目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第104話 わたしたちお笑い芸人コンビじゃないからね?

 しばらく≪セリー≫の特訓をした後、わたしと≪セリー≫は『メルクザード廃坑』地下2階へ。

 ちなみに≪アサダ≫さんは、見事に『狂騒ポーション』作りに成功。ホクホク顔で満足そうに帰っていきましたよ、と。


 もらった『狂騒ポーション』は、まだ≪セリー≫には飲ませていない。いよいよ足が前に進まなくなった時に飲ませるための保険かなって。『鼓舞ポーション』と同じように、気分がアゲアゲになるんだとしたら、≪セリー≫の人格が変わっちゃうもんね。


【≪セリー≫さんの経験を積みながら、緩く地下3階を目指しましょう。ついでにハプニング映像になるようなトラブルもお願いします】


「しれっと無茶言わないで」


 地下1階に引き続き、ノンアクティブモンスターしか登場しないのに、ハプニングが起きるわけないでしょ。


【ですが、姫もハプニングをご所望です。おもしろ映像が撮れたらギフトをくださるそうですよ】


「えー、そんなこと言われてもなー」


 わたしたちお笑い芸人コンビじゃないからね?

 そう言われて急にハプニングなんて起きるわけな――。


「お姉さま! あそこに見えるのはなんでしょうか?」


 ≪セリー≫が指さす方向に見えるのは――。


「なんだろう。何か光っているね?」


 地面に積まれた石の隙間から光がこぼれているように見えるね。光を反射しているのかな?


「ちょっと見てみよっか」


「何か怖いもの……かしら……」


 ≪セリー≫はわたしの背中にぴったりと張り付いてくる。


「だからチュニックを引っ張らないでってば」


 買ったばかりでお気に入りなの! 裾が伸びちゃうでしょ!


 地下1階で多少ゴーストにも慣れたと思ったのに、ちょっと違うことがあるとすぐ怖がりに戻っちゃうのね。やっぱり早めに『狂騒ポーション』を飲ませようかな?


 わたしを先頭に、岩の割れ目に近づく。

 光の正体を見極めようと、しゃがんで石の隙間を覗き込んでみる。すると、積み重なった岩石の奥のほうに、黄色い小さな宝石が埋もれているのが見えた。

 なるほど? この宝石の輝きが光に反射して外に漏れ出てきていたみたいね。


「えーと、なんだろう。岩の奥に宝石……なんかのギミックかな。初めて見るタイプだけど」


 こんなところに偶然宝石が落ちているわけないし、さすがに目的があって埋め込まれているよね。となると、隠し部屋かトラップかな。地下2階程度で即死罠とかはないと思うけれど、作動させるのは若干躊躇するよね。でもわたしと≪セリー≫だと、JOB的には罠感知系のスキルはないしなあ。


「お姉さま、私の杖で引っ掻いてみるのはどう?」


 たしかに≪セリー≫の杖の柄なら、岩を崩さなくても宝石まで届きそうだけど。


「まあこういうのはだいたい罠だし、無視するっていう手もあるよ」


「お宝はない?」


「もちろんないことはないけれど、だいたいはモンスターが出てきたり、落とし穴が空いたりかなー」


 何も手に入らないことのほうが多いよ。

 ダンジョンの階が浅ければ浅いほどその傾向はあるね。逆に深い階層に潜ると、レアアイテムの隠し場所だったりすることもあるので、まあ、罠だろうなって思いながらも、基本的にこういうギミックは全部作動させてから進むのがセオリーだ。


「まあ、ハプニング映像を求めている人たちもいるので、≪セリー≫が罠にかかって『あわあわ』しているところを撮影しましょうかねー」


 そのほうが喜ぶ人も多いでしょう?


「お姉さまったらひどい! そんなことしたら、常に冷静沈着に対処する私のイメージが崩れるじゃないの!」


 えーと……まずは鏡を見るところ始めようか?

 自分を客観視するのに鏡を見るのが1番だよ?


「わかったわかった。冷静沈着な≪セリー≫に宝石の件は任せます。わたしはちょっと離れているから、がんばって罠にはまってきてね。≪サポちゃん≫は一緒について行っての撮影をよろしくー」


 さすがに即死罠が発動するなんてことが起きたら、≪サポちゃん≫が何とかしてくれるでしょ。なんていったってゲームマスターGMだし。


【私は≪アルミちゃん≫のサポートAIなので、この世界において何の権限も持っていません。加えて言うなら、≪アルミちゃん≫が気にしているような即死罠が、ここにはないという保証もできません。≪アルミちゃん≫はできたばかりの義妹を見捨てる。そういう人なのだということが配信によって広まるだけです。ああ、かわいそうな≪セリー≫さん……】


 なんなのもう……。

 ウソ臭い泣きの演技までして……。


「わたしも行けばいいんでしょ、行けば。でも『他職への変身システムトランスフォーメーション』は? このままの状態だと、何にもできないよ?」


 ただの非戦闘JOBだし。

 レベル1だし。


【現在は戦闘状態ではないため、『他職への変身システムトランスフォーメーション』の利用はできません。ある程度継続して戦闘が行われると認められた時に申請が承認されます】


 ゴーストをちまちま倒している程度では継続戦闘とは言えないかー。

 まあ、倒しているのもわたしじゃなくて≪セリー≫だし。


「んー、じゃあ何にもできることがないかも。隣で応援することくらい?」


「お姉さまが応援してくれるなら、私もがんばれそう♡ ああっ、お姉さまっ♡」


 この義妹は……急に発情するんじゃないの!

 ドキッとするからフェザータッチで腰を触ってこないで!


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?