法を採用した。
小型転送モジュールは細かい設定ができないため、救出には向いていない。体の一部が千切れたりするかもしれないからね。
問題は、何往復もすることで時間がかかってしまうということだ。
きっと敵にも気付かれてしまうだろうけど、最強のコンビがきっと守ってくれる。
「それでは、俺が皆さんを救出します。3人ずつになりますが、必ず全員助け出すので慌てないでください」
「なんだと! 俺を誰だと思ってるんだ。俺を真っ先に救出しやがれ」
俺が説明しているというのに、一人の老人が騒ぎ出した。
何処にでも、こういうクズみたいな人はいるものだ。
俺はこういう奴が本当に嫌いだ。よし、こいつは後回し決定だな。
だが、この判断が間違っていたことを俺は知ることとなる。