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第37話 そして、ついにアレが完成したらしい

 俺たちは格納庫に集合している。

 集まった理由は、もちろん……ガンダムが完成したからだ!


 ついにこの日が来たか!


 まだメンテナンスエリアに置かれており、シャッターが閉まっているのでその姿を見ることはできないが、楽しみで仕方がない。

 ガンダムの機体選定はナミ氏とハカセに任せているので、俺たちはまだ何も知らない。


「皆集まったわね。やっとガンダムとやらが完成したので、いよいよお披露目ってことで。特にそこの豚野郎、ウチに感謝しろし」


 あ、そのあだ名……まだ言われるんだね。


「では、シャッターオープン!」


 ハカセがシャッターのボタンを押すと、ガラガラとシャッターが開いていく。

 そこに現れたのは……。


「足がついてない……」


 上半身だけの『白いモビルスーツらしきもの』がぶら下がっていた。


「あ、ごめん。さっき最終調整したときに足を外したままだった。足は飾りじゃないから、もうちょい待ってもろて」


 さっき開いたシャッターが再び閉じられて、ナミ氏とハカセがメンテナンスエリアの中に入っていった。

 何やら作業音が聞こえるので、急いで足を取り付けているのだろう。


「えっと、改めて……シャッターオープン!」


 再びシャッターが開かれると、今度は足の付いた白いモビルスーツが威風堂々と立っていた。


「おおっ! ……おお? いや、ちょっと待って!」


「イチロー、どうしたの?」


「『どうした?』はこっちのセリフだよ。これ、ガンダムじゃないよね……明らかに何かが違うんだけど。顔だって、なんだか歌舞伎みたいな感じだし」


「えっとね、確か『ガンガル』って名前らしいよ」


 ガンガル!?

 本気でアレを作ってしまったのか……。


「『ガンガル』って何だか知ってるの? あれはガンダムのプラモデルがブームになっていたときに、違いの分からない人向けに作られたパチモノなんだよ、モビルフォースなんだよ」


「別になんだっていいじゃない。性能だけで言ったら、イチローが大好きな『ユニコーン』とかいうのより圧倒的に上だからね」


 うわあ、なんてこった。

 よりによって、パチモノの『ガンガル』が『ユニコーン・ガンダム』の性能を凌駕する日が来るなんて……。


「イッチ、ガンダムじゃないから乗るのやめる? ウチはどっちでもいいけど」


「の、乗る……。俺がガンガルを一番上手く扱えるんだ……たぶん……」


「では、パイロットを決めたいと思う。希望者は手を挙げてくれ」


 俺のショックを尻目に、ボス氏がパイロットの希望者を募った。


 もちろん、俺は手を挙げた。

 あとは、カトー氏……と、ナミ氏!?

 えっ、ナミ氏……乗れるの?


「イッチ、どしたん? ウチは最初から乗らないなんて言ってないからね。あ、もしかして、ウチなら楽勝とか思ってる? パパの手伝いで色んな機械を操作してきたから、実は得意なんよ」


「ふっ、イチロー。ナミが参戦しようと、この勝負は俺の勝利は動かないと思うぞ」


「くっ、勝負はやってみるまで分からないからな!」


 勝負は、火星と木星の間にあるアステロイドベルト(小惑星帯)で行うこととなった。ルールは以下の通りだ。

 ・小惑星を3つ、ビームライフルで破壊してからスタートする。

 ・最速で目的地にたどり着いた者を勝利者とする。

 ・くじびきの結果、俺、カトー氏、ナミ氏の順とする。


「ちなみに、パーソナルカラーを設定できるよ。今は白い状態だけど、設定した色に変わるよ」


「じゃあ、俺は白のままで行くよ。それが一番ガンダムっぽいしね。……ガンガルだけど」


 俺はパイロットスーツを着て、コックピットに乗り込んだ。

 パイロットスーツから出ているコードを接続すると、コックピットのコンソールが起動した。


「こいつ、動くぞ!」


「当たり前じゃん。そういう風に作ってんだよ。御託はいいから、絶対に壊さないでよ」


 あーもう、ナミ氏……うるさいなあ。もう少し、この雰囲気を楽しみたいのに。

 しかし、これは本当によくできている。頭で想像したとおりに、スムーズに動いてくれるのだ。


「イチロー、ガンガル行きまーす!」


 カタパルトから射出されたガンガルは、すごいGがかかっていた。

 ステラ・ヴェンチャーが宇宙に向けて飛びったときと同じくらいだろうか。

 一瞬、意識を失いかけたものの、パイロットスーツが優秀なのか次第に耐えられるようになっていった。


 よし、次は小惑星を撃つ番だ。

 目で見るだけで照準が合うようになっているので、あとはトリガーを引くだけだ。


 トリガーを引いた瞬間、俺はふっとばされた。というか、射撃の反作用で後ろに飛ばされたというのが正しいか。

 体勢を立て直そうとするものの、なんだかもがくような形でグルグル回ってしまった。やっと体勢が戻った頃には、相当の時間が経過していた。


 その後も小惑星に何度も衝突したりで、ゴールにたどり着いたときには50分以上経過していた。


「イチロー、大丈夫?」


「ああ、なんとか……ガンガルが丈夫で良かったよ……」


 船に戻った俺を出迎えたのは、心配そうな顔をしたハカセだった。


「イチロー、クルクル回って楽しそうだったぞ。さすが、自称『ガンガルを一番上手く扱える男』だよな」


 サクラ氏がニヤニヤしながら煽ってきた。

 くそっ、あんなこと言わなきゃ良かった。

 恥ずかしすぎる……。


「じゃあ、次は俺の番だな。プロの腕前というものをその目に刻み込むがいい」


 カトー氏はそう言うと、颯爽とガンガルに乗り込んだ。

 ガンダルの色が黒に変わる。


 カトー氏が駆るガンガルは、俺の操縦とは全く異なるものだった。

 無駄な動きがなく、ビームライフルの反動で飛ばされることもなかった。

 そうか、進行方向に合わせて発射しているから、反作用の力が推力と相殺されるのか。


 小惑星に触れることなく、ゴールにたどり着いたので30分を切る好タイムを叩き出していた。


「カトー氏、さすがだね。悔しいが俺の負けだ」


「まあ、当然の結果だな。ナミはどうする? 棄権したほうがいいんじゃないのか?」


「……」


 カトー氏の大人げない煽りに対し、ナミ氏は黙ったまま、ガンガルに乗り込んだ。

 ガンガルの色が赤に変わる。


 赤……!?


「じゃあ、行ってくるよ。カトリン、土下座の練習をしておけよ!」


 俺は目を疑った……。ナミ氏のガンガルは、カトー氏より遥かに早い速度を出していた。


「ナミ! それ以上スピードを出すと危ないぞ! 落とせ!」


 カトー氏が、通信室からナミ氏に警告を送った。

 俺も乗っていたから分かるが、ガンガルのGは凄い。俺とカトー氏より早いのだから、体に掛かる負担は相当なものだろう。


 だが、ナミ氏は速度を全く落とさなかった。


「カトーの3倍の速度が出てる……」


 レーダーを見ながら、ハカセが呟いた。

 赤い上に3倍だなんて……!?


 俺が驚いたのは、そんな異常な速度を一切落とさないまま、小惑星帯を縫うようにすり抜けていったことだ。

 こんなの……人の判断力でできるものじゃない……。そう思えるほど、ナミ氏の操縦技術と判断力は常軌を逸していた。


 ゴール到達時間は……わずか10分だった。


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