私は目を疑った。
なんだこれは……尋常でない大きさの丼に10人前のラーメンが入っている。
これを30分以内に完食しなければならないらしい。
サクラと二階堂さんは、特に驚く様子もないようだ。
サクラから聞いてはいたが、二階堂さんも相当の大食いのようだ。
「えっ、たった10人前でいいの? すみませーん、ビールもください」
サクラ!
さらに注文を追加するとは……。
「サクラさんにハンデを渡す訳にはいきませんね。では、こっちにもビールをお願いします」
二階堂さん、あなたまで!
「そう来なくっちゃ。さすが、私がライバルと認めた男!」
ビールが運ばれ、テーブルにタイマーが置かれた。
そして、店長の合図とともに大食いバトルは開始された!
二人の食べ方は対称的だ。
サクラがガツガツ貪るように食べているのに対し、二階堂さんはレンゲの上に大量に乗せ、一気に口に放り込むのだ。
まさに静と動!
だが、スピードに違いはなく、同じ量ずつ減っていく……。
私とナカマツだけではない。
店内にいる全ての者が二人の戦いに釘付けとなっている。
そして、わずか15分で二人とも同時に完食した。
信じられない……サクラと大食いで引き分ける人がいるなんて!
「さすがサクラさん、見事な食べっぷりでした」
「二階堂さんもね。私と引き分けるなんて、あなた最高ね!」
二人が熱い握手を交わすと、店内から拍手が巻き起こった。
いや、私たちは何を見ているんだ?
そして、店長の顔は引きつっていた。
「賞金も出たことですし、餃子でも頼みましょうか」
「いいね。とりあえず20人前くらいでいいかな。あと、ビールをおかわりで!」
まだ食べるのか……。
私とナカマツは、まだ普通サイズのラーメンを食べ終えてないというのに。
――
宇宙船に戻った私たちは、早速会議室に全員を集め、報告を行うことにした。
「ということで、二階堂さんは私たちと同じ殺人ウィルスで絶滅していたことが分かったよ。まだ結論を出すには早いが、仲間となる可能性は高いと思う」
「ウチらの仇が他の異星人って説、ボッスンはどう考えてんの?」
「同一のウィルスが、別の惑星で同時期に発生する可能性はかなり低いはずだ。もし、仇がいるとして、仇を討てる可能性があるとしたら、皆はどう思う?」
私は皆を見回した。
普段の会議はふざける者もいるのだが、今日は全員が真剣そのものだ。
「私は、仇を討ちたい! 私たちの大事な人を奪った罪を償わせるべきだろ」
「俺も、サクラと同じ意見だ。幸いなことに俺たちには抗体があるからな」
「ボス氏……もし、仇を討つとした場合、この地球が戦いの舞台になるってことだよね……」
「そういうことになるな。宇宙海賊の侵攻ルートを予想すると、二階堂さんの言う通り、地球がターゲットにされる可能性があると思っている。だが、必ず来るとも言い切れない」
「地球で戦ったら、この星の人類はどうなる? 俺たちの星と同じ結果になる可能性があるよね。俺はこの星が好きだから、そういう事態は絶対に避けたいんだよ」
イチローの言う通りかもしれない。
確かに仇を討ちたいとは思うけど、そのために地球人を犠牲にしていい理由はない。そんなことをすれば……俺たちも宇宙海賊と同類じゃないか。
だとすれば、宇宙で戦う? それは非常に難しい。この広い宇宙で見たこともない相手を探すなんて、それこそ不可能に近い。
「何らかの方法で、地球人に抗体をもたせることはできないの? 地球人が抗体を持てば、遠慮なく戦うことができると思うんだけど」
「サクラ君の案、案外いけるかもしれませんよ。幸い、私たちの星からウィルスのサンプルを持ち出していますからね。これを限りなく無毒化したものを地球にバラまくんです。このウィルスは感染力が非常に高いですから、あっという間に世界中に感染させられるかもしれません」
「なるほど、それはいい考えだ。もし、地球で特効薬が見つけられなくて地球を離れることになったとしても、宇宙海賊によって絶滅させられる事態を防げることになるからな。ナカマツ、その改造ウィルスはどのくらいで作れそうか?」
「さすがに時間が掛かります。3年もあればなんとかできるとは思いますが、まだなんとも言えません」
「ふむ。であれば、地球での探索期限をとりあえず3年ほど延長しよう。その3年の間であれば、ハカセを学校に通わせることもできるな」
「えっ、学校に通えるの? わーい、ボス大好き!」
「ボス氏、ハカセを学校に通わせるなら、地球への移住が必要だよね。住民票が無ければ受験ができないと思う」
なるほど、そうなるか。
奇しくも二階堂さんの言った通りの展開となったようだ。
「うむ。住民票周りはナミ、お願いできるか」
「りょ。ウチら全員、外国帰りの日本人って設定でいい?」
ナミが言っているのは、日本政府のコンピュータにハッキングして登録する私たちの情報のことだ。
「それでいい。ハカセ、何歳で登録したい? 学校の入学にも関係しているからね」
「うーん、私の見た目だと大学生は無理っぽいよね……。小・中学校が妥当なんだろうけど、さすがに勉強が優しすぎると思うのよ。高校生は通用するかな?」
高校生か……。
ハカセの見た目は完全に12歳なんだよね。海外で生活していたときに十分な栄養が取れなかったとか、そんな理由をつければなんとかいける……か?
「大丈夫だよ。背は低いけど、大人っぽい顔立ちなんだから、私がいい感じにしてあげる」
「サクラが何かしてくれるの?」
「学校にバレない薄化粧の仕方や、立ち振舞も教えてあげる。それだけで少しは大人っぽい雰囲気になると思うよ」
サクラが見てくれるのなら安心だろう。
普段はトラブルメーカーだけど、こういうときにはサクラのモデル経験が役に立つ。
「分かった。じゃあ、ハカセは高校入試に向けて勉強もしておいてくれ。受験する学校は好きな所を選んでいいからね」
「ありがとう。入学式にはボスにお父さん役をやってもらうね」
なんと……それは是非合格してもらわなくては!
「それまでに人相をよくしないとな」
サクラ! お前は一言多い!