【ご心配であればこちらをどうぞ】
と、≪サポちゃん≫が取り出してきたのは、さっき≪セリー≫を縛り上げた時に使ったロープだった。
「ロープ……これをどうするの?」
【お互いの腰に結び付けておいて、もし落とし穴の罠が発動して≪セリー≫さんが落ちるようなことがあった時には≪アルミちゃん≫が引き上げたら良いんじゃないでしょうか】
「ものすごーく原始的ー。まあ、落とし穴も原始的な罠だし、対抗策としてはそれくらいで良いか」
ほかの罠だったら……。
って考えすぎても仕方ないし、とりあえずやれることをやりましょう。
「OK。結べた。≪セリー≫のほうも大丈夫? ロープが緩んだりはしていない?」
「大丈夫そう~。これでお姉さまと私は運命の赤い糸で結ばれた間柄に♡」
太くて茶色いロープで結ばれた間柄だけどね。
もう恐怖心もなくなってそうだし、まあいっか。
「それじゃあ、そこの黄色い宝石を引っ掻いて何が起きるか試してみよう!」
「お姉さま、私がんばる! うまくできたら……ご褒美くださいね?」
「またそういうフラグになりそうなことを……」
≪セリー≫はなんでこんなに、ドジっ娘ヒロインムーブをしてるの? いや、そんなに期待を込めた目で見られても、≪セリー≫が望んでいるようなご褒美は上げられないよ? わたし、リアル百合属性ないし。
「じゃ、じゃあ……うまくできたら……このネコ缶を上げるね」
なんかインベントリーの重量制限ギリギリまで持たされているし。邪魔だからちょっと減らしたいなーって。
【いけません! ネコ缶はすべて私のものです。誰にもあげませんよ!】
強欲ネコ……。
「あのさー、めっちゃ大量に買い込まされた時に、≪サポちゃん≫がなんて言ったか覚えている?」
【私の健康度を保つ大切な食糧なので、常に1年分はストックを持つようにしてください、でしたか】
「ぜんぜん違う。『ネコ缶は体に良いから、いざとなれば塩気を足して人間が食べることも可能です。非常食としても価値があるのでぜひたくさん持っておいてください』だよ! もし何かあった時に、みんなに分けるために持っているの!」
独り占めは許しませんよ!
【はて? そんなこと言いましたか?】
「言いました! だからこれは≪セリー≫に上げます!」
だからがんばってね?
「お姉さま……悪いんだけど、ぜんぜんいらない……」
だよねー。やっぱりネコ缶じゃご褒美にはならないよね。知ってました!
んー、ご褒美は……ノープラン!
「と、とにかく! さっそく宝石ギミックを作動させちゃって!」
「わ、わかったわ!」
頭でごちゃごちゃ考えるより、とにかくやってみてから考える!
それが1番だよ!
「それじゃあいくわね!」
≪セリー≫がゆっくりと岩と岩の隙間にスターライトワンドを差し込んでいく。
杖の太さ的に言って、穴にギリギリ入るくらいなので、杖を突っ込んだらあとはほぼ手探り状態だ。
「ん~、えいっ、えいっ! この~!」
≪セリーも≫最初は慎重に杖を差し込んでいたけれど、手探りではうまく宝石に触れないようで、だんだんと動作が荒くなっていく。
「こっち、かな? えいっ! ん~、こっち?」
何度目かのチャレンジの時――突然、「カチッ」というスイッチが入るような音が聞こえてきた。
それから地鳴りのような重低音が辺りに響き渡る。
「押せた、のかしら?」
「たぶん、ね……」
地鳴りが大きくなってきた。
思っていたよりも大規模なトラップかもしれないね。
これは……失敗したかな……。
隠し部屋?
もしかしたらモンスターハウスかも。
「……逃げたほうが良いかな」
作動したトラップがモンスターハウスだとしたら、出てくるのがゴースト系だけとは限らないし。それだと≪セリー≫には対処できない。
「お姉さま、あれを見て!」
≪セリー≫が指さしたのは、わたしが見ていたのとは反対方向。
「岩の裂け目が現れた? やっぱり隠し部屋かあ」
大きな揺れ、そして地鳴り。
これまではダンジョンの壁だった場所に出現した通路。
ギミックを作動させると入ることのできる隠し部屋の登場だった。
そこから魔物が溢れ出してくる気配はなし、と。
「お姉さま……あそこに行ってみるの……?」
≪セリー≫が不安そうな目でこちらを見てくる。
【ぜひ、行きましょう!】
わたしが答えるより先に、≪サポちゃん≫が先頭を切ってダンジョンの裂け目へと走っていく。
「ちょっとー! わたし、まだ行くって決めてないよ!」
たぶん罠だし、こういう場合ってモンスターハウスじゃなかったとしても、フロアレベルを無視した強敵が待っていることが多いしなあ。
【ハプニング映像のチャンスです!】
そりゃそうだろうけど……。
んー、ホント大丈夫かな……。