「ハカセちん、入るよ~」
ウチがハカセちんの部屋に入ると、ベッドの上で体育座りをしていた。
とても分かりやすい落ち込み方をしていたので、思わず笑いそうになったんだけど!
「ナミ……どうしよう……私、またやっちゃった」
ハカセちんって、プライドが高くて怒りっぽい性格なんで、こういう事を何度も繰り返している。
いつもは、さっきゅんが話を聞きに行っているのだけれど、今日は当事者なんだよね。
「ん~、でも悪いのはイッチとさっきゅんだね。さっき、二人には注意しといたから」
「そういうことじゃないの。イチローは私が料理をしやすいように発明してくれたのに、私はまた怒っちゃった……面倒くさい女だよね」
「まあ、確かにハカセちんはちょっと怒りっぽいよね。子どもみたいでかわいいけど」
「やっぱり、子どもっぽいって思ってるんだ……」
あ、ほら。そういう拗ね方だよ。
ウチはかわいいと思うけど、イッチにしてみれば困っちゃうよね。
自分に好意を寄せてくれている女性が、こんな感じなんだもん。
「それはさておき」
「いや、大事な話だよね。なんでさておくのよ?」
「実は朗報があるのだよ。ここへ来る前、イッチに伝言を頼まれているの」
「イチローはなんて?」
「ハカセちんと同じく、受験をするってさ。高校じゃなくて大学みたいだけど、工業系らしい」
実はこれ、ウチがイッチを誘導したんだ。
発明品を作ることになってから、頻繁にイッチのところに行き、相談に乗っている雰囲気で大学受験を勧めまくったという訳。
元々イッチは大学生のときに病気で入院してしまったので、卒業できなかったことを残念に思っていたみたいだしね。
「えっ、なんで急に?」
「機械関連は私たち2人でやってるじゃん。実際に発明してみて、大変さが理解できたから少しでも手伝えるようにって」
「イチロー……」
「でもさ、遅すぎない? 10年前に気付いてくれてたら、もっと状況が違ってたはずなんだよ」
「あはは。イチローらしいよね」
おっ、やっと笑ってくれたか。
「ってことで、2人のことを許してあげてほしいんだけど、大丈夫そ?」
「うん。もちろん」
「そっか、それは良かったよ。ハカセちん、これからもイッチと仲よくしないとダメだよ」
「私もこの面倒くさい性格を直さないとね。それにしても、ナミってやっぱり何か変わったような気がするんだよ。今までだったら、私とイチローのことをそこまで心配してなかったし、何ならイチローのことはちょっと馬鹿にしてたよね」
またこの話か……。
ウチは何にも変わってないんだけど、そう思われても仕方ないかな。
っていうかさ、みんな勘が良すぎじゃない?
ウチがペラペラ喋りすぎているのかもしれないけどさ。
「……その答えを言う前に聞きたいんだけどさ、ハカセちんはイッチと将来結婚したいと思ってる?」
「な、何よ急に……。まあ、そうなれたら……いいと思ってるよ」
ハカセちんはイッチの事となると、いっつも消極的なんだよね。
本当はまだ話すつもりは無かったんだけど、少しだけ話しておくか……。
「そうだよね。じゃあ言うけどさ、ウチはハカセちんとイッチが将来結婚すると確信しちゃったんだよね。今までは無いなって思ってたんだけどさ、確信しちゃったからね、応援しようと思ってるんだよ」
「えっ、ごめん。ちょっと意味が分からないんだけど」
「分からなくて当然だと思うよ。ウチだってそうだからね。でもさ、多分間違いないから、ウチのことを信じて自信を持ってほしいんだよ」
「まあ、その……無理って言われるより、遥かにありがたい話なんだけど……。根拠が全く分からないのよ」
「根拠なんてどうだっていいじゃん。とにかくイッチと結婚できるんだから、信用しろし」
「ナミって数学の天才なのに、時々こういう訳の分からないこと言うのよね。でも、応援してくれるっていうのなら、大歓迎よ」
あっ、これは信用してなさげ。
「まだ疑ってるよね? 今回の件だってさ、イッチが一緒に受験してくれるって事だし、将来的にはハカセちんのサポートをしてくれるようになるんだから、距離は縮まってるはずなんだよ」
「ふうん、他には何か確信したことってあるの?」
「うーん。地球で特効薬が見つかるってことくらいかな……」
「えっ、『見つかるってことくらい』ってレベルの話じゃないでしょ。むしろ大事件でしょ。これも根拠はないの?」
言ってから気付いたけど、これはさすがに言い過ぎたかも。
信じてもらえていないのが、かえって良かったとおもう。
「無いね。でも、多分間違いないよ」
「あーん、ナミが分からなくなってきた……」
「今の話は他言無用だからね」
「当たり前でしょ。私の頭がおかしくなったって思われちゃう……」
「それな。ウチでも多分そう思うわ」
ま、別にいいか。真実はいずれ分かるからね。