目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

第45話 サクラ先生のぶん殴り方講座

「藤原さん、好きです。俺と付き合ってください!」


「ごめんなさい。私、好きな人がいるので、付き合えません」


 今日はこれで3件目だ。

 最近ナミの様子がおかしいので、あまり本気にしていなかったのだけど、ナミが言ったとおりに男子からの告白が相次いでいる。

 というか、この学校の男子はロリコンばかりなのかしら。


(ねえ、最近あいつ調子乗ってない?)


(ほんとムカつくよね。自分でかわいいとか思ってそう)


(ロリのくせに、生意気よね)


 聞こえてる。聞こえているんだよ。あ、聞こえるように言っているのか。

 これもナミが言ったとおりになりつつある。


 そして、今日は上履きが消えた。

 これは完全にイジメだと確信した。


 ――


「サクラ……ちょっと相談があるんだけど」


「どうした? 浮かない顔をしてるじゃない」


「実はね……」


 私は、今の自分の周りで起きていることを正直に全て話した。

 サクラは険しい顔で黙って最後まで聞いてくれた。


「話しにくいことを相談してくれてありがとう。私に考えがあるから任せてもらえるかな。それと、念の為ハカセに護身術を教えるから、ついてきて」


 私はサクラに連れられて、宇宙船の訓練室にやってきた。

 普段はカトーとサクラが戦闘訓練をやっている部屋だ。


 私は道着に着替えると、サクラと向き合った。


「じゃあ、私を好きに攻撃してみて。私を殺すつもりで思いっきりやっていいからね」


 そんな事を言われても、私は人を攻撃したことなんてない。

 でも、サクラは私のためにやってくれているんだから、真剣にやらないと。


「やー」


 私は思いっきりサクラに蹴りを入れた。サクラは1ミリも動かず、私の蹴りを片手で受け止めた。

 さらにお腹に渾身のパンチを入れたが、今度は受け止めようともしなかったので、私のパンチはサクラのお腹に当たった。が、お腹の筋肉がカチコチで、私の手が痛くなった。

 サクラが強いのは知っていたけど、こんな次元の強さなの!?


「うん、とりあえずハカセの癖は分かったから、まずはそれを矯正しよう。ちゃんとした動きができるなら、地球人に負けることなんてないからね」


 サクラが見せてくれた動きは、一切の無駄が無くて美しいと思えるものだった。確かに私の動きとはまるで違う。

 本当に凄いと思ったのは、次に繰り出される技が全く分からないことだった。予備動作が完全に省略されているとでも言えばいいのだろうか。


「サクラ、今までちゃんと見たこと無かったけど、本当に凄いのね。技に入る予備動作っていうのかしら、そういう動きが一切無いし、無駄のない精錬された動きって感じがした」


「おっ、それが分かるとは素質があるんじゃないか。私の弟子になってみる?」


 サクラが冗談っぽく笑った。

 私は、このサクラの余裕がある笑顔に何度も救われているのだ。本当にこの人はすごい。


「弟子の件はともかく、さっきの型をやってみるから見て」


 私はサクラの動きをトレースするように、真似をしてみせた。

 一通りやったあと、サクラが細かく修正をしてくれた。1時間ほどで私は大体の動きを覚えることができた。


「やっぱり、ハカセは筋がいいね。じゃあ、次は攻撃の仕方を教えようか。その前に質問だ。100キロのパワーで相手を殴ったとき、拳に掛かる負担はどのくらい?」


「反作用ってことよね。ってことは100キロかしら」


「うん、正解。相手を殴っているとき、自分も殴られているようなものなのよ。だから、相手にダメージを与えつつ、自分のダメージを減らすことを考えないとダメ。じゃあ、どうすれば負担軽減になる?」


「うーんとね、相手を後に吹き飛ばすくらいの力で殴って、最後まで押し込む感じかしら」


「そうね。『とんでけ~』って思いながら殴ればいいと思う。当てることを目的にしちゃダメよ。あとはね、ダメージを受けにくい部位で攻撃することね。蹴る場合は脛じゃなくて、脛の筋肉で蹴るの」


「あ、だから体を捻るような体勢で蹴っているのね」


「そういうこと。じゃあ、脛の筋肉で蹴ることを意識してサンドバッグを蹴ってごらん」


 私は思いっきりサンドバッグを蹴った。

 スパン! という乾いた音が響く。

 こんな重いものを蹴ったのに、それほど痛くないし、若干揺れている。


「すごい! 私、少し強くなったのね」


「さっきも言ったけど、単純な攻撃力なら、地球人の同級生に負けることはないよ。あとは数への対処だね」


 数か……もし囲まれたらってことよね。


「複数人と戦う場合はどうすればいいの?」


「同時に戦う数を最小限にすることだね。後を壁にするとか、一本道に誘い込むとかね」


 あ、そうか。

 攻撃してくる方向を絞ればいいのか。


「誰から攻撃すればいいの?」


「リーダー格を最初の一発で倒すのがベストだよ。これで士気が下がるからね。例えばこんな攻撃とかね」


 サクラは前蹴りをサンドバッグに入れた。

 本気で蹴ってないことが分かるのに、グワングワン揺れている。


「うわ……」


「ハカセは右利きだから、右足で前方にジャンプして、そのまま右足で前蹴りを入れる。相手の胸あたりを狙うんだ。当たれば間違いなく吹っ飛ぶし、しばらく動けなくなるはずだよ」


 私はサクラに言われたように、サンドバッグに向かって前蹴りをやってみた。

 サクラほどじゃないけど、少し揺れている。これは使える!


「できた!」


「天才だったか。あとは、他の奴らにはさっきのローキックをお見舞いしてやればいい。地球人の同級生なら動けなくなるはずだ。足を蹴るだけだから死ぬこともないしね」


「サクラ、ありがとう。私、ちょっと自信がついたよ」


「だけど、これは最終手段だからね。あと、この技を使うときは誰にも見られないように気を付けて」


「うん、分かった!」


「そして、問題の件だけど、ボスとナミに手伝ってもらうことにする。ハカセ、辛いかもしれないけど3日我慢してくれ。その間で反撃の準備を整えるから」


 3日間……。

 短いようで長いね。


「3日間も……?」


「その間、何かあったらこう考えるんだ『3日後に何倍にもなって返るんだ、そのための燃料なんだ』ってね」


「分かった。なんとか耐えてみる……」


 私の短くて長い3日間が始まる。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?