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第18話 ステラ・ヴェンチャー①

「ハカセちん、組み立て終わったよ。そっちの作業進捗はどう?」


「順調だよ。数値は全て想定値通りだから、設計・組立のミスはなさそう」


 私はナミと一緒に、イチローが企画をしたメディカルマシンの開発と設置を行っている。

 イチローの設計図には多くの間違いがあったため、ナカマツの助言を参考に、ナミと共に再設計を行った。

 設計図の寸法が合わない箇所や、配線図の矛盾点を1つずつ確認する作業は気が遠くなるようだった。しかし、ナミが計算を即座に片付け、ナカマツが問題点を的確に指摘してくれたおかげで、なんとか形にできた。


 再設計で追加された機能は人工知能を搭載している。

 汎用型人工知能を搭載したことで、未学習の病気にも一定の対応が可能となり、薬の生成から投与までを自動で行えるようになった。

 残念ながら不老不死の特効薬は生成できなかったので完璧な訳では無いが、先日の食中毒であれば対応が可能だ。


 このメディカルマシンを2台設置する予定だ。

 私たちの宇宙船『ステラ・ヴェンチャー』には、空室や空ドックがいくつも存在している。

 医務室の隣にも空室があるので、そこに設置を行っている。



 - 5年前 -


「ねえ、ボス。ボスの要求仕様通りに設計してみたんだけど、無駄なスペースが多すぎない?」


 私たちは不老不死の薬を求めて、宇宙に旅立つこととなっていた。

 そのために宇宙船の設計をしているのだが、私が考えていた船とはちょっと違っていた。

 たった7人の旅なのに、全長は350mもあるし、空室や戦闘機の置かれるようなドックがいくつも必要らしい。


「どれ、ちょっと見せてもらうよ」


 ボスは老眼鏡をかけると、私が設計した図面を隅々まで確認しだした。

 上機嫌で鼻歌を歌いながら、赤ペンで色々書き込んでいる。


「もしかして、ボスって戦艦に乗ってたことあるの?」


「まあね、艦長を10年ほどやってたんだ。ハカセは無駄だと思うかもしれないけど、長年乗っているとね、意外とこういう機能が必要だと分かってくるんだよ」


 そういうものなのね。

 私が今まで乗った船なんて、もっと小さな遊覧船くらいだったから、こんな巨大な船と知って驚いていた。


 宇宙には様々なリスクがあるらしい。

 例えば、小さなスペースデブリや小惑星でさえ、宇宙船に致命的なダメージを与えることがあるという。

 また、私たちがこれから向かう先は、文明の発展している異星人が住む星なのよね。

 異星人と関わるなんて想像もつかないけど、特効薬を手に入れるとなれば、文明の発展している星に向かうのが最善ということになった。


 異星人の星へは小型船で上陸することになるし、場合によっては戦闘機も必要になるかもしれない。

 そうなると、全長350mというのは決して大きすぎるということはなさそうだ。


 そして、問題なのはワープ装置だ。

 恒星間移動を行うには、通常のエンジンでは時間がかかりすぎるので不可能だ。

 光の速さに達したとしても、何年もかかるくらいだから。


 実は、私たちの星ではワープ航法がいまだ確立されていない。

 これをなんとかしなければ、出航はできない。

 しかも、万が一故障をしたときを考え、予備の装置も搭載することになっている。


 ――


「ハカセちん、大丈夫そ? 最近、休めてないんじゃね?」


 ナミが言う通り、私は寝付きが良くない。

 だって、ワープ航法の理論が行き詰まっているから。


「そうね、ワープ理論さえ片付いてくれれば、いくらでも寝られると思うんだけど……」


「それな。ウチもどうすればいいのか悩んでたんよ。何かアイディアはあったりする?」


「あるけど、本当に実現できるのか自信がないのよ」


「ウチもあるよ。じゃあ、一斉に言ってみようか」


「面白そうね」


「じゃあ、いくよ。せーの」


「高重力場!」

「高重力場!」


「えっ、ナミも同じことを考えてたの?」


 私はこの瞬間、高重力場を使った方式で解決できるような気がした。

 何の根拠もないのだけど、そうとしか考えられないほどに。


「これさ、高重力場方式が正解じゃね。ハカセちんが言うなら間違いないっしょ」


「そうね、でも……高重力場装置を作るとしたら、相当高い圧力下でないといけないんじゃないかな。そうしないと自分の重力で壊れてしまうでしょ」


「やっぱ、そうだよね。この星でそんな圧力をかけられる方法なんて……あるのかな……」


 私たちの悩みは尽きない。

 何かが進んだと思えば、また新たな問題が立ちはだかる。

 しかし、この地獄のような星で立ち止まるわけにはいかない。


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