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第53話 ハカセの想い

 その夜、俺はハカセの想いを聞いた。


「イチロー、ごめんね。コーラが飲めないなんて、辛いよね?」


「そりゃそうだよ。これから俺は何を楽しみに生きていけばいいんだよ!」


「イチロー、あのね……。私が強炭酸水を飲み続けたら、大人の体になれる可能性があるんだよ。そうなれば、結婚だってできるよ」


 あ、そうか。

 俺は、ハカセが大人になるまで手を出さないって約束しているし、婚約だって大人になるまでって言ったね。


「ハカセにとって、大人になることは念願だったもんね。俺にとっても嬉しいことだね。でもさ、俺がコーラを断つのはちょっと違わない?」


「それについては、ごめんなさい。でもね、私とイチローは歳が10も離れているの。今のペースで飲み続けたら、その差はどんどん開いていくでしょ。私はね、この機会を利用して年齢差を埋めたいって考えたのよ」


「ハカセは、俺との年齢差を気にしているの?」


「イチローは私にとって、優しいお兄さんだったから、年齢差自体はいいものだったわよ。でもね、結婚を意識したら、もう少し近くしたいなって思えたの。5歳差くらいまで縮まってくれたら理想かしら」


 そう言われてみれば、そうなのかもしれない。

 俺もロリコンだって、随分言われてるし、もう少し縮まることは良いことなのかもしれない。


「ということは……あと5年くらいは飲めないってことだよね……」


「ごめんなさい、でもお願いします!」


「分かったよ。大事な婚約者の願いだからね」


「ありがとう。イチロー、大好き!」


 ハカセはそう言って、俺に抱きついてきた。

 今までも、抱きついてきたことはあったけど、婚約者となると……どう接するべきなのか、俺は考えてしまった。


「ちょっと……ハカセ……」


「さっき、『これから俺は何を楽しみに生きていけばいいんだよ!』って言ってたよね……。これからは私が楽しませてあげるから……」


 ハカセは真剣な顔をして、俺に顔を近づけてきた。

 俺もハカセを抱き寄せ、唇を重ねた。


「あーあ、ついに手を出されちゃった。サクラに知られたら殺されちゃうかもよ……」


 ハカセは真っ赤な顔をしている。


「二人だけの秘密だよ」


「そうだね。私、まだ未亡人なんて嫌だもん」


「ちょっと……ハカセさん、俺が殺される前提は止めてもらえますか」


「あはは。あ、私のファーストキスはコーラの味だった……。イチローらしいわね」


「コーラも悪くないだろ? そういえばさ、初めてコーラを買ってきたとき、ハカセに滅茶苦茶怒られたんだよね。俺、あのとき『特効薬かもよ?』って言ったんだけど、覚えてる? まさか本当に特効薬だったなんてね」


「そんなこともあったわね。イチローが地球で最初に持ち帰った飲み物が特効薬だったなんて、あまりにも出来過ぎでビックリね」


「ねえ、ハカセ。しばらく飲めないから、最後の一本を飲んでもいいかな……」


「それくらいならいいよ」


 俺は、冷蔵庫から最後の一本を取り出すと、一気に飲み干した。

 美味い!


「ああ、やっぱりコーラはいいな。五臓六腑に染み渡る……」


「イチロー……」


「ん、どうした?」


「もし、コーラが我慢できなくなったら……だけどさ……。さっきみたいに……キスしても……いいよ。私の我儘に付き合わせてしまってるんだし」


 えっ、ちょっと……。

 ハカセがすごくかわいいんだけど!


「あー、早くもコーラを我慢できなくなってきちゃったかも!」


「ちょっと……イチロー……。し、仕方ない……かな……」


 俺たちは再びキスをした。

 さっきより強く抱きしめ、少しだけ長い時間だった。


「こ、これで我慢できる……よね?」


「いや、ダメだ。禁断症状が出そうだ!」


「ええい、じゃあこれでもくらえ!」


 今度はハカセが力づくで俺の唇を奪った。

 あ、こういうのもいいかも……。


「えっと……お楽しみ中のところ、大変申し訳ありませんが、ドア空いてるよ」


 気がついたら、ドアのところにナミ氏が立っていた。


「きゃあ、ナミ! いつからそこにいたの?」


「イチローが最後の一本だとか言って、コーラを飲んだあたりから」


 うわぁ、結構前から見られていたじゃん!


「ナミ氏……見なかったことにしておいてほしいんだけど」


「はあ? あんな胸焼けするようなイチャイチャをしておいて、よく言うよね。糖尿病にでもなったらどうしてくれんのよ!」


「えっ、糖尿病?」


「ああ、もう。くっそ甘い雰囲気だからに決まってんじゃん。説明させんな、こっちが恥ずかしいわ」


 ナミ氏は怒って、部屋を出ていった。

 俺は……しっかりと鍵をかけた。

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