バイトが終わると、すぐに大学へと戻った。
そのまま友人たちが待つであろうカフェテリアに速攻向かう。
カフェテリアに続くドアを開けると、いつもの席に友人たちが座っていた。
「お、バイトお疲れ〜」
紗倉に気がついた友人が、遠くから声をかけてくる。
「おつあり〜」
紗倉はそうして席につく。
「ご飯は食べてきたん?」
友人の一人が紗倉にそう聞く。
「あんまお腹空いてないんだよね」
とゆうのは建前で、実際はあまりお金を使いたくない。
実際はかなりお腹が減っている。
友人に奢られるのも性格的にはされたくない。
「ダイエットか?」
デリカシーのない男友達がそう聞いてきた。
「お前最低!」
紗倉が少し声を荒げて男友達にそう言った。
冗談めかしく笑う友人たちにため息をつく。
「そういえば紗倉、最近なんか忙しそうじゃない? バイト増やしたとか?」
女友達の一人が唐突に聞いてきた。
「え? そ、そうかな?」
紗倉は焦りを隠しながら答えた。
「なんか授業中もスマホ見てること多くない? 課題か何か?」
別の友人が首をかしげて尋ねる。
「うーん、まあ課題もそうだけど、バイトが忙しいしね。空いてる時間でシフト入れまくってるからさ」
紗倉は咄嗟に適当な言い訳を口にした。
本当は配信活動の準備やSNSのやり取りに時間を費やしているが、それを知られるわけにはいかない。
「そっか。頑張りすぎて倒れないようになー」
「本当だよ。なんか顔色悪いし、たまには遊ぼうよ!」
友人たちは軽い調子で言ってくれるが、その言葉がどこか胸に刺さる。
遊びたい気持ちはある。
けれど、自分にはその余裕がない。
「うん、ありがとう。気をつけるね」
紗倉は曖昧に微笑みながら、その場をやり過ごした。
『私も、普通の学生みたいに楽しめたらいいのにな』
友人たちとの会話を聞き流しながら、紗倉は心の中でそう思った。
けれど、今は配信が彼女にとっての唯一の希望だ。
ファンのためにも、それを手放すわけにはいかない。
講義が終わると、紗倉は友人たちに軽く手を振って講義室を後にした。
次の予定はまたバイトだ。
昼のバイトを終えたばかりだが、夜のシフトも入れている。
「一日にバイト二回って、我ながらすごいスケジュールだよね……」
苦笑しながらスマホで時刻を確認する。
駅前のカフェでのバイトは、夕方から夜にかけての時間帯。
大学から駅までは小走りで15分ほどだ。
駅に着くと、雑踏の中をすり抜けるようにしてカフェへ向かう。
「よろしくお願いします!」
制服姿に着替え、バックヤードからフロアに出ると、すでにピークタイムの忙しさだった。
「桃未さん、ドリンク2番テーブルお願い!」
「了解です!」
オーダーが飛び交う中、紗倉は笑顔を絶やさずに接客を続けた。
お腹は空いているが、そんなことを考える余裕もない。
頭の中は、次の配信のことをほんの少しだけ考えながら、目の前の仕事に集中していた。
「お疲れ様でした〜。お先失礼します〜」
紗倉はそう言って店を出た。
怒涛の三時間がやっと終わった。
夕食は賄いで既に済ませてあり、そのまま駅に向かって歩き始めた。
スマホを見ると、時刻は19時半。
今日の配信は確か21時からだったはず。
帰るのに一時間かかるとして、ギリギリ間に合いそうだ。
紗倉は駅のホーム内まで入り、電車を待つ。
その間に、SNSを確認する。
朝に見た時より反応が増えている。
とりあえず、配信内容の発信をした。
『今日は昨日の初配信の振り返り!21時からだからお間違えのないように!』
そう発信すると、まもなく電車がやってくる。
紗倉が住む街は終点だ。
つくまで、心置きなく寝ることにした
「えー、終点愛原〜愛原〜」
紗倉は車掌のその声で起きた。
眠たい目を擦り、電車を出る。
幸い、住んでいる場所から駅は近い。
時刻は20時20分。
まだ余裕があるが、少し小走りで家へと向かう。
「ガチャン」
紗倉は家の鍵を開けて静かに中に入る。
そのまま自分の部屋へと駆け足で向かう。
どうやら、父はいないようだ。
「ふう…」
紗倉は部屋でそっと胸を撫で下ろす
今のうちに、お風呂に入ろうと着替えを持って洗面所へと向かう。
「早く一人暮らししたいな…」
紗倉は湯船に浸かりながらそう呟く。
湯船の中で、紗倉はぼんやりと天井を見つめていた。
暖かいお湯に浸かると、体の疲れがじわじわと溶けていくような気がする。
けれど、心の中の重たい感情は簡単には流れ落ちてくれない。
「一人暮らししたら、もっと自由になれるのに……」
そう呟いたものの、一人暮らしをする余裕なんてどこにもない。
バイト代は学費と最低限の生活費に消えていき、貯金をする余裕すらないのが現実だ。
それでも、この家にいる時間が心の負担になることは変わらない。
紗倉は深く息を吐き、頭を軽く振って気持ちを切り替えた。
「ネガティブダメ!今は配信に集中しよう」
湯船から上がると、急いで髪を乾かし、パジャマ代わりの楽な服に着替えた。
部屋に戻ると、パソコンを立ち上げて配信の準備を始める。
時刻は20時50分。そろそろリスナーたちが待機し始めている頃だろう。
「今日もみんな来てくれるかな……」