「藤原さん、好きです。俺と付き合ってください!」
「ごめんなさい。私、好きな人がいるので、付き合えません」
今日はこれで3件目だ。
最近ナミの様子がおかしいので、あまり本気にしていなかったのだけど、ナミが言ったとおりに男子からの告白が相次いでいる。
というか、この学校の男子はロリコンばかりなのかしら。
(ねえ、最近あいつ調子乗ってない?)
(ほんとムカつくよね。自分でかわいいとか思ってそう)
(ロリのくせに、生意気よね)
聞こえてる。聞こえているんだよ。あ、聞こえるように言っているのか。
これもナミが言ったとおりになりつつある。
そして、今日は上履きが消えた。
これは完全にイジメだと確信した。
――
「サクラ……ちょっと相談があるんだけど」
「どうした? 浮かない顔をしてるじゃない」
「実はね……」
私は、今の自分の周りで起きていることを正直に全て話した。
サクラは険しい顔で黙って最後まで聞いてくれた。
「話しにくいことを相談してくれてありがとう。私に考えがあるから任せてもらえるかな。それと、念の為ハカセに護身術を教えるから、ついてきて」
私はサクラに連れられて、宇宙船の訓練室にやってきた。
普段はカトーとサクラが戦闘訓練をやっている部屋だ。
私は道着に着替えると、サクラと向き合った。
「じゃあ、私を好きに攻撃してみて。私を殺すつもりで思いっきりやっていいからね」
そんな事を言われても、私は人を攻撃したことなんてない。
でも、サクラは私のためにやってくれているんだから、真剣にやらないと。
「やー」
私は思いっきりサクラに蹴りを入れた。サクラは1ミリも動かず、私の蹴りを片手で受け止めた。
さらにお腹に渾身のパンチを入れたが、今度は受け止めようともしなかったので、私のパンチはサクラのお腹に当たった。が、お腹の筋肉がカチコチで、私の手が痛くなった。
サクラが強いのは知っていたけど、こんな次元の強さなの!?
「うん、とりあえずハカセの癖は分かったから、まずはそれを矯正しよう。ちゃんとした動きができるなら、地球人に負けることなんてないからね」
サクラが見せてくれた動きは、一切の無駄が無くて美しいと思えるものだった。確かに私の動きとはまるで違う。
本当に凄いと思ったのは、次に繰り出される技が全く分からないことだった。予備動作が完全に省略されているとでも言えばいいのだろうか。
「サクラ、今までちゃんと見たこと無かったけど、本当に凄いのね。技に入る予備動作っていうのかしら、そういう動きが一切無いし、無駄のない精錬された動きって感じがした」
「おっ、それが分かるとは素質があるんじゃないか。私の弟子になってみる?」
サクラが冗談っぽく笑った。
私は、このサクラの余裕がある笑顔に何度も救われているのだ。本当にこの人はすごい。
「弟子の件はともかく、さっきの型をやってみるから見て」
私はサクラの動きをトレースするように、真似をしてみせた。
一通りやったあと、サクラが細かく修正をしてくれた。1時間ほどで私は大体の動きを覚えることができた。
「やっぱり、ハカセは筋がいいね。じゃあ、次は攻撃の仕方を教えようか。その前に質問だ。100キロのパワーで相手を殴ったとき、拳に掛かる負担はどのくらい?」
「反作用ってことよね。ってことは100キロかしら」
「うん、正解。相手を殴っているとき、自分も殴られているようなものなのよ。だから、相手にダメージを与えつつ、自分のダメージを減らすことを考えないとダメ。じゃあ、どうすれば負担軽減になる?」
「うーんとね、相手を後に吹き飛ばすくらいの力で殴って、最後まで押し込む感じかしら」
「そうね。『とんでけ~』って思いながら殴ればいいと思う。当てることを目的にしちゃダメよ。あとはね、ダメージを受けにくい部位で攻撃することね。蹴る場合は脛じゃなくて、脛の筋肉で蹴るの」
「あ、だから体を捻るような体勢で蹴っているのね」
「そういうこと。じゃあ、脛の筋肉で蹴ることを意識してサンドバッグを蹴ってごらん」
私は思いっきりサンドバッグを蹴った。
スパン! という乾いた音が響く。
こんな重いものを蹴ったのに、それほど痛くないし、若干揺れている。
「すごい! 私、少し強くなったのね」
「さっきも言ったけど、単純な攻撃力なら、地球人の同級生に負けることはないよ。あとは数への対処だね」
数か……もし囲まれたらってことよね。
「複数人と戦う場合はどうすればいいの?」
「同時に戦う数を最小限にすることだね。後を壁にするとか、一本道に誘い込むとかね」
あ、そうか。
攻撃してくる方向を絞ればいいのか。
「誰から攻撃すればいいの?」
「リーダー格を最初の一発で倒すのがベストだよ。これで士気が下がるからね。例えばこんな攻撃とかね」
サクラは前蹴りをサンドバッグに入れた。
本気で蹴ってないことが分かるのに、グワングワン揺れている。
「うわ……」
「ハカセは右利きだから、右足で前方にジャンプして、そのまま右足で前蹴りを入れる。相手の胸あたりを狙うんだ。当たれば間違いなく吹っ飛ぶし、しばらく動けなくなるはずだよ」
私はサクラに言われたように、サンドバッグに向かって前蹴りをやってみた。
サクラほどじゃないけど、少し揺れている。これは使える!
「できた!」
「天才だったか。あとは、他の奴らにはさっきのローキックをお見舞いしてやればいい。地球人の同級生なら動けなくなるはずだ。足を蹴るだけだから死ぬこともないしね」
「サクラ、ありがとう。私、ちょっと自信がついたよ」
「だけど、これは最終手段だからね。あと、この技を使うときは誰にも見られないように気を付けて」
「うん、分かった!」
「そして、問題の件だけど、ボスとナミに手伝ってもらうことにする。ハカセ、辛いかもしれないけど3日我慢してくれ。その間で反撃の準備を整えるから」
3日間……。
短いようで長いね。
「3日間も……?」
「その間、何かあったらこう考えるんだ『3日後に何倍にもなって返るんだ、そのための燃料なんだ』ってね」
「分かった。なんとか耐えてみる……」
私の短くて長い3日間が始まる。