初配信から一週間が過ぎた。
だんだんと紗倉は配信に慣れていき、リスナーとの交流も増えていった。
そして今日、運営主体のファンクラブが開設される予定だ。
リスナーからの期待も高まり、SNS上ではすでに「ファンクラブ開設おめでとう!」といったメッセージが飛び交っていた。
夜の配信時間が近づき、紗倉はいつものようにパソコンの前に座って準備を進めていた。
「……ファンクラブとか、ほんまに大丈夫なんかな」
緊張で手のひらに汗がにじむ。
自分がここまで注目されるとは、初配信の頃は想像もしていなかった。
それでも、リスナーたちの応援があったからこそ、ここまで来られたのだ。
「みんなが楽しんでくれればええんやけど……」
深呼吸して気持ちを落ち着かせ、配信ソフトを立ち上げる。
画面には待機しているリスナーたちのコメントがすでに流れ始めていた。
『こんばんは!』
『ファンクラブ開設おめでとう!』
『今日も楽しみ!』
配信開始のカウントダウンがゼロになると、紗倉は「めるる」として元気な声を張り上げた。
「ご主人様のご帰宅です! ままれ〜ど所属、新人VTuberの桃花めるるやで〜! 今日もよろしくな〜!」
コメント欄が一気に盛り上がる。
『ただいま!』
『ファンクラブ、即入った!』
『これからも応援してます!』
コメントが続々と流れていく。
「今日、ファンクラブが開設される日です! もちろん、私以外にも同期の二人もいるから、気になったら入ってな!」
めるるは笑顔でリスナー全体に語りかけるように話を続けた。
リスナー一人一人に個別で返信はしないが、コメントを拾いながら感謝の気持ちを伝える。
「これからはファンクラブ限定の配信とか、いろんな企画もやっていくつもりやから、楽しみにしててな!」
リスナーたちからの祝福コメントが画面いっぱいに流れる中、紗倉は全員の応援に応えるように明るい声を続けた。
「事務所代表として、ちょっと説明していくね〜」
めるるは明るい口調で、ファンクラブについての詳細をリスナーたちに伝え始めた。
「ファンクラブでは、限定配信や特別なイベントへの招待、それからここだけのオリジナルコンテンツも用意してるんや! 他にも、私が考えたちょっとした特典もあるから、ぜひ楽しみにしててな〜」
コメント欄にはさらに興奮したリスナーたちの声が流れ込む。
『うわ、限定配信楽しみすぎる!』
『もう入会した!』
『オリジナルコンテンツとか豪華すぎない?』
「もちろん、無理のない範囲で楽しんでもらえたらそれで十分やからね! ファンクラブに入ってない人でも配信は変わらずやっていくし、みんなで盛り上がれる空間を作っていきたいと思っとるよ〜!」
めるるはそう言って、全てのリスナーに向けて感謝の意を込めた笑顔を画面越しに見せた。
「ほんま、ここまでこれたのはみんなのおかげやから……これからもよろしくな!」
リスナーたちのコメントがさらに画面を埋め尽くす。
『感動して泣きそう……!』
『こちらこそよろしくお願いします!』
『これからも応援し続ける!』
紗倉は、リスナー全体に対する感謝と喜びを噛みしめながら、配信を進めていく。コメント一つ一つに個別に返事をすることはないものの、めるるの言葉は確かに多くの人々に届いているようだった。
その夜の配信は、ファンクラブの開設という節目を迎えたことで、リスナーにとっても特別なものとなった。
紗倉自身もその手応えを感じながら、配信終了後、そっと画面を閉じた。
「……これからやな」
深夜の静かな部屋で、紗倉は静かに自分にそう言い聞かせるのだった。
配信が終わってファンクラブを見ると、続々と人が入ってきているようだった。
ファンクラブではライバーごとのチャットが用意されており、そこでファンと会話ができるようになっていた。
もちろん、個人チャットは禁止だが、リアルタイムで関われることに嬉しさを覚えた。
『配信ありがと〜!今日早速だけど、オリジナルコンテンツの配信後アフタートークをやるよ〜!』
そう書き込み、ボイスチャンネルへと入った。
そこにはミュートであったが、たくさんのリスナーたちが待機していた。
知っている名前も大勢いた。
「あー。これ聞こえてるかな?」
紗倉がそう発言すると、配信チャットに書き込まれていった。
『聞こえてるよ〜』
『バッチリ!』
「よかった〜! ほんなら、今日の配信のアフタートーク、始めるで!」
紗倉は、ファンクラブ限定のボイスチャットでリスナーたちに語りかける。
画面に表示されるリスナーのリアルタイムの反応を見ながら話すのは、通常の配信とはまた違った新鮮な感覚だった。
「みんな、ファンクラブ入ってくれてほんまにありがとうな。今日の配信、どうやった?」
チャット欄にはすぐに感想が書き込まれる。
『最高だった! めるるの声聞けるだけで癒やされる!』
『ファンクラブ限定の特典とか、めっちゃ楽しみ!』
『正直、ファンクラブ入ってよかったって思った!』
「そう言ってもらえると、ほんまに安心するわ〜。実は、ファンクラブの準備、いろいろ大変やってん。でも、こうしてみんなが喜んでくれるの見たら、全部報われた気がするわ!」
紗倉は素直な気持ちを言葉に乗せる。
ファンクラブの準備が進む中で不安に思うことも多かったが、リスナーたちの温かい反応がそのすべてを吹き飛ばしてくれる。
『めるるが頑張ってるの、ちゃんと伝わってるよ!』
『これからもずっと応援するからね!』
コメント欄の応援の言葉に、紗倉は思わず目頭が熱くなるのを感じた。
「ほんまにみんな、ありがとうな……私もこれから、もっともっと楽しんでもらえるように頑張るわ!」
アフタートークでは、配信では話せなかったエピソードや裏話を交えつつ、リスナーたちとの距離をさらに縮めていく。
「ちなみに、ファンクラブ限定のコンテンツで、みんなに何かアイデアとかリクエストがあったら教えてほしいな〜。参考にさせてもらうで!」
『めるるの歌ってみたが聞きたい!』
『オフラインイベントとかあると最高!』
『料理配信とか、普段の生活感出る企画もいいかも!』
「おお、みんなええアイデアやな〜。歌ってみたとか、実は私もやってみたいと思っとったから、ちょっと考えてみるな!」
楽しい会話が続き、気づけば時間はあっという間に過ぎていた。
「ほんなら、そろそろ締めに入ろか。今日はほんまにありがとうな! ファンクラブでもこれからどんどん盛り上げていくつもりやから、よろしく頼むで!」
「定期的にここに顔出すと思うから、そんときは反応してくると嬉しいよ!」
最後に感謝の気持ちを込めて言葉を残し、紗倉はアフタートークを締めくくった。リスナーたちの「おつめる!」の声が画面を埋め尽くし、紗倉の胸には暖かい充実感が広がっていた。
配信が終わった部屋で、紗倉は静かにパソコンを閉じる。
「これからやな。めるるとして、もっと頑張らな」
彼女は未来への決意を胸に、また新たな一歩を踏み出そうとしていた。