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第3話 葛藤と思い

バイトが終わると、すぐに大学へと戻った。

そのまま友人たちが待つであろうカフェテリアに速攻向かう。

カフェテリアに続くドアを開けると、いつもの席に友人たちが座っていた。

「お、バイトお疲れ〜」

紗倉に気がついた友人が、遠くから声をかけてくる。

「おつあり〜」

紗倉はそうして席につく。

「ご飯は食べてきたん?」

友人の一人が紗倉にそう聞く。

「あんまお腹空いてないんだよね」

とゆうのは建前で、実際はあまりお金を使いたくない。

実際はかなりお腹が減っている。

友人に奢られるのも性格的にはされたくない。

「ダイエットか?」

デリカシーのない男友達がそう聞いてきた。

「お前最低!」

紗倉が少し声を荒げて男友達にそう言った。

冗談めかしく笑う友人たちにため息をつく。


「そういえば紗倉、最近なんか忙しそうじゃない? バイト増やしたとか?」

女友達の一人が唐突に聞いてきた。

「え? そ、そうかな?」

紗倉は焦りを隠しながら答えた。

「なんか授業中もスマホ見てること多くない? 課題か何か?」

別の友人が首をかしげて尋ねる。

「うーん、まあ課題もそうだけど、バイトが忙しいしね。空いてる時間でシフト入れまくってるからさ」

紗倉は咄嗟に適当な言い訳を口にした。

本当は配信活動の準備やSNSのやり取りに時間を費やしているが、それを知られるわけにはいかない。

「そっか。頑張りすぎて倒れないようになー」

「本当だよ。なんか顔色悪いし、たまには遊ぼうよ!」

友人たちは軽い調子で言ってくれるが、その言葉がどこか胸に刺さる。

遊びたい気持ちはある。

けれど、自分にはその余裕がない。

「うん、ありがとう。気をつけるね」

紗倉は曖昧に微笑みながら、その場をやり過ごした。


『私も、普通の学生みたいに楽しめたらいいのにな』

友人たちとの会話を聞き流しながら、紗倉は心の中でそう思った。

けれど、今は配信が彼女にとっての唯一の希望だ。

ファンのためにも、それを手放すわけにはいかない。


講義が終わると、紗倉は友人たちに軽く手を振って講義室を後にした。

次の予定はまたバイトだ。

昼のバイトを終えたばかりだが、夜のシフトも入れている。

「一日にバイト二回って、我ながらすごいスケジュールだよね……」

苦笑しながらスマホで時刻を確認する。

駅前のカフェでのバイトは、夕方から夜にかけての時間帯。

大学から駅までは小走りで15分ほどだ。


駅に着くと、雑踏の中をすり抜けるようにしてカフェへ向かう。

「よろしくお願いします!」

制服姿に着替え、バックヤードからフロアに出ると、すでにピークタイムの忙しさだった。

「桃未さん、ドリンク2番テーブルお願い!」

「了解です!」

オーダーが飛び交う中、紗倉は笑顔を絶やさずに接客を続けた。

お腹は空いているが、そんなことを考える余裕もない。

頭の中は、次の配信のことをほんの少しだけ考えながら、目の前の仕事に集中していた。


「お疲れ様でした〜。お先失礼します〜」

紗倉はそう言って店を出た。

怒涛の三時間がやっと終わった。

夕食は賄いで既に済ませてあり、そのまま駅に向かって歩き始めた。

スマホを見ると、時刻は19時半。

今日の配信は確か21時からだったはず。

帰るのに一時間かかるとして、ギリギリ間に合いそうだ。

紗倉は駅のホーム内まで入り、電車を待つ。

その間に、SNSを確認する。

朝に見た時より反応が増えている。

とりあえず、配信内容の発信をした。

『今日は昨日の初配信の振り返り!21時からだからお間違えのないように!』

そう発信すると、まもなく電車がやってくる。

紗倉が住む街は終点だ。

つくまで、心置きなく寝ることにした


「えー、終点愛原〜愛原〜」

紗倉は車掌のその声で起きた。

眠たい目を擦り、電車を出る。

幸い、住んでいる場所から駅は近い。

時刻は20時20分。

まだ余裕があるが、少し小走りで家へと向かう。


「ガチャン」

紗倉は家の鍵を開けて静かに中に入る。

そのまま自分の部屋へと駆け足で向かう。

どうやら、父はいないようだ。

「ふう…」

紗倉は部屋でそっと胸を撫で下ろす

今のうちに、お風呂に入ろうと着替えを持って洗面所へと向かう。


「早く一人暮らししたいな…」

紗倉は湯船に浸かりながらそう呟く。

湯船の中で、紗倉はぼんやりと天井を見つめていた。

暖かいお湯に浸かると、体の疲れがじわじわと溶けていくような気がする。

けれど、心の中の重たい感情は簡単には流れ落ちてくれない。

「一人暮らししたら、もっと自由になれるのに……」

そう呟いたものの、一人暮らしをする余裕なんてどこにもない。

バイト代は学費と最低限の生活費に消えていき、貯金をする余裕すらないのが現実だ。

それでも、この家にいる時間が心の負担になることは変わらない。

紗倉は深く息を吐き、頭を軽く振って気持ちを切り替えた。

「ネガティブダメ!今は配信に集中しよう」

湯船から上がると、急いで髪を乾かし、パジャマ代わりの楽な服に着替えた。

部屋に戻ると、パソコンを立ち上げて配信の準備を始める。

時刻は20時50分。そろそろリスナーたちが待機し始めている頃だろう。

「今日もみんな来てくれるかな……」




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