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第26話 コーラのレシピは数人しか知らないらしい

 私、ハカセは少々悩んでいた。

 以前、イチローにコーラの成分分析を頼まれたのだけど、想像以上に難航していたから。


 成分そのものは、機械にかければ分かる。

 問題は地球上の食材をどう組み合わせれば、この成分になるのかが分からないことだ。

 本当にめんどくさいものを持ち込んでくれたものだ。


 しかも今度はガンダムが欲しいだなんて、何を考えているのかしら。

 ガンダムの設計をする傍ら、同時並行で分析装置を操作しているのだけど、どっちもイチロー案件なのよね。


 正直なところ、イチローはあまり努力しないタイプだと思う。

 私は努力が苦にならないタイプなので、イチローは面倒事があると私にお願いしてくる気がするのだ。

 様々な知識は私の方が上だけど、口の上手さはイチローに遠く及ばない。



 そんな事をあれこれ考えながらコーラを分析していたら、ふと気付いたことがある。

 非常にくやしいのだけど……科学者目線で見ると、このコーラという物質は非常に興味深い性質を持っているようだ。

 そんなことをイチローに言うと調子に乗るだろうから、絶対言わないけども。


 このピリピリする感じは気泡によるものだった。

 しかも、地球の大気組成では0.04%とかなり少ない量の二酸化炭素がその正体なのだ。

 二酸化炭素は水に溶けるが、地球の気圧であれば1:1くらいの量しか溶けないはずだ。

 そこで高圧をかけて無理やり溶かし込むのだから、蓋を開ければ気圧の変化で二酸化炭素はどんどん飛び出してくる。

 これが気泡となって喉越しに影響を与えているのだろう。

 二酸化炭素なんて食べるメリットが無いはずなのに、こんなに必死に溶かし込んで……地球人は何を考えているんだろう。


 黒い色も砂糖を加熱することでメイラード反応を起こした際に生じるものを利用しているようだ。

 食べ物や飲み物をわざわざ黒くするなんて……色が食欲に与える影響を考慮すると、やはり私には理解できない……。


 他の糖分としては果物に多く含まれている果糖も入っているようだ。

 これは想像だが、複数の糖分を組み合わせることで味を複雑にするだけでなく、冷やしたときに果糖の甘みがより強く働くように計算されているのだろう。


 すごい……。

 こんな飲み物は他の惑星では見たことが無かった。

 少しでも美味しく感じられるように……味覚を超えた領域まで、やれることは全部やったという職人の魂を感じる。

 科学では誰にも負けない!と思っていたが、私とは違う方向性の科学も存在していたのだ。


 よし、私もやってみよう!


 ――


 ウチは夕食を摂るため、食堂へやってきた。

 あれっ、なんだかざわついてない?

 ウチが様子を見ていると、さっきゅんが血相を変えてやってきた。


「ナミ、大変だ。ハカセが夕飯を用意したっていうんだ……」


「ちょっと……それ、ヤバすぎ……」


 これは一大事だ。

 しかも、今日はイッチがいないっていうね……。

 ウチは味に拘りがないので、ハカセちんの作った食事でも無理すれば食べられるんだけど、他のみんなはそうじゃないんだよね。

 特に大食いのさっきゅんなんて、死活問題な説あるよね。


「くそっ、こんなときにイチローがいないなんて……。イチローが役に立つ唯一のタイミングなのに!」


 さっきゅん……さすがにそれは言い過ぎ。

 まあ、そう言いたい気持ちは痛いほど分かるけども。


「そういえば、カトリンもいないね」


「カトーもか……。あっ、あいつら……またメイドカフェで楽しんでるのか!」


 またメイドカフェか……。

 そういえば、最近ずっと2人で出かけているみたいだけど、もしかしてメイドカフェに入り浸ってんの?


「あ、サクラ! ナミ! ちょうどいい所に来た」


 ハカセちんが私たちに気付いて、トレーを持ってきた。

 トレーを受け取ってみると、見事にやらかしてるじゃん。

 漆黒の丸い塊、ピンク色の麺状の何か、謎の発光をしている野菜、どう見ても金属に見えるクラッカーなど……食品に見えないものばかり並んでいた。

 逆に、これはどうやったら作れるの?


 ウチは、意を決して『どう見ても金属に見えるクラッカー』を口に入れてみた。

 うげえ、これはマズイ。

 見た目通り、鉄みたいな味がする。


「な、なかなか個性的な味ね……これ、どうやって作ったの?」


「えっとね、なんか色々な薬品を混ぜたらできたのよ。一応食べられる薬品ばかりだから、安心してね」


 安心なんて……できるかい!

 色々な薬品ってあたりに、狂気を感じるんだけど?


「ところでハカセ君、今日はいつもより独創的な感じだけど……何かテーマみたいなものがあるのかい?」


 さすが、おじさん!

 このタイミングでその質問をするなんて、さすが年の功だね。


「今日はね、科学の力で料理の限界を超えてみたの。イチローが買ってきたコーラにヒントを貰ったのよ」


 やっぱり……原因はイッチじゃん。

 『ハカセが暴走するのは、いつもイチローが原因』だって、さっきゅんがよく言ってるけど、本当にその通りよね。


「そ、そうか……。じゃあ、いただこうかな……」


 ボッスンも覚悟ができたみたい。

 ボッスンはハカセちんを自分の娘のようにかわいがっているからね、叱れないんでしょ。

 あ、泣きそうな顔をしてる……。

 死ぬほどマズかった説。


「サクラ、食べないけどどうしたの? 今日は戦闘訓練の日だよね、お腹空いてるでしょ? ちゃんとおかわりもあるよ!」


 急に言われて、さっきゅんがびくっと体を震わせた。

 恐れを知らないさっきゅんでも、さすがに怖ろしいのだろう。

 本当は恐怖で食べられないんだよと言いたいのだろうけど、ハカセちんにそんな事言えないよね……。


「いやあ、素敵な香りだと思ってね。香りを楽しんでいたところなんだ」


 おお、見事な返事!


「そうなんだ……それなら良かった!まさか見た目を気にして食べてくれないんじゃないか……と思ってドキドキしたよ……」


 いや、そのまさかなんだよ。

 っていうか、見た目については自覚してるじゃん!


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