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第22話 ハカセとイチローの初デートを眺めながらニヤニヤする回

 私とイチローは遊園地デートというものをしている。

 『メディカルマシンを設置したら遊園地デートをする』という、ナミとの約束を守り、私をエスコートしてくれているのだけど。


 でもね……。ここって、『浅草花やしき』よね?

 私の脳裏には、華やかなディズニーランドのイメージが浮かんでいた。白いシンデレラ城にきらめくライト、耳をつけたカチューシャの群れ。それが、まさかこんな小さな遊園地に連れてこられるなんて、全く予想外だった。


「あれっ、なんか微妙な表情をしてない? せっかく来たんだから楽しもうぜ」


 私はイチローに手を取られ、花やしきに連れて行かれた。

 それにしても、改めて意識してみると、イチローの手って意外と大きいのね。私の手が小さすぎるのかもしれないけど。


 こうやって手を繋いで歩く私たちを、他の人はどう見ているのだろう。

 やっぱり恋人……には見えないよね……。


 まあいいか。気を取り直して、遊ぶことにしよう。


「イチロー、ここのオススメに乗ってみたい」


「花やしきと言えば、日本最古のコースターがあるよ。別な意味で怖いらしいんだ」


 別な意味って何だろう。

 まさか、古いから壊れそうで怖いとかじゃないよね。


「じゃあ、それに乗りたい」


「よし、じゃあこっちだ」


 ローラーコ-スターは待たずにすぐ乗れた。

 ガタンガタンと大きな音を立てて動き出したのを見て、私は『別な意味』が何を意味しているのかを理解した。


「……」

「ぎゃああ!」


 私の横でイチローが悲鳴を上げている。

 私は、正直に言って別になんとも思わなかった。

 ぱっと見だけど、力学的に安全だということが理解できたから。

 むしろ、ステラ・ヴェンチャーの起動実験の方が余程怖かったくらい。


「イチロー、大丈夫?」


「うう……みっともない所を見せてしまったな……」


「みっともない所なら、いつも見てるから大丈夫だよ」


「もっと優しくして!」


「あはは」


 そうか。

 遊園地はどこに行くかも大事だけど、誰と行くかが一番大事なんだね。

 ……楽しい。


 続いては、リトルスターという星型のアトラクションに乗ることとした。

 これ、身長制限があって 130cm 以上でなければならないらしい。

 私はちょうど 130cm なので、ギリギリ乗れるんだけど、改めて自分は子ども扱いなんだと思い知った。


 その後、他のアトラクションを一通り回ったのだが、待ち時間がほぼ無かったので、あっという間に回りきってしまった。

 時間はまだお昼だし、どうするの?


「ハカセ、花やしきはこれで終わりにして、浅草観光に行こう」


「それも面白そうね。イチローに任せるよ」


 私たちは花やしきを出ると、少し歩いたところにある着物レンタル店へ入った。

 イチローは前もって予約してくれていたらしく、私の身長にあった着物がいくつか準備されていた。


「これどうかな? ハカセのイメージに合っている気がするんだ」


 イチローが紫陽花柄の着物を指さした。

 うん、すごくいい。


「イチローが選んでくれたなら、これがいい」


 私は奥の部屋で着付けと化粧をしてもらった。

 化粧は、ときどきサクラがしてくれることがあるんだけど、今日は和服にあった化粧だからいつもと違う感じ。

 化粧を終えて鏡を見せてもらったんだけど、『これ本当に私?』って思えるほどに変身していた。


 奥の部屋から出ると、イチローも和装になっていた。

 えっ、ちょっとカッコイイじゃない!


「お、ハカセ。すごくかわいいね! 着物も似合ってるよ」


 ちょっとまって。

 イチローってそんなこと言えるの!?

 すごく嬉しいんだけど、雪でも降るんじゃないかしら。


「ありがと……。自分でもちょっと驚いてる。イチローもよく似合ってるよ」


「じゃあ、行こうか」


 二人で手を繋いで歩いていると、すれ違う人が私の方をチラチラ見てくる。着物姿だから?

 こうやって変身するのも、アリなのかもしれない。

 少しでもイチローと似合いだと思われたらいいのだけれど。


 浅草といえば浅草寺というくらい有名らしいので、いくつかのお堂の前を通りながら本堂へと向かった。

 花やしきのすぐ近くにこんな立派な寺があったなんて、遊んでるときは全然気付かなかったよ。

 こんな荘厳な建築物は、私たちの星では見たことがなかった。日本という国はすごく素敵だと思う。


 本堂で祈願(もちろん『不老不死の特効薬が見つかるように』)をしたのち、仲見世通りを通って、浅草駅方面へと歩く。

 駅の近くで人力車という、その名の通り『人力で進む車』に乗った。


 私は科学者だから、科学の力で動作する乗り物を設計したりもするんだけど、これは正反対だと思った。

 なんて非効率なのかしらと思ったのだけれど、俥夫(しゃふ:人力車を牽く人)さんの話は面白いし、現代と昔を融合したような景色に私は魅了された。

 こういうのも、たまにはいいものよね。


 ――


 浅草観光を十分に満喫したころ、日も暮れ始めた。

 楽しいデートはこれで終わりかと思ったら、イチローが思わぬことを口にした。


「もう一度、花やしきに行くよ。ここからが本番なんだ」


 えっ、何言ってるの?

 いまさら行ってどうするつもりなのよ。


「ちょっと、イチロー。もう閉園時間だよ」


「いいから、いいから」


 イチローに手を引かれ、再び花やしきに戻ってくると入場門の所に見覚えのある顔が……。


「はっかせ~」


 サクラが私に向かって手を振っている。

 もちろん、他のみんなも笑顔で私を待っていた。

 えっ、なぜみんながここにいるの?


「実は、花やしきは貸し切りができるんだよ。今日はハカセの誕生日だったよね」


「私の誕生日だから、貸し切ってくれたの?」


「そうだよ。ということで、みんなでパーティだ!」


 そうだったのね。

 私、ディズニーランドじゃないからって、態度が悪かったことを反省した。

 イチローはここまで考えて、花やしきにしてくれていたんだ……。

 きっと着物を着せてくれたりしたのも、全部この貸し切りに繋がっていたのね。


 ライトアップされた園内は、まるで夢の中にいるような幻想的な美しさだった。

 事前に用意された豪華な食事のおかげで、サクラも上機嫌にビールを飲んでいる。

 アトラクションも稼働しているので、何度も楽しむことができた。昼と夜じゃ、やっぱりテンションが違うものね。


「イチロー、今日はありがとう。私、一生の思い出にするね」


「喜んでくれて嬉しいよ。今日は俺も、すごく楽しかった。ハカセはこれからもずっと……俺のかわいい妹だよ」


 妹……。その言葉は鋭い刃のように、私の胸を深く突き刺した。


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