目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

第46話 サクラ先生の復讐講座

 この3日間は地獄のようだった。

 後から空き缶をぶつけられたり、トイレに入っているときに水を掛けられたり……。

 すれ違いざまに『うざっ』って言われたりね。

 おかげで主犯格が判明したんだけどね。


 私はサクラに言われたように、『3日後は何倍にもなってお前に返ってくるんだぞ。ざまあみろ!』って思うようにしていた。

 それでも辛かったけど、必死で我慢していた。


 そして最終日に事件が起こった。

 私は体育館の裏に呼び出された。そこには10人ほどいただろうか。


「私に何の用かしら。まさか、喧嘩でも売るつもり?」


「そのまさかだったら、どうする? こっちは10人もいるんだよ。おチビが敵うとでも思ってるのかよ」


「思ってるけど。あんたたちなんて私一人で十分だよ」


「はぁ? あんた馬鹿なの? ちょっとかわいくて、頭が良いと思って調子に乗ってんじゃないわよ!」


 私は辺りを見回してみた。

 ……うん、誰も見てないな。


「で、どうするの? 大勢で私をボコるんじゃないの? それとも口だけかしら」


「うるさい! みんなやっちゃえ!」


 主犯格がそう言い、全員が身構えたのを見て、私は主犯格の『福井ももか』に向かって走り出した。

 一気に間合いを詰め、サクラに教わった前蹴りを叩き込んだ。


「ぐえっ」


 変な声を出して『福井ももか』は動かなくなった。

 全員が怯んだのを見逃さず、私は次々にローキックを叩き込んでいった。

 ほんの僅かな時間だったと思うけど、全員大怪我で倒れ込んでいる。私はももかが一応息をしていることだけ確認して、その場を立ち去った。


 ああ、ついにやっちゃった。

 地球人と能力差があるとはいえ、まるでサクラが暴れたあとみたいな風景を私が見ることになるなんて。



 - 翌日 -


『1年10組の藤原博美さん、至急理事長室まで来なさい』


 校内放送で私の名前が呼ばれ、クラスは騒然とした。

 今日はクラスの数人が出席しておらず、何かが起きていることを感じていただろうから。


 理事長室に入ると、理事長が私に着席を勧めた。理事長の他、教頭と担任の近藤先生も同席していた。

 私がソファに腰を下ろすと、理事長が話し始めた。


「昨日の放課後、10人の生徒が体育館裏で倒れていましてね。藤原さんのクラスの『福井ももか』さんがまだ意識不明なんです。幸い、命に別状はないようなので安心していますが……」


「それと私に何の関係が?」


「他の生徒も全員、体中を骨折して入院しているんです。彼ら全員、藤原さんにやられたと言っているので、お話を聞きたいと思いましてね。なにか知っていることがあれば話してくれませんか」


「では、先生方にお聞きします。10人の生徒を同時に相手に喧嘩をして、全員病院送りの大怪我をさせたと仮定した場合、私の体が無傷という可能性はありますか?」


「それは無理だろうね。それだけ人を殴ったり蹴ったりすれば、少なからず跡は残ると思う」


「そうですよね。では、近藤先生、これから私の体に傷が1つでもあるか確認していただけますか」


 私の提案を受け、先生方が顔を見合わせている。

 その後、近藤先生が私の目をしっかり見た。


「そうね……理事長、私が保健室に行って確認してきます。藤原さん、行きましょう」


 私は近藤先生と共に保健室へ向かった。

 制服を脱ぎ、下着姿で全身の傷を確認してもらった。

 もちろん、傷や痣は存在しない。


「どうでした? 私が暴れた証拠はありましたか」


「疑ってごめんなさい……藤原さんは無実ね。本当に良かった!」


 近藤先生は私を抱きしめ、何度も頭を撫でてくれた。


「先生、もう制服を着てもいいですか……」


「あっ、ごめんなさい。着ながらでいいから聞いてほしいんだけど……福井さんのお父様は学校の理事なの。私は藤原さんの味方だけど、このまま納まるとは思えないのよ」


「それは困りましたね……」


「藤原さん、他人事じゃないの。確かに傷は無かったけど、全員が藤原さんの名前を出している以上、もう巻き込まれているの」


「そうは言われましても、今できることは何もないので、事態を見守るしかないのでは?」


「藤原さん、あなた凄いわね。高1でそこまで肝が座っている人は初めて見たわよ。とにかく、何かあったらすぐ私に報告すること、いいわね!」


「はい」


 私と近藤先生が理事長室へ戻ると、ボスとサクラが来ていた。

 地球上では、ボスは叔父、サクラは姉という設定になっているので、保護者として呼ばれたのだろうか。


「近藤先生、どうでしたか」


「藤原さんの体には、小さな傷さえもありませんでした。大体、新入生の中でもひときわ小さい藤原さんが10人を病院送りにするなんて、いくらなんでも現実的に無理があります!」


「うむ。そのようだな。では、ご家族の話をお聞きしましょうか」


「理事長、実は私のところにクラスメイトを名乗る生徒から、動画がいくつか送られてきまして……ご覧ください」


 サクラがタブレットで動画を再生すると、そこには『福井ももか』が私に金銭を要求する姿が映っていた。

 これは記憶に無いから、ナミが作った映像なんだろう。


 それから、トイレで個室にいる私へ向かって水をかけて笑っている姿、上履きや教科書を隠している姿も……。

 こちらは記憶にある。こんな感じだったんだと、腹が立ってきた。


「これは……イジメではないか!?」


「これとは別ですが、動画サイトでこんなものも見つけました」


 動画サイトを開くと、体育館裏で乱闘している10人の映像が映っていた。

 日付は……昨日!

 あ、これもナミが作った映像ね。凄いわね、本当によくできている。


「ふむ……これはマズイことになった。学校の信用に関わる……」


 頭を抱える理事長に対し、ボスが口を開いた。


「理事長、博美が無実だということは証明できましたね。これは推測ですが、彼らは日常的に博美に対しイジメを行い、昨日の乱闘で怪我したことを博美のせいにしようとしたということでしょう」


「そうなりますね……」


「私はこちらに来る前、福井さんのご両親と話をしてきました。これらの動画を見せたところ、福井さんは責任をとって理事を辞任されるそうです。そこで提案ですが、空いた理事に私が入るのはいかがでしょう。もし承諾いただけるのであれば、寄付金として10億ほど用意しております」


「10億!」


「はい。もし承諾いただければ、マスコミ対応は私の方で沈静化させることをお約束します。承諾いただけない場合は……どうなっても知りません」


「分かりました。正式な決定は理事会で決定となりますが、ほぼ決定と言っていいでしょう」


 こうして、私に対するイジメ問題は一件落着となった。

 10人全員が退学、ボスが理事となるという、予想もつかない結果に、ただ驚くだけだった。


 動画の件は全てナミだった。

 超小型ドローンで私の周りを撮影し、集まった動画を加工していたのだ。

 この動画を集めるのに3日必要だったのね。


 この復讐作戦を考えたのはサクラ。

 サクラが言うには、モデル時代はひどいイジメが横行していたらしく、こういう守り方ができない人は長続きしないんだって……。怖い世界よね。

 ボスまで巻き込んで10億用意させるんだから、発想のスケールが凄い。


 私は……最初にできた友達を失うことになってしまったことが本当に残念だった。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?