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四人目の主

私は、不老不死のごく普通のメイドです。



革命の勃発もあり、しばしの間、私はお仕えする主人を見つける事ができませんでした。

しかし西暦1801年、私は四人目の主人に出会う事ができました。

ご主人様は、私が今までお仕えしてきた中で主人様方の中で最も強い信念をお持ちの方でした。

その信念とは、空を飛ぶことです。


1783年ごろから気球ブームが続いており、ご主人様もそれに乗ったのかと思いましたが違いました。

なんでもご主人様は、幼き日に気球で空を飛んだ兄弟を見て以降、いつか自分も大空を飛びたい、と思っておられたそうなのです。


私は、ご主人様のお望みを叶えたいと強く思いました。

メイドとしてお仕えするのは勿論ですが、私自身も大空を飛んでみたいと思ったからです。


西暦1806年、ご主人様はついにオリジナルの気球作りを始められました。

ご主人様は複雑な計算や設計が得意であらせられ、材質から設計図まで、全てご自身で計画·考案なされました。

私も、必要な材料の調達や組み立てのお手伝いをさせて頂く事ができました。


この取り組みは、一目につかない辺境の荒野で、ご主人様が個人で行われるものです。

従って、何の記録にも絵画にも残りません。

しかし、私の記憶にはしっかり残りました。


そしてー

数ヶ月を費やした準備の末、ついにご主人様と私は完成した気球に乗り込み、空へ飛び立ちました。

当時の達成感と爽快感、そして興奮は、今でもよく覚えています。



以降、ご主人様は気球を作っては乗り、を繰り返され、大空に夢と生き甲斐を求め続けられました。

その過程で、私はご主人様及びそのご家族と空の旅に何度もご一緒させて頂きました。



そして、西暦1850年。

ご主人様と私が乗った気球は、風によって海に流されていき、遂には破裂してしまいました。


私とご主人様は、なす術もなく海に落ちてー。





私の四人目の主人は、願望を追い続けた挙げ句に海の藻屑と消えました。

私は、偶然通りかかった商人の船に助けられて、陸に戻って生きました。



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