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第40話 大喜利『こんな発明品がほしい。 どんな発明品?』

「これは美味いな。ハカセ、頑張ったね」


 お好み焼きを口に運びながら、カトー氏が手放しでハカセを褒めた。

 カトー氏もハカセのことを常に心配している大人の一人だけど、あまりベタ褒めするようなことはなかった。

 それだけ美味しかったのだろうし、ハカセの成長を喜んでいるのだろう。


「ほんとだね、これは美味しいね」


「ハカセ君、頑張ったね」


「ハカセちん、やるじゃん」


「ハカセ、もっと食べるから、どんどん焼いて!」


 カトー氏だけでなく、皆笑顔で食べていた。

 ふと、ハカセを見ると、うっすら涙を浮かべている。


 俺も食べてみたが、本当に美味しかった。

 教えたことを忠実に守っているので、当たり前といえば当たり前なのだけど。

 ハカセにとって重要なのは、こういう小さな成功体験を積み重ねることだと思う。


「一旦俺が代わるから、ハカセも食べなよ。本当に美味しいからさ」


「ありがとう……全部イチローのおかげだね。私、なんてお礼を言ったらいいのか……」


「そんなことはどうでもいいからさ、冷めないうちに食べちゃって」


「へぇ~、イッチってそんなカッコイイこと言うんだ~」


 ナミ氏がニヤニヤしながら、からかってきた。

 どうでもいいけどさ、歯に青ノリ付いてるぞ。


「からかうのは止めてもらえるかな。っていうかさ、ハカセは受験勉強で忙しい中頑張ってるんだから、俺のことで時間を取らせたくないんだよね」


「じゃあさ、イッチも何か挑戦してみるってのはどう? 頑張ってない人に『頑張って!』って言われても説得力ないじゃん」


「おっ、いいじゃん。じゃあ、イチローはハカセを見習って発明でもしてみたらいいんじゃないかしら。ハカセだってイチローから料理を習ってるんだし、これで対等よね」


 サクラ氏まで余計なことを……。

 面倒くさいじゃん。


「じゃあ、イチローは何か便利な発明品を作ってくれるかな。2つくらい作ってくれればいいからさ」


 えっ、ボス氏まで……。

 これはもう……やるしかないのか。


「分かったよ、やればいいんでしょ。俺の発明品を見て腰を抜かしても知らないからな!」


「イチロー、頑張ってね。困ったときには相談に乗ってあげるよ」


「大丈夫! 今回は一人で全部やるからね」


 と、非常に面倒くさいことをしなければならなくなった。しかも、完璧にノープランなんだよね。

 いやあ、本当にどうしよう……。



 - 1週間後 -


「いっ~ち~、発明は順調に進んでる?」


「ナミ氏……実は全く進んでないんだ……発明って結構難しいんだね、甘く見てたよ」


 この一週間、俺はずっと悩み続けていた。2つくらいなら、すぐに思いつくと思ってたのに、全く思いつかず……。

 しかも、自分で作らないといけないのだから、難しいものは無理なんだよね。


「ウチとハカセちんの苦労、分かってもらえた? イッチはいつも無茶な要求をしてくるけどさ、ウチらはいつもこんな気持ちで作業をしてるんだよ」


「うん。 色々考えてみたんだけどさ、ボス氏が『2つ』って言った理由は俺が立て続けに2つ依頼したからなのかなって……」


「そっか、ボッスンならあるかも。ボッスンって、ウチらに考えさせるように誘導してくるところあるじゃんね」


「それでさ、発明品って言ってもさ、ここには大体揃ってるじゃん。思いつくものなんて、既にあるものばかりなんだよ」


「うーん、どうかな。設計図は大体、ハカセちんが作ってるけどさ……。ハカセちんが苦手だけどイッチが得意な分野なんか、案外狙い目かもよ」


 えっ、そんな分野あったっけ?

 改めて考えてみると、俺ってハカセに何も勝てないじゃん……。

 昔は俺が勉強を教えていたはずなのに、いつの間にここまで抜かれていたのだろうか。


「俺、今さら気付いたんだけど、ハカセに全部負けている気がする……」


「ハカセちんは努力家だからなあ。でも、さすがに全部負けているってのは違うような気がするんで、じっくり考えてみたらいいんじゃね」


「ナミ氏がそういうなら、何かあるのかもね。それにしても、最近なんか優しい気がするんだけど、どういう心境の変化なの?」


「最近気分がいいだけだよ。ま、そのうちイッチも分かると思うけどね」


 ん? どういう意味だろう……?

 俺の頭にモヤモヤした疑問が浮かんだ。


 いやいや、そんな事を考える前に、まずは発明品を考えないとね。


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