「これは美味いな。ハカセ、頑張ったね」
お好み焼きを口に運びながら、カトー氏が手放しでハカセを褒めた。
カトー氏もハカセのことを常に心配している大人の一人だけど、あまりベタ褒めするようなことはなかった。
それだけ美味しかったのだろうし、ハカセの成長を喜んでいるのだろう。
「ほんとだね、これは美味しいね」
「ハカセ君、頑張ったね」
「ハカセちん、やるじゃん」
「ハカセ、もっと食べるから、どんどん焼いて!」
カトー氏だけでなく、皆笑顔で食べていた。
ふと、ハカセを見ると、うっすら涙を浮かべている。
俺も食べてみたが、本当に美味しかった。
教えたことを忠実に守っているので、当たり前といえば当たり前なのだけど。
ハカセにとって重要なのは、こういう小さな成功体験を積み重ねることだと思う。
「一旦俺が代わるから、ハカセも食べなよ。本当に美味しいからさ」
「ありがとう……全部イチローのおかげだね。私、なんてお礼を言ったらいいのか……」
「そんなことはどうでもいいからさ、冷めないうちに食べちゃって」
「へぇ~、イッチってそんなカッコイイこと言うんだ~」
ナミ氏がニヤニヤしながら、からかってきた。
どうでもいいけどさ、歯に青ノリ付いてるぞ。
「からかうのは止めてもらえるかな。っていうかさ、ハカセは受験勉強で忙しい中頑張ってるんだから、俺のことで時間を取らせたくないんだよね」
「じゃあさ、イッチも何か挑戦してみるってのはどう? 頑張ってない人に『頑張って!』って言われても説得力ないじゃん」
「おっ、いいじゃん。じゃあ、イチローはハカセを見習って発明でもしてみたらいいんじゃないかしら。ハカセだってイチローから料理を習ってるんだし、これで対等よね」
サクラ氏まで余計なことを……。
面倒くさいじゃん。
「じゃあ、イチローは何か便利な発明品を作ってくれるかな。2つくらい作ってくれればいいからさ」
えっ、ボス氏まで……。
これはもう……やるしかないのか。
「分かったよ、やればいいんでしょ。俺の発明品を見て腰を抜かしても知らないからな!」
「イチロー、頑張ってね。困ったときには相談に乗ってあげるよ」
「大丈夫! 今回は一人で全部やるからね」
と、非常に面倒くさいことをしなければならなくなった。しかも、完璧にノープランなんだよね。
いやあ、本当にどうしよう……。
- 1週間後 -
「いっ~ち~、発明は順調に進んでる?」
「ナミ氏……実は全く進んでないんだ……発明って結構難しいんだね、甘く見てたよ」
この一週間、俺はずっと悩み続けていた。2つくらいなら、すぐに思いつくと思ってたのに、全く思いつかず……。
しかも、自分で作らないといけないのだから、難しいものは無理なんだよね。
「ウチとハカセちんの苦労、分かってもらえた? イッチはいつも無茶な要求をしてくるけどさ、ウチらはいつもこんな気持ちで作業をしてるんだよ」
「うん。 色々考えてみたんだけどさ、ボス氏が『2つ』って言った理由は俺が立て続けに2つ依頼したからなのかなって……」
「そっか、ボッスンならあるかも。ボッスンって、ウチらに考えさせるように誘導してくるところあるじゃんね」
「それでさ、発明品って言ってもさ、ここには大体揃ってるじゃん。思いつくものなんて、既にあるものばかりなんだよ」
「うーん、どうかな。設計図は大体、ハカセちんが作ってるけどさ……。ハカセちんが苦手だけどイッチが得意な分野なんか、案外狙い目かもよ」
えっ、そんな分野あったっけ?
改めて考えてみると、俺ってハカセに何も勝てないじゃん……。
昔は俺が勉強を教えていたはずなのに、いつの間にここまで抜かれていたのだろうか。
「俺、今さら気付いたんだけど、ハカセに全部負けている気がする……」
「ハカセちんは努力家だからなあ。でも、さすがに全部負けているってのは違うような気がするんで、じっくり考えてみたらいいんじゃね」
「ナミ氏がそういうなら、何かあるのかもね。それにしても、最近なんか優しい気がするんだけど、どういう心境の変化なの?」
「最近気分がいいだけだよ。ま、そのうちイッチも分かると思うけどね」
ん? どういう意味だろう……?
俺の頭にモヤモヤした疑問が浮かんだ。
いやいや、そんな事を考える前に、まずは発明品を考えないとね。