あれから2週間が経過し、いよいよその日がやってきた。
宇宙海賊との決戦の日だ。
俺たちが準備をしている間、破壊ロボットはヨーロッパの主要都市を壊滅させ、東アジアにまで到達していた。
戦いの舞台は香港。ここで倒しきれなければ、次は日本にやってくるだろう。
俺は戦闘服に着替えて、ステラ・ヴェンチャーの会議室にやってきた。
既に全員揃っていて、俺を待っていたようだ。
今回は二階堂氏も参加している。
サクラ氏と共に突入作戦を行うためだ。
彼をどこまで信用していいのかは、意見が分かれるところだけれど、とりあえず味方として考えることとなった。
最悪の場合を想定して、戦闘服に仕掛けはしてあるけどね。
「よし、全員揃ったようだな。これより作戦を伝える」
「その前に一応言っておくけど、今回は進も作戦に参加するから、そのつもりでね」
「皆さん、よろしくお願いします。私の仇討ちに協力してくれたこと、感謝しています」
サクラ氏に紹介される形で、二階堂氏が挨拶をした。
ナミ氏とハカセは初顔合わせだったはずだ。
「では、まず地上作戦から。ガンガルMkⅡで破壊ロボットを停止させる。担当はナミとカトーとする。具体的には、破壊ロボットの内部にナミが侵入し、停止させる」
「イエッサー!」
「りょ」
「破壊ロボット停止作戦開始後、敵戦艦突入作戦を行う。担当はサクラ、二階堂さん、イチローとする。突入タイミングは私が指示する」
いよいよ、俺が参加する作戦だ。
身が引き締まる思いだ。
「第一目標は人質の解放だ。人質に小型ドローンを忍ばせているので、転送位置は人質の場所となる。まずはイチローが彼らを転送装置で救出する。救出した人質の対応はナカマツとハカセに任せる」
「イチロー、頑張ってね……」
ハカセが心配そうな顔で俺を見ている。
約束通り、絶対に生きて帰らなければ!
「人質解放後、二階堂さんの能力で強い敵を探し出し、宇宙海賊の首領を討伐、その後戦艦を破壊して終了だ。いいか、絶対に命を粗末にするな。全員生きて帰ることを最優先としてくれ」
会議は解散され、各自持ち場に散っていった。
カトー氏とナミ氏がガンガルMkⅡに搭乗し、いよいよ作戦開始を待つだけとなった。
現在、香港では軍と破壊ロボットが交戦をしている。
この戦闘が終わり次第、作戦開始だ。
船内にはいたるところにモニタが設置されていて、どこにいても戦いの様子を見ることができる。
やはりというか、破壊ロボットが一方的に軍を叩き潰すかのような勝利となった。
こんなのを相手に、ナミ氏とカトー氏はどう戦うのだろう。
「作戦開始! ガンガルMkⅡ転送……3……2……1……」
モニタにガンガルMkⅡが映る。
いよいよだ。
――
「カトリン、いくよ! ウチがいいと言うまで射撃は待って」
「おう、上手く躱してくれよ!」
ナミが操作するガンガルは、破壊ロボットが放つビームをギリギリのところで躱しながら、接近戦に持ち込もうとしている。
俺は破壊ロボットの腕を各個撃破すべく、射撃のタイミングを図っている。
ナミは破壊ロボットの周囲を高速で回ったあと、間をすり抜けていった。
一歩間違ったら、ただ事ではすまないだろう。
本当にナミの度胸には恐れ入る。
「カトリン、射撃いいよ」
「よし、任せろ」
ナミの動きの意味がやっと理解できた。
破壊ロボットは触手のような腕を4本持っているのだが、ナミはこれらが絡まるように逃げ回っていたのだ。
頭では分かっていても、実際にできるかは別の話だ。
4方向から同時に攻撃されるのを躱しながらなのだから、とんでもない判断力だということが分かる。
たとえ4本あろうが、絡まってしまえば1本のようなものだ。
俺は触手の先にあるビーム砲台を次々に撃破していった。
「カトリン、グッジョブ! これで安心して内部に侵入できるね。ってことで、粘着液散布いっくよ~」
内部に侵入するには、ハッチに穴を空ける必要がある。
そこで考えた方法は、粘着液をハッチ付近に振りかけ、そこに向かって転送モジュールをばら撒くというものだ。
どういう訳だろうか、破壊ロボットの動きが急に遅くなった気がする。
おかげで、粘着液と転送モジュールのばら撒きが簡単に成功した。
「ハカセ、今だ!」
「了解!」
ハカセの返事と共に、破壊ロボットの背中に穴が空いた。
内部が見える!
「上手くいった! カトリン、アンカーで固定だ」
「よし、アンカー装填OK。発射!」
背中の穴から侵入する際、外から攻撃を受けないよう、ガンガルを破壊ロボットの背中に固定することとした。
その固定に使用するのがアンカーだ。
無事アンカーで固定できたので、ビームバリアを全面展開をした。
これで、外側から攻撃されても耐えることができるだろうし、穴の空いたハッチをガンガルで蓋をすることができた。
「今のところ上手くいってるね。じゃあ、ウチはこれから内部に侵入して停止作業に移るよ。カトリン、ガンガルをよろしく」
「ああ、行って来い。っと、その前に……」
「ん? どしたん?」
「ナミ……この戦いが終わったら、俺とゆっくりデートでもしようぜ。だから……絶対に生きて戻ってこい!」
「ん~どうしよっかな。……うん、分かった。楽しみにしとく」
ナミはニコッと微笑むと、工具の入ったバックパックを抱えて、穴に入っていった。
俺はその姿を見送ると、ガンガルのコックピットで周囲を警戒した。
いや、ちょっと待てよ……。
よく見たら、触手が自動再生を始めているじゃないか!
すごい速度で再生しているので、ナミが戻る前に再生を完了してしまうかもしれない。
そうか、急に動きが遅くなったのは、再生にリソースを割いていたためか……。
さらに最悪なことに……。50機ほどの円盤が空に現れたのだ。
そして、ガンガルに向かって一斉射撃を開始した。
まずい、これはバリアが持たない!
やられる!
そう思ったときだった。
ビームライフルの音が聞こえた。