目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

第15話 日本のソウルフードといえば、やっぱりコレだよね

「イチロー、緊急事態だ。今すぐ来てくれ!」


 俺の連絡用端末に、サクラ氏から緊急メッセージが届いた。文面は短くてもその緊急性を物語っていた。

 情けないことだが、俺とサクラ氏では問題解決の能力が段違いだ。

 もちろん、サクラ氏の方が優れているが、そんなサクラ氏が俺に助けを求めているとなれば、答えは1つだ。


 ハカセが、また何かやらかしているのだろう。


 何でか分からないけど、ハカセが暴走すると、決まってサクラ氏は俺に解決をさせようとしてくる。

 実際、なぜか上手くいくことが多いので、あながち間違っている訳でもなさそうなんだけども。


「サクラ氏、来たよ。またハカセが何かやらかしてるの?」


「お、察しがいいじゃん。実はまた料理を作ろうとしているみたいなんだ……」


 な、なんだって!

 それは大変だ。ハカセが料理を作るとなれば、ほぼ確実に誰かが腹痛で悶絶する羽目になる。どうしても、何かが間違っているのだ。


 ハカセと言えば料理下手。料理下手と言えばハカセというのが、俺たちの共通認識なのだ。

 不老不死とはいえ、不味いものは不味いし、お腹だって壊す。考えただけで恐ろしい事態だ。


 完璧主義者のハカセだが、料理に関してはそれが当てはまらない。

 化学の実験をする際は1グラム単位できちっと計量しているはずなのに、料理となるといつも目分量だ。

 レシピに『弱火で15分』と書いてあっても、彼女は平気で『強火で5分』にしてしまうし、足りない食材は見た目が似ているもので代用しがちだ。

 似たような味じゃなくて、似たような見た目だぞ。もう、訳が分からない。


 レシピ通り作れば、誰でもおいしく作れるような簡単な料理も、彼女の手にかかれば、あっという間に産業廃棄物に早変わりだ。

 料理は、精密な作業だ。計算された調味料の分量や火加減、タイミングが全てで、どんな些細な違いでも失敗につながる。ハカセの場合、その微妙な加減が全て狂っている。

 そして最初に食べさせられるのは、決まって俺なんだ。

 これは断固阻止しなければならない。


「サクラ氏……それは一大事だね。一体なぜこんなことに?」


「よく分かんないけど、インスピレーションがどうとか言ってたから、思いつきだろ。イチロー、お前以前から『今日の食事を作ることに決まってた』ことにして、代わりに料理してくれよ」


「なるほど、それは良さそうな案だね。ハカセには可哀想だけど、俺たちも自衛の権利はあるもんな」


 ちなみに、俺は料理が得意だ。

 ただ、ジャンクフードっぽい料理が多いので、ハカセには不評だけど。


「イチローの料理、私は好きだから楽しみだぜ。そうだ! 地球の料理が食べたいんだが、作れそうか?」


 地球の料理か……。

 となれば、やはりアレか。


「多分大丈夫だと思うよ。腹いっぱい食べてくれよな」


 ――


「あ、ハカセ、ここにいたか」


「ん? 何か用?」


「さっき、サクラ氏から聞いたんだけどさ、今晩料理を作るつもりなんだって?」


「そうだけど」


 うわあ、やっぱりか……ちょっと可哀想だけど、俺たちの健康のためだ。


「その件なんだけど、実は今晩は俺が地球の料理を作ることになってるんだ」


「え、聞いてないけど……」


 ハカセが眉間にシワを寄せて、明らかに不機嫌な表情を俺に向けた。

 俺の良心がチクリと痛むが、ここは心を鬼にしなければ!


「どうやら、伝達ミスがあったみたいで、あとでボス氏が謝りたいって言ってた」


「うーん、じゃあ仕方ないか。私は別の日に延期するね」


「ごめんな。今日は俺の料理を楽しんでくれよ」


 俺はそう言って、ハカセの頭をポンポンと軽く叩いた。

 よほど怒っていない限り、大体これで機嫌が良くなる。


 さて、一件落着と言いたいところだけど、俺はこのあと料理をしなければいけない。

 作るメニューは、もちろん……カレーライスだ。


 日本でラーメンと並んで人気と言われているらしい。

 ごった煮なので、難易度はかなり低いと思われる。

 スパイスを使った料理らしいが、完成度の高いルゥが販売されているので、これを使えばいいらしい。


 材料は、肉(牛肉)、じゃがいも、たまねぎ、人参を用意した。

 サクラ氏がかなりの大食いなので、30人分ほど確保したが足りるだろうか……。


 ――


 夕食の時間となった。

 味見をしてみると、完璧に出来上がっているので、初めてのカレーライスは大成功と言えるだろう。

 飴色タマネギが美味しさに繋がるらしい。


「おお、これがカレーライスか。見た目はアレ……だけど、スパイシーないい匂いが食欲をそそるな」


 サクラ氏がやってきて、大皿に山盛りで盛り付けた。

 俺の予想通り、今日は思いっきり食べるつもりらしい。

 他の仲間も次々にやってきたが、ナカマツ氏だけ外出中のため遅れるとのことだったので、サクラ氏に食べられないように取り分けておいた。


「悔しいけど、やっぱりイチローの作る食事はおいしいのよね。私と何が違うのかな」


 ハカセがゆっくり食べながら呟いた。

 レシピだよ、レシピ通り作ればいいんだよ!


 今日の夕食会は和やかで楽しく過ごせた。やはり地球の食事は素晴らしい。


 と、思っていたのだが。

 2時間ほど経過した頃、俺のお腹を強烈な腹痛を襲った。

 しばらくトイレに篭っていたら、今度は息苦しさと目眩が襲ってきた。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?