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内島ナイトと孤島の館 ※七日間生き残れ※
内島ナイトと孤島の館 ※七日間生き残れ※
8ツーらO太!
ミステリー推理・本格
2025年01月24日
公開日
5.6万字
連載中
絶海の孤島、灰島。その地下に眠る〝涅下の館(でっかのやかた)〟に10人の人間が集まった。そこで巻き起こる連続殺人。仲間がひとり、またひとりと殺されていく。犯人の狙いは何だ!? エントランスに飾られた奇妙な〝詩〟の真実とは!?
悪夢の一週間を生き延びるため、内島無人(ないとうないと)は残された仲間たちと共に推理を開始する。

推理が先か、死が先か―――

【登場人物】
◆内島 無人(ないとう ないと)
本作主人公。二十歳の大学二年生。

◆木塚 伊織(きづか いおり)
無人の幼馴染。穏やかな性格だが、しっかり者で頭の回転は速い。常識人のため、友人たちのお世話役的ポジション。

◆軽井 幸一(かるい こういち)
無人とは小学一年からの友人。明るい性格のムードメーカーだが、理絵に告白して振られて以降は元気が無い。

◆文哉(ふみや)・アッカーソン
灰島の所有者。大柄な金髪紳士。

◆箱空 里来(はこそら りく)
文哉の友人。口が悪いが、根は優しい。読書家。小型船舶の免許を持つ。

◆三日月 杏子(みかづき きょうこ)
文哉の友人。男勝りな美女。性格が残念。ダイビングの免許を持つ。

◆東郷 正孝(とうごう まさたか)
文哉の友人。酒と煙草に目が無い髭男。魚釣りが上手い。

◆イズミ
アッカーソン家の使用人。全使用人のトップに立つ存在。

◆ヒュウガ
アッカーソン家の使用人。シェフとして料理を担当する。

◆チトセ
アッカーソン家の使用人。ドリンク担当。


◇翼葉 理絵(よくば りえ)
無人の幼馴染。無人に恋心を抱いており、自分に告白してきた幸一のことを振っている。

※10年近く前に他サイトで別名義にて公開していた物語です。

プロローグ

 あおい潮の風味。鼻から吸いこんだ空気は、どことなくしょっぱく目頭に染みる。

 その人物は海を見ていた。迫りくる海風に身を委ね、船一つ浮かばない遠い水平線を見渡しながら、ぽつり……夢うつつのぼんやりとした表情で、

「いよいよだ……」

 腕を下げたまま、脚の横で拳が握られた。爪が手のひらに食い込む。能面を張り付けたような風貌の内側で、その人物の決意は熱く煮えたぎっていた。

 これから起こる悪夢のような出来事はすべて、その人物の〝新たなる人生〟のために必要不可欠なのである。計画は概ね万全。古今東西の推理小説(ミステリ)を読み漁り、長い時間をかけてトリックを考えた。

 躊躇いは一切無い。多分……無い。

 右手を胸に当て、潮風を深く吸う。顔を上げれば、雲一つ浮かばぬ真っ蒼な空に突き刺さるように、強烈な太陽が輝いている。その煌々とした真夏の王者に目を細め、ゆっくりと息を吐きながら、再び海に視線を投げる。陽光を受けた海面は、手前の方からずっと向こうの水平線まで、白く反射してきらきらと道のように見える。

 もうすぐ、船が着く。そうしたら、休む間もない一週間が始まるだろう。

 これが最後の安らぎとばかりに、その人物は目を閉じた。遠くで海鳥が鳴いている。鼻を抜ける潮風はやはりしょっぱい。

 人生が掛かっているのだ。自分だけでなく、自分がこれから手に掛けるであろうすべての人の人生が。

 胸に置いた手が、小刻みに震える。

「情けない」

 自嘲に引き攣った笑いが口元に浮かぶ。だがすぐにそれを噛み殺し、しかと目を見開いて前方を睨んだ。

 こんな人生は終わらせてやる。そして必ず、新たな人生を掴むのだ。

 歯を食いしばり、もう一度強く拳を握りしめる。突き刺す陽射しが、ぴりぴりと肌に心地よい。もう、震えは止まっていた。

 そのとき、背後に近づく足音があった。その相手は、もうすぐ船が着くらしいと伝えに来たようだった。

「わかった」

 いつもと変わらぬ声音で、海を見たまま答える。能面は、はらりはらりと砕け落ち、白塗りされた檜木(ひのき)の下から熱い皮膚が蘇る。固まっていた唇が柔らかく動くのを確認するとその人物は、催促する相手の方へ、海風と共に振り返った。

 さぁ、始まりだ。

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