「帰ってきたぞ! 取り囲め~!」
俺とハカセが帰宅したところを、みんなが待ち構えていた。
俺はあっという間に取り囲まれ、上に放り投げられた。
日本では、胴上げというものらしい。
「わっしょい、わっしょい!」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ」
なにこれ、すごく怖いんだけど。
終わったときには、もうフラフラで立っていられなくなった。
日本人って、結構すごいことやるんだね。
「イチロー、大丈夫?」
ハカセが駆け寄ってきて、俺を支えてくれた。
でもさ、ハカセの笑い声……滅茶苦茶聞こえてきたんだけど?
「ダメだ……腰が抜けて動けない……」
「もう……だらしないなあ」
ハカセが俺の腰に手を回し、起こしてくれた。
って、いつまでしがみついているんだよ……。皆の前なんだぞ。
「いちゃつくのは、他所でやれ~」
「サクラ、ちょっと黙って……。イチローも動かない!」
「あ、はい……」
ハカセが真剣な顔でそう言ったので、俺たちは黙ってハカセを見守った。
難しい顔で、何かを考え込んでいたようだったが、しばらくして顔をあげた。
「イチロー、あなた太ったわよ。間違いないわ」
「いや、そんな訳ないだろ。大体、なんでそんなことが分かる?」
「それは……その……イチローには何度か抱きついていたからね……」
そういえば、何度かあったような気がする。
初めて会った日も抱きついていたし。
「でもさ、たまにだったよね。違いなんて分かるの?」
「分かるわよ。ナカマツ、ちょっと調べてくれない?」
「そうだね、調べてみれば分かることだ。でも、ハカセ君、そろそろ……イチロー君から離れたらどうだろう。彼、困ってるよ」
「あっ、ごめんなさい。いい匂いがするものだから、つい……」
ハカセは真っ赤な顔をしながら、俺から離れた。
「イッチ~、『ツンデレ』だけじゃなく『変態』の属性も増えたじゃん。やったね~」
「ちょっと、ナミ! 変なこと言わないで。私がいつ変態になったのよ」
「イッチの匂いをクンクンしながら、嬉しそうな顔してたじゃん。変態で間違いなし!」
「ナミ、さすがにそれは言い過ぎだよ。私も変態だとは思うけど」
「あーん、サクラまで……」
女子がわいわい騒いでいるのを放置し、俺はナカマツの診断を受けた。
結果は……本当に太っていた!
そんな馬鹿なことある?
だって、俺は不老不死なんだぞ。
ん? ちょっと待て……それって……。
「えっと……ハカセが言う通り、太ってました。割りとガッツリと……」
「ほらあ、私の言ったとおりだったでしょ! ねえ、皆……これが何を意味しているか、分かるわよね?」
「イチローは既に特効薬を見つけ、体に取り込んでいるということか!」
「そうよ、ボスが言う通り、イチローはもう見つけているのよ。念の為、全員検査をしましょう」
検査の結果、体型に変化があったのは、俺だけだった。
血液検査もしているので、もっと詳細な結果は3日後に持ち越しとなった。
- 3日後 -
血液検査の結果が出たということで、俺たちは船内の会議室に集合した。
そして、ナカマツ氏から驚愕の事実が明かされた。
「イチロー君とサクラ君の血液を分析したところ、二人の不老不死が弱くなっていることが判明しました。不老不死の要因となっている超回復能力が、イチロー君が40%、サクラ君では30%ほどの減少が見られる」
「俺とサクラだけ? なんでだろう……」
「簡単よ、炭酸飲料が原因ね。イチローはコーラ、サクラはビールを浴びるように飲んでいるじゃない」
「なるほど、その可能性は高いな。だが、効き目はそれほど強くないようで確認は難しいと思う。イチロー君、サクラ君があれほど飲んでいるのに、この程度の効果しかないのだからね」
「そうね。私たちは『特効薬』という言い方をしていたから、飲んだらすぐに治るようなイメージだったけど、少なくともそうではないということよね」
「多分だけど、大量に飲み続けて少しずつ解消していくということだから、半分だけ治療するとか、そういうことも可能なのだと思う」
皆が考え込んでいると、ハカセが立ち上がった。
「私から皆に提案があります。私は毎日強炭酸水を飲み続けるので、イチローは炭酸を禁止するというのはどうかしら?」
「いや、俺がコーラを飲めないだなんて、あまりに酷すぎない?」
「仕方ないじゃない、一番影響が出ているんだから。炭酸を絶ったイチロー、炭酸を飲み始めた私、炭酸を飲み続けたサクラを比べればハッキリすると思うのよ」
「イチロー、諦めろよ。代わりに私が飲んでやるから大丈夫だ」
サクラ氏!
くそう、自分は飲める側だからって、好き勝手言いやがって。
(イチロー、あとで大事な話があるの。だから、ここは受け入れてほしいの)
ハカセが俺の耳元で、そう囁いた。
何か考えがあるのだろうか……。俺はハカセを信じてみることにした。
「分かった。俺は結果が出るまで炭酸を飲まないことにする……。結果が出るまでだからな!」