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第23話 お風呂に入ったりトイレに行ったり、睡眠を取ったりする必要あるんだっけ?

「ところでおぬしたち、『猫の眼』ギルドに入らぬかえ?」


 ほぇ?

 いきなりギルド勧誘⁉


 ああっ! クエスト欄の表示が変わっている⁉

 ≪ニャンニャンティア≫さんに挨拶し終わったから、次は『「猫の眼」ギルドに加入しよう』になっている!


 これ、ギルド加入強制イベント?


【いいえ、もちろん断ることもできますよ】


 まあ別に断る理由もないんだけど、ほかにどんなギルドがあるのか見てもいないしなあ。


「ボス! いきなり勧誘はやめてくださいとあれほど……。正式な加入試験をですね……」


「そうじゃったな。すまんのじゃ。つい、ほしくなってしまったのじゃ」


「ボスはめずらしいものを見つけるとすぐにほしがるから……」


 わたしたちって、この部屋にある調度品と同じ扱いなの⁉


「それでは正式な加入試験を執り行うのじゃ。2人とも一緒に試験を受けるのじゃ」


「えっ、ボクもですか⁉」


 驚きの声を上げる≪ピート≫くん。


「≪ピート≫よ。おぬしのことは母君からよくよく頼まれておる。おぬしがこの部屋にたどり着くことができた時には、ギルド加入試験に参加し、見事合格できた暁には、本格的な冒険者活動が開始できるように取り計らってほしい、とな」


 そんな話だったのね。

 つまりミミちゃんがいなくなったのも、≪ダレン≫さんと≪ニャンニャン姫≫の間で話し合いがあったから。≪ピート≫くんがミミちゃん失踪事件の謎を解いて、この『猫の眼』ギルドにたどり着けたなら、冒険者として1人前と認められる。そういう筋書きだったってことかな。


【それだけはないと推測します。ブラックウィングレパードが成獣になった時、現在と同様に制御し切れるかは不明です。少しでも成功確率を上げるためには、優秀な『調教師テイマー』を複数人配置しておく必要があるでしょう】


 まあね、ボスモンスターの幼獣なんて聞いたことも見たこともないしなあ。いきなり街で暴れ出さないとも限らないもんね。≪ピート≫くんは将来有望そうだし、『調教師テイマー』としての力に期待されているのもそうなんだろうね。



「訓練場の予約をしました。みなさん、移動をお願いします」


 しばらくの間そのままぼんやりと部屋の調度品を眺めたり、≪ニャンニャン姫≫の耳やあごをモフったりしていると、長身のお姉さんが部屋に入ってきた。ギルドの受付にいた人かな?


「訓練場? 加入試験って戦闘もあります?」


「もちろんなのじゃ」


「で、ですよね……」


 さあどうするー?

 わたし、初期装備の銅のナイフしか持ってないんですけど? そもそもLv.1なんですけど?


「どんな試験なんですか……?」


「なんだビビっておるのじゃ? 心配はいらぬ。それぞれの特技を見せてもらうまでじゃ」


「特技、ですか……」


「非戦闘職に過剰な戦闘技能は求めぬ。自分の身は自分で守れることは証明してほしいがの」


 自分の身を自分で守れ……か。

 今のわたしからすると、だいぶ過剰な要求をされている気がしてならないんですが……。



「さて、着いたぞよ」


 おお、ここが訓練場かあ。

 狭そうに見える造りのギルドハウスだったのに、奥にはこんなに広い施設が!

 軽く野球場くらいはありそうな広さの敷地。中央部分には、敷石で作られた正方形の闘技場みたいなものがいくつも見える。端のほうには武器や防具が整理整頓して置かれているし、ダンベルみたいな訓練用の機材もあるね。


「皆の者、少し手を止めるのじゃ!」


 ≪ニャンニャン姫≫が声をかけると、それまで訓練に勤しんでいたギルドメンバーたちがピタリと動きを止めた。20人くらいはいるかな? 多すぎて正確な人数はわからないけど。


「これから、ここにおる2人の加入試験を執り行う。『調教師テイマー』≪ピート≫、そして『配信者ストリーマー』≪アルミちゃん≫じゃ」


 わたし、めっちゃ注目されている!

 これこれー♡

「『配信者ストリーマー』って何?」って、みんなが囁き合ってるぅ♡

 この感じを待っていたのー♡

 あー、気持ちいい♡


【≪アルミちゃん≫のその感じ……】


 何よ。

 良いでしょ!

 特別扱いされるのが好きなんだからしょうがないでしょ! 放っておいて!


【すごくステキです】


 えっ?


【承認欲求の塊とはこのことを言うのですね。まさにユニークJOB『配信者ストリーマー』にふさわしい!】


 あ、今わたし、褒められてる?

 参ったなー♡

 まだぜんぜん『配信者ストリーマー』ってどうすればいいのかわかっていないけど、向いているなら大丈夫だよね? 配信がんばっちゃおうかなー? そろそろ人が集まってきたし脱ぐ?


【なんですぐに脱ぎたがるんですか? 痴女なんですか?】


 普段注目されることなんてなかったからつい……。

 でも≪アルミちゃん≫は清楚系アイドルで売ってたから、やっぱり脱ぐのはちょっと……。


【何があっても脱がないでください。アカウントが凍結されたら困ります】


 そうは言うけどさー。わたしの姿って、今も配信されているんだよね?


【そうですね。24時間配信されています】


 今はまだ昼間……もうちょっとで夕方だから良いけどさー、夜とかどうするの?


【暗くなりますね】


 そうじゃなくてー!

 着替えとか! お風呂とか!


【以前にも少し説明した気もしますが、独自のフィルタリングをかけていますので、≪アルミちゃん≫が服を脱ぎ始めたり、なにかこう、ラブロマンス的な行動に出た際には、生配信から自動でこれまでの活躍をまとめたダイジェスト映像やNiceboatな映像に切り替わるようになっています】


 そう言えばそんなことを聞いたような……。

 じゃあわたしは別に気にせず、ここで生活していれば良い感じにしてくれるってことね?


【そうです。お任せください】


 ホントに配信されていないかを確かめる方法は……?

 さすがに服を脱ぐときは緊張する……。


【コンソールを開いて左下に『生配信中』のランプが点灯していませんか?】


 ああ、これ?

 確かに赤く光っているね。


【そのランプが消えます】


 なるほど。わかりやすい!

 ん、ちょっと待って?

 ここってVRMMOゲームの世界だけど、お風呂に入ったりトイレに行ったり、睡眠を取ったりする必要あるんだっけ?


【もちろん必要です。健康を維持するためには、現実世界と同じように行動をする必要があります。実は今、尿意があったりしませんか?】


 えっ……なんかそう言われると……すごくトイレに行きたいかも……。

 さっきイチゴジュースを飲んだから⁉

 この世界ってトイレあるんだよね⁉


【尋ねてみたらどうですか?】


 そ、そっか。


「あの……お姉さん」


 隣にいるギルド受付のお姉さんに声をかけてみる。


「はい、どうかしましたか?」


「トイレって……ありますか⁉」


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