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第108話 それでなんやかんやあって、ワイはここにおんねん

【クエストの発生を確認しました。「マイケル=アルバレイウスの日記」を受託しますか?】


 クエストかあ。

 まあ、これを受けないと脳内でずっと歌を歌われるんでしょ。実質強制イベントだよね……。


「はいはい、やりますよ。さっさと終わらせて奥の部屋を見に行かないといけないし。それで何? おっさんはマイケル=アルバレイウスって言うの? ノートのくせにずいぶん贅沢な名だね」


 大層な名前なんていらないでしょ。

 今からお前の名前はノートおっさんだ!


『ワイはノートちゃうで!』


「いやいや、どこからどう見てもノートでしょ」


 ペラペラだし、ページ数少ないし。これで書籍だとでも?


『だからノートちゃうねん。ワイは人間やで?』


「人間ー⁉ さすがに無理があるってー。だってノートだし、おっさん声だし」


『せやからノートやない言うとるやろ! それにワイはおっさんやない! まだまだお兄さんや! 人間の頃は毎日筋トレしとったし、肉体年齢20代やったんや! せや、気軽にマイケル兄さんって呼んでや』


「絶対嫌! なんでそんな先輩芸人を呼ぶみたいに……」


 何度も言うけど、わたしは『配信者ストリーマー』なの! アイドルなの! 芸人とは真逆の存在なんだからね!


『ほいで姉ちゃん~、ちょいとマイケル兄さんの話を聴いて~や。ええか?』


 マジで嫌どすえ。

 でも聞かないとクエスト終わりませんよね。さっさと話してくれないかな? 会話のスキップ機能導入してほしい……。


【会話のスキップ機能は検討いたします】


 あとから会話ログを追えば良いようにしてほしいー。ログがどこに出るのか知らないけど。


『いつだったか……もう記憶が曖昧なんやけど、マイケル兄さんはいつも決まって朝5時に目が覚めるやんか~?』


 話して良いって言ってないのにおっさんの一人語りが始まっちゃったわ……。

 もう、そんなの知らんがな。

 早く目が覚めるとか、やっぱりおっさん……むしろ、じいさんじゃん。


『マイケル兄さんはな、雨の日以外は朝起きたら散歩することにしてんねん。年取ってきたら健康に気ぃ遣わんとな』


 どう考えてもおっさんの発言だわ。

 もうなんなのこのおっさん……。


『そしたらな、噴水前になんや行商人らしきヤツがおってな。物売ってんねや。おかしいな~思って……朝の5時半にやで?』


 ん、噴水前に行商人?

 なんかそんな出来事に遭遇したことがあったような……。


『ワイ、人見知りやねんけど、思い切って声を掛けたんや。「おう、兄ちゃん。誰に断ってここで商売しとんねん」ってな』


 人見知りがなんでいきなりケンカ腰なのよ。

 しかしここまでよくしゃべる人見知りのノートだこと。


『それでなんやかんやあって、ワイはここにおんねん』


「説明下手か! 一番肝心な部分を端折ったら何にもわからないでしょ!」


 その怪しい行商人に何かされたんならそこの部分を重点的に話しなさいよ!

 あ、待って。ちょっと思い出してきたかも。


「もしかして、その怪しい行商人って、バンダナとマスクで顔を隠していたりした?」


『あ~せやな。隠していたかもしれん』


「めっちゃ愛想だけは良かったりした? ハキハキしていて、サービスしますよーみたいなテンションで?」


『せやな~。ワイも褒められて良い気になってしもうたんや……。まさかこんなことになるなんてな……』


 わたしと≪ピート≫くんが出会った『移動ポーション屋』に似ている、かもしれないね。場所も同じだし、見た目もたぶん同じ? 結局あの『移動ポーション屋』って、『猫の眼』ギルドの依頼とはまったく関係なかったし、誰も素性を知らなかったんだよね。≪ニャンニャン姫≫も知らない行商人ってヤバすぎ……。


『あの行商人な、やたらとワイのこと褒めんねん。勇者の器やとかなんとか。「商売柄たくさんの冒険者を見てきたからわかる」って抜かしよってな……ワイももしかしたらそうかもな~って思うようになってしもうて……』


「おっさんのくせに人を疑うことを知らないの? よくそんなんでこれまで生きて来れたね?」


【それは≪アルミちゃん≫にもブーメランで突き刺さる言葉です】


 わたしはちゃんとしてるからー。

 信じられる人とそうじゃない人の見極めができる人だから騙されたりしないよ?


【そうですか。騙されていないと良いですね】


 なんでそこでにっこり笑うの?

 なんか怖いんですけど……。


『行商人がな、ワイのことを褒めて褒めて、いろいろ物をくれたんや。騙して高額請求してくるわけでもなく、全部ロハでな。なんや、ただのええヤツか思って、「兄ちゃんも商売がんばりや~」言うて立ち去ろうとしたその時や』


 お、いよいよ本題かな?


『「未来の勇者とお近づきになれた記念に」言うて、見慣れない金属のプレートを渡してきよったんや』


「金属のプレート……?」


 あれ、なんか……。もしかして……。


『せや。金属のプレートや。見たこともない古代文字が刻まれとってな。「これはなんて書いてあるんや~?」って訊いたら、故郷の言葉で「覚醒の時は近い」って書いてある言うてな。何か勇者っぽいやろ?』


 たしか、≪ピート≫くんに渡された金属プレートに刻まれた文字は『健康と安全』? なんかそんな感じの言葉だったと思う。おっさんと≪ピート≫くんが受け取った金属片はちょっと違うってことかな。


『かっこええな、思うて、プレートの上の穴に紐を通して首から下げていたんや。それが家に戻ったら急に光り出してな。気づいたらここに居ったっちゅ~わけや』


 何か魔術的な仕掛けがあったのは間違いなさそう。

 でも何の目的でおっさんをノートに閉じ込めたりしたんだろう。

 今のところ何もわからない……。


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