春になり、私は高校生となった。
イチローも無事に大学に合格したので、私たちは揃って新学期を迎えることになった。
そして、今日は私の入学式だ。
私は、数学で満点、国語と英語は残念ながら数問落としたのだけど、開校以来の最高得点で合格をしたということで、新入生代表のスピーチを行うことに……。
こういう経験がないから不安なんだけど、ボスとサクラが保護者として出席するらしいので頑張らないと!
教室に入ると、クラスメイトが一斉に私の方を見た。
そりゃそうよね。私、明らかに子どもだもん。
目が合った人には笑顔を返し、私は黙って席についた。
私立の学校なので、お互いに知り合いというのはあまりないらしく、皆静かにしていた。
この中から親友ができればいいんだけど。
しばらくすると、担任の先生が入ってきた。
近藤先生という、若い女性だ。
担当教科は数学ということなので、ナミみたいな感じなのかしら。
その後、入学式の流れとか学校生活についての説明を受け、いよいよ入学式となった。
――
「新入生入場」
私は1年10組で並び順も最後の方(名字が藤原だから)なので、最後の最後の入場となった。
ボスとサクラはすぐに見つけられた。
あんな目立つ2人はそういないんじゃないかな。というかね、入学式にサングラス姿はさすがにどうかと思う。
「新入生挨拶。新入生代表、藤原博美」
私が席を立って歩き始めたら……ざわめきだした気がする。
私がかわいいから? それとも子どもっぽいから?
マイクの前に立つと、急に静まり返った。
えっ、何この空気?
この会場の全員が黙って私を見てるんだよね?
やばい……頭が真っ白になってきた。
「ハカセ!」
その瞬間、イチローの声が聞こえた。
いや、でも……イチローも大学の入学式だったはず。
ということは、幻聴なの?
そんなことを考えていたら、いつの間にか緊張が止んでいたことに気がついた。
私は練習通り、挨拶文をすべて読み上げ、無事に入学式を終えることができた。
あれは一体なんだったのだろう。
――
「藤原さん、挨拶恰好良かったじゃん。私、福井ももかって言うの。仲よくしてくれる?」
教室に戻ったあと、前の席の子が声をかけてくれた。
「うん。ありがとう。なんて呼べばいい?」
「ももかでいいよ。私も博美って呼ぼうかな~。博美ってどこ中なの?」
「あ、私ね……。外国育ちなの。なので満足に学校行けてなかったんだ……」
「えっ、なんで? 外国だって学校はあるでしょ」
「えっとね、ずっと戦争をしていたし、病気で長いこと入院してたりしてね……そういう国もあるんだよ」
戦争……。
私がその単語を口にしたとき、クラス中が静まり返った。
私、余計なこと言っちゃったかな?
「そっか、変なこと聞いちゃったね……ごめん。その分、高校生活を楽しもうよ」
「そうだね。これからよろしく」
「藤原さん、私もよろしく!」
「私も」
「私も」
私とももかの会話を聞いていた子も何人かやってきて、私たちは友達となった。
久しぶりに友達が出来て、私の気持ちは昂っていた。
高校生活が楽しみだ。
- 同時刻:イチロー -
俺は大学の入学式に出席している。
久しぶりの大学なんだけど、地球の入試は簡単だった。
こんなことなら、もっと上位の学校にすれば良かったと後悔したのだが、とりあえずは学生生活を楽しもうと思う。
そういえば、今日はハカセも入学式なんだよな。
新入生代表で挨拶するみたいだけど、上手くやれているかな?
退屈な入学式が終わり、会場から出ると、サークルの勧誘が待ち構えていた。
俺は特に入るつもりがなかったので、軽くあしらいながら帰路につこうとしたのだけど、上級生に囲まれて困っている女子を見かけた。
「おまたせ! じゃあ行こうか」
「えっ、あ……はい……」
俺はその女性の腕を掴み、上級生から引き離すように連れ去った。
「困っているみたいだったから、知り合いのフリをしちゃった。迷惑だったらごめんね」
「いえ、本当に助かりました……私、気が弱くて断れなかったので……」
「そっか。押しの強そうな上級生だったもんね。じゃあ、俺は行くね」
「あ、待ってください。私、西村宏美って言います。さっき入学式で見かけましたけど、同じ理工学部ですよね」
彼女は連絡先を書いたメモを俺に渡してきた。
俺はそれを受け取り、ポケットの中に入れた。
「同じ理工学部だなんて奇遇だね。佐藤一郎と言います。よろしくね」
俺の大学生活も少しづつ動き出していた。