その夜、俺はハカセの想いを聞いた。
「イチロー、ごめんね。コーラが飲めないなんて、辛いよね?」
「そりゃそうだよ。これから俺は何を楽しみに生きていけばいいんだよ!」
「イチロー、あのね……。私が強炭酸水を飲み続けたら、大人の体になれる可能性があるんだよ。そうなれば、結婚だってできるよ」
あ、そうか。
俺は、ハカセが大人になるまで手を出さないって約束しているし、婚約だって大人になるまでって言ったね。
「ハカセにとって、大人になることは念願だったもんね。俺にとっても嬉しいことだね。でもさ、俺がコーラを断つのはちょっと違わない?」
「それについては、ごめんなさい。でもね、私とイチローは歳が10も離れているの。今のペースで飲み続けたら、その差はどんどん開いていくでしょ。私はね、この機会を利用して年齢差を埋めたいって考えたのよ」
「ハカセは、俺との年齢差を気にしているの?」
「イチローは私にとって、優しいお兄さんだったから、年齢差自体はいいものだったわよ。でもね、結婚を意識したら、もう少し近くしたいなって思えたの。5歳差くらいまで縮まってくれたら理想かしら」
そう言われてみれば、そうなのかもしれない。
俺もロリコンだって、随分言われてるし、もう少し縮まることは良いことなのかもしれない。
「ということは……あと5年くらいは飲めないってことだよね……」
「ごめんなさい、でもお願いします!」
「分かったよ。大事な婚約者の願いだからね」
「ありがとう。イチロー、大好き!」
ハカセはそう言って、俺に抱きついてきた。
今までも、抱きついてきたことはあったけど、婚約者となると……どう接するべきなのか、俺は考えてしまった。
「ちょっと……ハカセ……」
「さっき、『これから俺は何を楽しみに生きていけばいいんだよ!』って言ってたよね……。これからは私が楽しませてあげるから……」
ハカセは真剣な顔をして、俺に顔を近づけてきた。
俺もハカセを抱き寄せ、唇を重ねた。
「あーあ、ついに手を出されちゃった。サクラに知られたら殺されちゃうかもよ……」
ハカセは真っ赤な顔をしている。
「二人だけの秘密だよ」
「そうだね。私、まだ未亡人なんて嫌だもん」
「ちょっと……ハカセさん、俺が殺される前提は止めてもらえますか」
「あはは。あ、私のファーストキスはコーラの味だった……。イチローらしいわね」
「コーラも悪くないだろ? そういえばさ、初めてコーラを買ってきたとき、ハカセに滅茶苦茶怒られたんだよね。俺、あのとき『特効薬かもよ?』って言ったんだけど、覚えてる? まさか本当に特効薬だったなんてね」
「そんなこともあったわね。イチローが地球で最初に持ち帰った飲み物が特効薬だったなんて、あまりにも出来過ぎでビックリね」
「ねえ、ハカセ。しばらく飲めないから、最後の一本を飲んでもいいかな……」
「それくらいならいいよ」
俺は、冷蔵庫から最後の一本を取り出すと、一気に飲み干した。
美味い!
「ああ、やっぱりコーラはいいな。五臓六腑に染み渡る……」
「イチロー……」
「ん、どうした?」
「もし、コーラが我慢できなくなったら……だけどさ……。さっきみたいに……キスしても……いいよ。私の我儘に付き合わせてしまってるんだし」
えっ、ちょっと……。
ハカセがすごくかわいいんだけど!
「あー、早くもコーラを我慢できなくなってきちゃったかも!」
「ちょっと……イチロー……。し、仕方ない……かな……」
俺たちは再びキスをした。
さっきより強く抱きしめ、少しだけ長い時間だった。
「こ、これで我慢できる……よね?」
「いや、ダメだ。禁断症状が出そうだ!」
「ええい、じゃあこれでもくらえ!」
今度はハカセが力づくで俺の唇を奪った。
あ、こういうのもいいかも……。
「えっと……お楽しみ中のところ、大変申し訳ありませんが、ドア空いてるよ」
気がついたら、ドアのところにナミ氏が立っていた。
「きゃあ、ナミ! いつからそこにいたの?」
「イチローが最後の一本だとか言って、コーラを飲んだあたりから」
うわぁ、結構前から見られていたじゃん!
「ナミ氏……見なかったことにしておいてほしいんだけど」
「はあ? あんな胸焼けするようなイチャイチャをしておいて、よく言うよね。糖尿病にでもなったらどうしてくれんのよ!」
「えっ、糖尿病?」
「ああ、もう。くっそ甘い雰囲気だからに決まってんじゃん。説明させんな、こっちが恥ずかしいわ」
ナミ氏は怒って、部屋を出ていった。
俺は……しっかりと鍵をかけた。