「ハカセ、これを作れそうかな?」
ボスにそう言われ、私はひどく困惑した。
先日メディカルマシンを作ったばかりだというのに、今度はもっとアホなものが提案されたからだ。
横のナミを見ると、やっぱり渋い顔をしている。
そりゃそうだ。
- 30分前:メディカルマシンのお披露目会 -
今日はメディカルマシンのお披露目会。
設置してから数日間の実験、治療液の生産を行い、効果があることを確認できたからね。
まさか、イチローが漫画の中のものを提案してくるなんて思ってもみなかったけど、実際に完成してみるとこれは役に立ちそうだと感じた。
うーん、なんともいえない悔しい気分。
イチローとカトーは漫画と見比べながら、『すげー』と語彙力のない驚き方をしている。
そうでしょ、私とナミは凄いのよ!
と、思っていたら、イチローが……。
「こんな凄い装置を提案した俺、すごくね?」
とか言い出した。
いや、凄いのは漫画の原作者でしょ。
断じてイチローじゃない!
「いやあ、イチローの提案、実に良かったよ。これからも良いものがあれば提案をしてほしい」
ボス!
余計なことを言わないで!
「実は、他にも提案したいものがありまして……」
そう言って、イチローは提案データをボスの端末に転送した。
ああ、ほら……だから嫌なのよ。
ボスは上機嫌でデータを見ている……。
この光景、前にも見たよ。
もう、嫌な予感しかしない。
「うん、いいね。ちょうどこういう兵器が欲しいと思ってたところだったんだよ」
兵器……?
えっ、まさか……。
「やった! 採用だ」
「ハカセ、ナミ、ちょっといいかい? イチローの提案で兵器を作ろうと思うんだが、見てくれないか。立て続けで申し訳ないね」
私は、イチローの提案書を恐る恐る開いてみた。
そこに書かれていたのは『提案:ガンダム』だった。
ほらね!
そう来ると思ってたよ。だって、イチロー、最近ずっとそのアニメ見てたよね。
見たもの全て欲しがるなんて、ほんとにバッカじゃないの!
「イチロー、ちょっと俺にも見せてくれ」
兵器と聞いて、カトーがイチローから端末を奪い取って確認をしだした。
カトーは軍の特殊部隊に所属していたみたいだけど、戦闘機などの操縦も一通りできるらしい。
敵国の基地に潜入し、開発中の兵器を強奪したこともあるのだそうだ。
「所詮はアニメよね。巨大なメカがこんな軽く作れる訳ないじゃない……」
ナミががっかりした顔で呟いた。
まあ、SF作品なのでこういう事を言いだしたらキリがないんだけど、メカニック担当としては気になるところよね。
18mで43トンって、水より軽いもの。
「だが、浪漫があるな。この『ガンダム試作2号機(サイサリス)』っていう機体なんて最高じゃないか! 軍人の魂が具現化したようだ」
カトーがやたら興奮してるけど、核ミサイル搭載型なんて物騒なモノはちょっと……。
「どの機体でもいいし、何なら自由にアレンジしてくれても構わないよ。SF作品だし、完全再現なんて無理ってことは理解してるよ」
――
……と、いうことがあった。
さて、どうしたものか。
「ねえボス。技術的な実現可能性について、ハカセちんと協議したいから、ちっとだけ待ってもろて」
「もちろんだ」
「ハカセちん、こっちきて」
私はナミに手を引かれ、ナミの研究室までやってきた。
ナミは無駄のない動きでお茶を淹れ、私の前に置いた。
「ありがとう。少し落ち着かなきゃね……」
「ハカセちん、ぶっちゃけ作れる?」
「多分作れると思う。正直あまり気が乗らないけどね」
「それな。でね、ちょっと面白い条件を思いついたんだ」
ナミはニヤリと笑うと、その条件と理由を説明してくれた。
「す、すごいわね! その条件なら気持ちよく作業ができるじゃない」
「じゃあ、これでいこう。なんか楽しくなってきたね」
――
「ボス、ただいま~」
「結論は出たかい?」
「作れそうって結論だね。でも、3つほど条件があるかな」
「条件?」
「まず、機体の選定は私たち2人に任せてほしいんだよね。技術的な観点から決めたいからね」
「うむ。最低限必要な仕様をクリアできているなら、それで問題ない」
「それと、パイロットだけど、希望者全員でテストをした結果で決めてほしい。これは操作系統がちょっと特殊になりそうだから、安全性を考慮した結果ね」
「そんなに変わりそうか?」
「稼働部位が多すぎて、戦闘機のような操作は無理なんよ。だから、脳波を使った操作がメインで、手動操作は補助的な感じ」
「脳波!」
早速イチローが反応した。
本当にこういうのが好きだよね……。
「俺は別に構わないぞ。どうせ希望者は俺とイチローくらいしかいないだろうしな」
「じゃあ、この条件も良しとしよう」
「最後の条件なんだけど、開発中は立入禁止にしてほしいんだ。かなりシビアな技術なんで、集中したいからね」
「なるほど、完成してからのお楽しみってことだな。まあ、いいだろう」
「じゃあ、早速作業に入るね。完成は3ヶ月後くらいかな」
イチローとカトーが大喜びしている。
……そう簡単に上手くいくと思ったら大間違いだよ!