みんなもう、凄くピリピリしてる。
お父さんもお母さんもそう。学校のみんなもそう。
そりゃそうだと思う。
だって明後日には地球が終わっちゃうんだもん。
ううん、まだホントの事なのかどうなのか分かんないんだ。
けど、
何日か前から磁場? っていうのが狂ってて、飛行機が飛ばなかったり落ちちゃったりが外国の方であったらしいんだ。
他にも色々おかしな事があって、なんでかなって調べたら直径50キロの隕石が時速9万キロで地球に向かってるせいだったんだって。
それって凄い昔の映画とよく似た展開らしいんだけど、その映画とおんなじようにシャトル? とかいうので飛んでって隕石に爆弾しかける――なんて事は絶対に出来ないらしくて。
今のところお手上げなんだ、っていうのをテレビでも言ってる。
でもその映画も色々と参考になるみたいで、ヤケになった人たちの暴動対策だとか役に立ってるみたいなんだよ。
だから僕は小学校お休み。
けどパパとママはね、もし隕石落ちてこなかったら後で困るからってお仕事行ってるんだ。
「そんなのさ、隕石落ちて来ないって分かってから働いたら良いと思わない?」
「めっちゃ思う。さすが俺の孫だぜ。天才かよ」
お爺ちゃんはいつでも僕を褒めてくれるんだよ。
なんかポヤンとしてていっつも適当なこと言ってるお爺ちゃんだけど、面白くって大好きなお爺ちゃんなんだ。
「そんでこのテレビに映ってるのが噂の隕石かよ?」
「そうだよ。日本から今ちょうど見えるんだって」
「へぇ。これ距離どんくらい?」
「えっと、ちょっと待ってね」
あと59時間くらいで到着の時速9万キロだから、タンタンタンっと電卓使って――
「大体だけど531万キロだって」
「遠くねぇ?」
「これでもう相当近いらしいよ。月だって38万キロだもん」
そっか、そんなもんか、なんて呟いたお爺ちゃんは「ちょっと貸してみ」って電卓叩き始めたんだ。
「2024年から36回成長だから207回……っと」
「なに計算してるの?」
「え、あ――ちょ、うへ、何回かけたか分かんなくなったじゃん、ちょっと待っててくれよ」
ごめん分かった! って口に手あててじっと黙って様子見てたら、今度は凄く小さい声で呟いたんだよ。
「740キロ……余裕じゃねえか」
「何が? なにが余裕なの?」
僕の疑問には答えずに、お爺ちゃんは時計見てからこっち向いて言ったんだ。
「俺ちょっと釣り行ってくるわ」
僕ひとりに出来ないから、ってお父さんに頼まれてお爺ちゃん来てくれてるのに、あっさり僕置いて魚釣り行っちゃいそうだったから駄々こねた。
そしたらお爺ちゃんって僕に甘いからなんだかんだ言っても連れて行ってくれたんだ。だからお爺ちゃん大好き。
サビキっていう仕掛け? の下にぶら下がってるカゴに小さいエビいっぱい詰めて、産まれて初めての釣りチャレンジ!
お爺ちゃんに教えて貰った通りに竿上げて竿下げてして、カゴに入ったエビを振り撒きながら魚を待って。
それを繰り返しながらさ、顔上げて隕石見ちゃうと、さ、やっぱり考えちゃうよね。
僕のまだ十年しか経ってない人生もさ、もう明後日で終わっちゃうんだ。
お爺ちゃんはこうやって最後に一緒に遊んでくれたけど、やっぱりお父さんとお母さんとも遊びたいよ。
あんまりわがまま言うの好きじゃないけど、明日は一緒に過ごそって、言ってみよう、かな――
パチっ――
って隣から聞こえてそっち見てみたら、お爺ちゃんが空に向かって掌向けて、満足そうに頷いてた。
「よっしゃ完璧。さすが俺」
「……お爺ちゃんどうしたの? なにが完璧なの?」
ニッと笑ったお爺ちゃんが指さす方へ目を向けたらさ、さっきまで見えてた隕石無くなってたんだ。
……え? なんで?
「お――お爺ちゃんなんか、したの――?」
「おいそんなんどうでも良い! 引いてるぞ竿上げろ! はよ!」
え、なん、ちょ――うわわわわわっ!
慌てて竿上げたらサビキの針に四匹も魚付いてたんだ!
「やったなオイ! 良いサイズの鯵じゃんか!」
「う、うん、凄い重たかった! 僕初めて釣ったよお爺ちゃん!」
すっごい面白かった!
釣りってこんな感じなんだね!
「面白えだろ? むかし爺ちゃんも魚釣って食って過ごしてたんだけど、釣った魚は自分で料理して食うまでが釣りだかんな! 帰って焼くぞ!」
「でもでも! もっと釣った方が良くない!?」
ちっちっち、って人差し指を振り振りしてお爺ちゃんが言ったんだ。
「良いんだよひとり一匹で。もう父ちゃんのも母ちゃんのも、なんなら爺ちゃんの分もある。なんつってもよ、また何回でも釣りに来れるんだからよ!」
ニカッと笑うお爺ちゃんが言う。
そっか。
なんだか分かんないけど、お爺ちゃんのパチってやつ、あれで隕石なくなったっぽいもんね!
「今度はお父さんとお母さんも魚釣り一緒に来てくれるかな!?」
「いやどうだろな。あの二人、仕事ばっかしてやがるからなぁ……。ま、俺で良ければまた付き合ってやんぜ!」
《おしまい》