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第41話 イチローはいつも、こういうところで間違える

「じゃあ、俺の動きをよく見ていてね」


 俺は今日もハカセに料理を教えている。

 今日はたまご料理を色々とやっているのだが、ハカセが割ると殻が入ってしまうのだ。


「すごい! 前から思っていたけど、イチローって手先が器用なのよね」


 俺が片手でたまごを割ると、興奮した感じでハカセが感心していた。


「そんなに難しくはないんだよ。ほら、ここにヒビを入れて、あとはテコの原理だな。ここが支点になる感じ」


「なるほど、それなら私でもできそうな気がする。えっと、こうやって……あっ!」


 ハカセの小さな手に握られていたたまごは、グチャッと潰れてしまった。

 手がたまごまみれとなり、少し涙目になりつつある。


「大丈夫、どんな事でも失敗はつきものだよ。じゃあ、次は大根おろしでもやってみようか」


「わかった……やってみる」


 ハカセは小さな手で大根を握り、必死でおろし金に擦り付けた。

 そのとき、大根が手からすっぽ抜けて、キッチンの奥へ飛んでいった。


「大丈夫だから! 最初から上手くできる人なんて、滅多にいないからさ」


 俺は慌てて大根を回収し、今にも泣きそうなハカセの前で膝をついて、そう諭そうとした。


「イチロー、ごめんなさい。また明日教えてくれるかしら……」


 ハカセはそう言った後、項垂れながら自分の部屋に戻っていった。

 二度も連続で失敗したのだから、プライドの高いハカセには辛かったのだろう。


 あれっ……。


 その時、俺は大事なことに気がついた。

 ナミ氏が言っていた『俺がハカセよりも得意なこと』って、料理のことなのかもしれない。

 そうか……だとすれば!



 - 3日後 -


「みんな、やっと俺の発明品が出来たんだ。すごい発明品だからって腰を抜かすなよ」


「イッチ、フラグ立てまくってるけど……大丈夫そ?」


「ま、イチローのことだからな。今日は思いっきり笑わせてもらうぜ。な、ハカセ」


 くっ、相変わらず女子勢は辛口だな。

 まあいいだろう。今は勝手に言わせておけばよいのだ。


「さあ、見やがれ!」


 俺が発明品の上にかけていたシートを取ると、2つの発明品が姿を現した。

 どうだ、すごいだろう。


「えっと……これは一体……?」


「見て分かるだろ、『全自動たまご割り機』と『自動大根おろし機』だ!」


「うわあ、やっぱりイチローだな……お前は本当に期待を裏切らない……」


 カトー氏は、あからさまにがっかりした表情を見せた。あれっ、思ってた反応と違う。

 周りを見回してみると、ハカセは何故か睨んでいるし、他の皆は呆れた顔をしている。

 えっ、なんで?


「イチロー、ちょっとビックリしたんだが、一応実演してみてくれないか」


 ボス氏!

 そうこなくっちゃね。実際に見たら、皆驚くに違いない。


「もちろんだよ。まずここにたまごを入れて、このボタンを押すと……ほら、たまごが割れて、中身がこのお皿に残るんだ」


「イチロー、この間チャーハンを作ってくれたじゃん? あのとき、すごいペースで割ってたと記憶してるんだけど……手で割ったほうが早くない?」


「あっ……」


 くそう、さすがはサクラ氏……。

 なかなか痛い所を付いてくる。


「いや、『あっ……』じゃないよ。両手に持って同時に割ったりできるんだからさ、これ意味ないじゃん」


「では、気を取り直して……次の発明品です。ここに大根を挟んでスイッチを入れるだけ! 今度は手作業より早いからね。スイッチオン!」


 しゃーこ、しゃーこ、しゃーこ……。

 ちょっと、皆黙って見てないで何か言って!


「でさ、この大根おろし何に使うの? 多分だけどさ、1年に1回使えばいいくらいだよね」


 サクラ氏!

 だから、そういうツッコミやめて!


「大体さあ、たまご割りとか、大根おろしとか、別に機械化しないと困るなんてことないじゃない。誰でもできるんだから、手作業で十分でしょ」


「……わたし……むり……だもん」


「えっ? ハカセ?」


 きょとんとした顔でハカセを見るサクラ氏。


「だーかーらー、私はたまごも割れないし、大根も満足におろせないのよ! もう、サクラなんて大っきらい! イチローも、こんなものを作ってさ……私を馬鹿にしてるんでしょ。大っきらい!」


 ハカセは泣きながらそう怒鳴ると、宇宙船の自室に籠もってしまった。

 良かれと思って作ったのに、ハカセを傷つけてしまった……。

 どうしよう……。


「さっきゅんの悪い癖が出たね……さすがに、あれはないわ。イッチはとりま死んでもろて」


 ちょっ……ひどすぎない?


「そう言うけどさ、ハカセのことだなんて分からないじゃない?」


「イッチが作ってるんだから、なんとなく危なそうだって分かるじゃん。さっきゅんいつも言ってるよね、ハカセちんがおかしいときはイッチのしわざだって。逆もそうなんだよ」


「ああ、そうか……そうだよな。迂闊だった……」


 えっ、ちょっと待って。

 俺、滅茶苦茶ディスられているんだけど。

 確かに、ハカセの性格を考えたら、あんな物を作るべきじゃなかったのかもしれないけど……。


「ちょっと皆落ち着いてくれ。サクラとイチローは宇宙船の自室で待機。ハカセのフォローは……ナミに頼めるか?」


「りょ。ボッスン、任せといて」


 俺は、自室のベッドで横になった。

 ハカセに喜んでもらおうと思っていたのに、最悪の結果となってしまった。

 人の心は難しい……。


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