目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

第25話 男なら誰でも一度は考えそうなアホな夢を本気で叶えようとするイチローはある意味すごい

「ハカセ、これを作れそうかな?」


 ボスにそう言われ、私はひどく困惑した。

 先日メディカルマシンを作ったばかりだというのに、今度はもっとアホなものが提案されたからだ。

 横のナミを見ると、やっぱり渋い顔をしている。

 そりゃそうだ。



 - 30分前:メディカルマシンのお披露目会 -


 今日はメディカルマシンのお披露目会。

 設置してから数日間の実験、治療液の生産を行い、効果があることを確認できたからね。


 まさか、イチローが漫画の中のものを提案してくるなんて思ってもみなかったけど、実際に完成してみるとこれは役に立ちそうだと感じた。

 うーん、なんともいえない悔しい気分。


 イチローとカトーは漫画と見比べながら、『すげー』と語彙力のない驚き方をしている。

 そうでしょ、私とナミは凄いのよ!

 と、思っていたら、イチローが……。


「こんな凄い装置を提案した俺、すごくね?」


 とか言い出した。

 いや、凄いのは漫画の原作者でしょ。

 断じてイチローじゃない!


「いやあ、イチローの提案、実に良かったよ。これからも良いものがあれば提案をしてほしい」


 ボス!

 余計なことを言わないで!


「実は、他にも提案したいものがありまして……」


 そう言って、イチローは提案データをボスの端末に転送した。

 ああ、ほら……だから嫌なのよ。


 ボスは上機嫌でデータを見ている……。

 この光景、前にも見たよ。

 もう、嫌な予感しかしない。


「うん、いいね。ちょうどこういう兵器が欲しいと思ってたところだったんだよ」


 兵器……?

 えっ、まさか……。


「やった! 採用だ」


「ハカセ、ナミ、ちょっといいかい? イチローの提案で兵器を作ろうと思うんだが、見てくれないか。立て続けで申し訳ないね」


 私は、イチローの提案書を恐る恐る開いてみた。

 そこに書かれていたのは『提案:ガンダム』だった。


 ほらね!

 そう来ると思ってたよ。だって、イチロー、最近ずっとそのアニメ見てたよね。

 見たもの全て欲しがるなんて、ほんとにバッカじゃないの!


「イチロー、ちょっと俺にも見せてくれ」


 兵器と聞いて、カトーがイチローから端末を奪い取って確認をしだした。

 カトーは軍の特殊部隊に所属していたみたいだけど、戦闘機などの操縦も一通りできるらしい。

 敵国の基地に潜入し、開発中の兵器を強奪したこともあるのだそうだ。


「所詮はアニメよね。巨大なメカがこんな軽く作れる訳ないじゃない……」


 ナミががっかりした顔で呟いた。

 まあ、SF作品なのでこういう事を言いだしたらキリがないんだけど、メカニック担当としては気になるところよね。

 18mで43トンって、水より軽いもの。


「だが、浪漫があるな。この『ガンダム試作2号機(サイサリス)』っていう機体なんて最高じゃないか! 軍人の魂が具現化したようだ」


 カトーがやたら興奮してるけど、核ミサイル搭載型なんて物騒なモノはちょっと……。


「どの機体でもいいし、何なら自由にアレンジしてくれても構わないよ。SF作品だし、完全再現なんて無理ってことは理解してるよ」



 ――


 ……と、いうことがあった。

 さて、どうしたものか。


「ねえボス。技術的な実現可能性について、ハカセちんと協議したいから、ちっとだけ待ってもろて」


「もちろんだ」


「ハカセちん、こっちきて」


 私はナミに手を引かれ、ナミの研究室までやってきた。

 ナミは無駄のない動きでお茶を淹れ、私の前に置いた。


「ありがとう。少し落ち着かなきゃね……」


「ハカセちん、ぶっちゃけ作れる?」


「多分作れると思う。正直あまり気が乗らないけどね」


「それな。でね、ちょっと面白い条件を思いついたんだ」


 ナミはニヤリと笑うと、その条件と理由を説明してくれた。


「す、すごいわね! その条件なら気持ちよく作業ができるじゃない」


「じゃあ、これでいこう。なんか楽しくなってきたね」


 ――


「ボス、ただいま~」


「結論は出たかい?」


「作れそうって結論だね。でも、3つほど条件があるかな」


「条件?」


「まず、機体の選定は私たち2人に任せてほしいんだよね。技術的な観点から決めたいからね」


「うむ。最低限必要な仕様をクリアできているなら、それで問題ない」


「それと、パイロットだけど、希望者全員でテストをした結果で決めてほしい。これは操作系統がちょっと特殊になりそうだから、安全性を考慮した結果ね」


「そんなに変わりそうか?」


「稼働部位が多すぎて、戦闘機のような操作は無理なんよ。だから、脳波を使った操作がメインで、手動操作は補助的な感じ」


「脳波!」


 早速イチローが反応した。

 本当にこういうのが好きだよね……。


「俺は別に構わないぞ。どうせ希望者は俺とイチローくらいしかいないだろうしな」


「じゃあ、この条件も良しとしよう」


「最後の条件なんだけど、開発中は立入禁止にしてほしいんだ。かなりシビアな技術なんで、集中したいからね」


「なるほど、完成してからのお楽しみってことだな。まあ、いいだろう」


「じゃあ、早速作業に入るね。完成は3ヶ月後くらいかな」


 イチローとカトーが大喜びしている。

 ……そう簡単に上手くいくと思ったら大間違いだよ!


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?