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第38話 ナミに一体何が起きたのか……

「こちらナミ、皆聞こえてる?」


「こちらハカセ、聞こえてるよナミ。何かあった?」


 真剣なナミの声に、慌てて反応するハカセ。

 何かトラブルでも起きたのだろうか。


「ゴール地点付近に何かいるみたい。帰還する前に調査してみるね」


「ナミ! 無茶はするな。一旦こっちに戻るんだ」


 ボス氏はそう指示したのだが、ナミ氏との通信が切れてしまい、残念ながら指示は伝わらなかったようだ。


 俺たちはナミ氏からの応答を待ち続けた。

 10分、20分……1時間、2時間と静かなまま、時が流れていた。


「ざ……ざざ……こちらナミ……皆聞こえる?」


「ナミ! 大丈夫なの?」


「うん、大丈夫だよ。なんか通信機器の具合が良くないみたいだったけど、回復したみたい。調査結果だけど、特に何も見つからなかったので、これより帰還するね」


 良かった……。

 それにしても、一体何だったんだろう。


 帰還したナミ氏には特にダメージを受けている様子もなく、むしろ機嫌がいいようにさえ感じた。

 こっちは皆で心配したのに!


「ナミ~、心配したよお~」


 ハカセが泣きながら、ナミ氏に抱きついた。ナミ氏はハカセをギュッと抱きしめたあと、俺の方を見て微笑んだ。

 あれっ、ついさっきまで『豚野郎』呼ばわりされていたはずなのに、どういう心境の変化なのだろうか。


「ボス、ガンガルのメインパイロットはウチで決まりだよね?」


「そうだな、ナミが最善だと思う。だけど、複座式にしているんだから、カトーが砲撃手として乗ることもあるかもしれんぞ。あと、イチローも万が一ということがあるかもしれないから、一応練習しておくように」


 そう、ガンガルのコックピットは複座式となっている。狙撃などの集中力が要求される一部の作業だけを分担できるのだ。

 こうすることで、ナミ氏が操作し、カトー氏が狙撃するといった戦術が取れるようになる。


「分かってるよ、ウチほどじゃないにしても、カトリンもなかなかやるじゃん。見直したよ」


「驚いたのは俺の方だぞ、あんな速度を出したりして、体は大丈夫だったのか? 俺でも耐えられるかってレベルだったぞ」


「ん~、ウチだってあれが限界だったよ。でもさ、なんだか気持ち良くて、まるで自分自身のようだったんだよ。分かるかな?」


「そうだな……分かるよ。あれは一流のパイロットだけが感じる境地だけどな……」


「そっか、ウチはもうパイロットなんだね。カトリン、戦い方のコツを教えてくれる?」


「俺でよければ教えてもいいが……お前、なんかおかしいぞ」


「ウチがおかしい?」


「ああ、見た目はいつものナミと変わらないが、顔つきや話し方が……なんていうのかな……優しい感じになってるような気がするんだよ」


 あ、それは俺も思ってた。

 さっき、俺の方を見て微笑んだけど、いつものナミ氏なら勝ち誇った感じになるもんな。

 あの数時間の間に、何かがあったのだろうか。


「失礼ね! ちょっと優しくしただけで、なんで『おかしい』とか言われなきゃならないのよ」


 ナミ氏は、カトー氏に向かってそう言うと、怒りながらどこかへ行ってしまった。


「イチロー、お前はどう思う?」


「俺もすごく違和感を感じていたんだよね。あの数時間の間に、何があったのかは気になるところだよね。例えば、別の何かと入れ替わっていたり、洗脳されていたりとか……もしそうなら、結構大変なことだと思う」


「だよな。ハカセはどう感じた?」


「私は、特に何も感じなかったよ。確かに上機嫌には見えたけどね」


「っていうかさ、数時間の間、宇宙をたった一人で捜索していて、上機嫌になる要素なんてあるか?」


 カトー氏の意見には一理ある。

 もし、俺だったら不安で疲弊するんじゃないかな。上機嫌になる可能性は、ちょっと思いつかない。


「そう言われてみれば確かにそうよね……。じゃあ、私も確認してみるね。ちょうどナミと話したいことがあったしね」


 ――


「ナミ、ちょっといい?」


「ハカセちん、どしたん?」


 私はナミと話してみることにした。

 私とナミの間でしか知らない話をすれば、本人なのかは分かると思うから。


「ガンダムを作るときに話した計画があったじゃない。私が思っていたより上手くいったなって思ってね」


「だから言ったじゃん。ウチはこういうのが得意だから、カトリン相手だって勝てる見込みがあるってね」


 そう、私たちはボスに3つの条件を提示したんだよね。

 ・機体の選定は私たち二人に任せてほしい。

 ・パイロットは希望者全員でテストをした結果で決めてほしい。

 ・開発中は立入禁止にしてほしい。


 機体の選定は最初からガンガルを採用するつもりでいた。イチローの好き放題にちょっとイラっとしたからね。

 性能さえ良ければボスは文句も言わないだろうし、私たちのささやかな反抗みたいなものだった。

 だから、開発中は見せないようにしていたという訳。


 イチローは文句を言うだろうけど、ガンガルとガンダムの違いが分かってないフリをすれば、諦めるしかないだろう。

 本当はナミがよく知っていたのだけどね。


 一番気になっていたのは、ナミがパイロットに志願するという話。

 ナミには悪いけど、私はナミがあれほど圧勝するなんて想像もつかなかったんだよね。

 今にして思えば、あれほどの実力があったのだから、かなりの勝算があったのだろうと思う。


「それにしても、驚いたわよ。まさかカトーを圧倒するほどだったなんて、もっと早く言ってくれれば良かったのに」


「ウチがカトリンより上手いって言ってもさ、ハカセちんは信じなかったんじゃないかな~」


「そうかもね。何にしても、計画が上手くいって、すっと晴れた気分なのよ」


「ウチもね、計画が上手くいったのもあるんだけどさ、操縦も楽しかったんだよ。帰ってきたときにカトリンから難癖付けられたけどさ、本当に楽しかったんだからしょうがないじゃんね」


 あ、そういうことだったんだね。

 計画の話も辻褄があっていたし、洗脳だとか入れ替わりの可能性は薄いかなって私は思った。

 カトーとイチローには、これ以上詮索はしないように言っておかないとね。


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