都内某所、とある部屋で元気な声が聞こえてきている。
「ご主人様のご帰宅です!ままれ〜ど所属、新人VTuberの桃花めるるやで〜」
スマホの画面から大きな声が聞こえてくる。
それを横目に、夕飯の支度をしている男がいる。
包丁でキャベツを刻み、フライパンで肉を焼きながら、スマホから流れてくるめるるの配信をぼんやりと耳にしているのは、都内で社畜をしている一般サラリーマンである桃未大架だ。
「……元気やな、ほんま」
大架は画面をちらっと見たが、すぐに気にせず料理を続ける。
最近、彼はめるるの配信をよく視聴していた。
最初は興味本位で見始めただけだが、その明るく元気な声に次第に引き込まれていった。
「どんな子なんやろな、ほんま」
画面には、リスナーたちのコメントが流れている。
『めるる、今日も可愛い!』
『テンション高すぎて元気もらった!』
『ただいま〜!』
大架はそのコメントの中に、コメントを打ち込んだ。
『めめ:昨日に引き続き楽しむよ〜』
当然、返事が来るはずもなくそのまま配信が進んでいく。
コメントを何気なく見ていると、SNSで絡みがあるような人たちもちらほらいる。
その中でも、『レン』と言う人とはかなり絡ませてもらっている。
素性がわからない人間だが、とにかくめるるが好きだと言うのは伝わってくる。
自分も含め、あまりコメントしない人だからこそミステリアスな印象を受ける。
そう思いながら、大架は夕飯を食べ続け、めるるの配信を気ままに楽しんでいた。リスナーとして、彼は何も知らずにめるるを応援し続ける。
夕飯を食べ終わり、配信が終わったのは23時だった。
「今日は初配信の振り返りありがとう〜!次の配信は明後日の同じ時間から!」
コメントが流れていく。
『楽しかった〜』
『明後日もよろしくね〜』
『おつ〜』
大架も同じようにコメントをする。
そうして、配信が終わる。
「…寝るか」
部屋の電気を消してスマホを充電し、そのまま眠りにつく。
「ブブブ、ブブブ」
目を閉じた瞬間、スマホのバイブが鳴る。
どうやら妹からのようだ。
『ちょっと聞きたいことあるんだけど』
メッセージがきていた。
『なんだ?』
暗い部屋で眠たい目を擦りながら、そう返信する。
『引越し手伝って欲しいんやけど』
『来月くらいに一回地元帰ってきてくれん?』
突然のお願いに少し驚きつつ、東京から大阪に戻る手間を考えて少しため息を吐く。
『大阪からどこに引っ越すんや?』
返事がすぐに帰ってくる。
『東京行こうかなって』
大架は思わず目を細めた。
もちろん、両親がおかしいのは身を持って体験している。
だから、大架は高校生で家を出た。
紗倉が早く離れたいと思うのも必然だろう。
だが、引っ越す費用や新居の用意にはお金がかかる。
大学生であるあいつが到底用意できるとは思えない。
『金はどうするん?俺はそんな出せないぞ』
メッセージを送ると、しばらくして返事が帰ってきた。
『貯金できてるし大丈夫。バイトしてるし』
大架は少し考えた後、返信する。
『てか大学行ってんだろ?やめんのか?』
メッセージを送った後、大架はスマホを握りながら少し考え込んだ。
紗倉が東京に来て一人暮らしをするというのは、現実的に難しいのではないか。
そんな不安が頭をよぎる。
数分後、スマホが振動し、彼女からの返事が届いた。
『大学はやめへんよ。ちゃんと単位も取るし、卒業もする。だから安心して』
『そっか。まあ無理だけはすんなよ』
『わかっとる。ありがとうね』
その一言で、やり取りは終わった。
だが、大架の胸にはどこか引っかかるものが残る。
(……なんか隠してるんちゃうか、あいつ)
妹は昔から何か悩みがあってもあまり話そうとしない性格だった。
大架はそんな彼女を放っておけないと感じながらも、無理に踏み込むのはやめた。
「まあ、直接会ったときに様子見てみるか」
そう呟きながら、スマホを枕元に置いて布団に潜り込んだ。
しかし、なかなか眠りにつけなかった。