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第51話 こんにちは、恋愛税務署です。そろそろ年貢を納めていただけますか

「あっ、目を覚ました! よかった!」


 私が目を開けると、イチローが私の顔を覗き込んでいた。


「ここはどこ?」


「ショッピングセンターの医務室だよ。ハカセがベンチで倒れていたので、俺が運んだんだ。貧血だってさ」


 全力疾走したり、大泣きしたり、ほっとしたりで色々不安定な状態だったもんね。

 そっか、イチローが運んでくれたんだね。


「いつも迷惑ばかりかけてごめんね。映画も台無しになっちゃったね……」


「それは別にいいんだ……。その……、西村さんから連絡があってさ、彼女が色々話したみたい……なの?」


「そうね、色々聞かせてもらったわよ。イチローがロリコンだってこともね」


 『私のことが好きなんだよね?』って言ってやりたかったけど、恥ずかしくて……こんな変な言い回しになってしまった。

 こういうところが、私の悪いところなのよね。


「もう否定できなくなっちゃったね。初めて会った日のこと……覚えてる?」


「あの病院で、私を助けてくれたんだよね」


「ハカセ言ってたよね、『10年後にお兄さんが独身だったら、私がお嫁さんになってあげてもいい』って」


「えっ、ちょっと……恥ずかしいじゃない。確かに言ったけどさ……」


「あれから10年、俺はこうして独身なんだよね」


 そう言いながら、イチローはカバンから小さな箱を取り出した。

 その箱を私に向けて開くと、そこには綺麗な指輪が輝いていた。


「えっ、それって……」


「ハカセ、俺と結婚してほしい。もちろん、結婚はハカセが大人になってからだから、それまでは婚約という形になるけどね」


 うわっ、えっ、何がどうなってるの?

 サクラのドッキリ企画じゃないよね!?


 これ、プロポーズ……だよね?


「……はい。よろしくお願いします」


「よかった……ずっと伝えたかった」


「ありがとう。私も……ずっとイチローが好きだったよ」


 どこからともなく、拍手が聞こえてきた。

 あ、ここって、ショッピングセンターの医務室だったっけ。

 こんなところでプロポーズしたのは、私たち以外いないだろうね。


 っていうかさ、私が倒れなかったら、『超ジョーズ』とかいうサメ映画の後にプロポーズしたのかしら。

 イチローって本当に変なセンスよね。

 その変なセンスを、生涯見届けることになるんだろうけど。


「おめでとう。幸せになるんだよ~」


「頑張ってね、若いっていいわね~」


 そんな声を掛けられながら、私たちは医務室を後にした。

 そういえば、私が子どもに見えることを不審に思われなかったなと思い、イチローに聞いてみたところ、ちゃんと高校生だって説明したらしい。

 日本だと結婚可能年齢は18歳らしいけど、婚約なら問題ないのかしらね。


 帰り道にちょっと寄り道をして、都庁をバックに2人で写真を撮った。

 もちろん、私の左手に指輪をはめて。


 『婚約しました』って件名にして、みんなに送信してみた。


「お、さっそくカトー氏から返事が来た」


「なんて書いてあるの?」


「えっとね、『メイドとの結婚はどうすんだ、この裏切り者!』だって……」


「さすが、カトーね。予想通りのアホな返事だったわよ。あとイチロー、メイドカフェは禁止だからね」


「……あ、うん。次はサクラ氏だ。えっと……『殺す』とだけ……。俺、まだ手を出してないのに」


「なんだか、変な反応が続いているわね。もう少し、祝ってくれてもいいと思うんだけど」


「あ、ボス氏からも来た。『いつか、こんな日が来ると思っていました。でも、ちょっと早いので、処刑はサクラに任せます』って、またこんな感じ……」


「あはは、ボスもこんなジョークを言うのね。結婚式はボスに父親役をしてもらうわね」


「今度はナカマツ氏だ。『婚約おめでとう。ボスがショックでダウンしたよ』だって。ナカマツ氏はちゃんと祝ってくれたね」


「あとは、ナミだけだね」


「ナミ氏も来たよ。『ウチはこうなると思ってたけど、いくらなんでも早すぎん? やーい、ロリコン!』」


「私、見た目が子どもだから仕方ないんだけど、ロリって言われるのはちょっと嫌なんだよね。学校でもそういうあだ名で呼んでくるやつがいるのよ」


「俺、本当は年上のセクシーな感じなお姉さんが好きなんだよ。ハカセとは大分違うから言えなかったけど」


「知ってたわよ。だって、たまにサクラの胸元をじっと見てるもんね。気付いてないと思ってた?」


「うわぁぁぁぁぁ。なんでそれを!」


「私だって、特効薬を見つけて成長したら……サクラより魅力的になるかもしれないわよ。もちろん、そうならなくても返品は不可能です」


「はい……。肝に命じます」


 二人でゆっくり話しながら、私たちは帰路についた。


 今日だけは……転送装置は不要ね。

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