「ところでおぬしたち、『猫の眼』ギルドに入らぬかえ?」
ほぇ?
いきなりギルド勧誘⁉
ああっ! クエスト欄の表示が変わっている⁉
≪ニャンニャンティア≫さんに挨拶し終わったから、次は『「猫の眼」ギルドに加入しよう』になっている!
これ、ギルド加入強制イベント?
【いいえ、もちろん断ることもできますよ】
まあ別に断る理由もないんだけど、ほかにどんなギルドがあるのか見てもいないしなあ。
「ボス! いきなり勧誘はやめてくださいとあれほど……。正式な加入試験をですね……」
「そうじゃったな。すまんのじゃ。つい、ほしくなってしまったのじゃ」
「ボスはめずらしいものを見つけるとすぐにほしがるから……」
わたしたちって、この部屋にある調度品と同じ扱いなの⁉
「それでは正式な加入試験を執り行うのじゃ。2人とも一緒に試験を受けるのじゃ」
「えっ、ボクもですか⁉」
驚きの声を上げる≪ピート≫くん。
「≪ピート≫よ。おぬしのことは母君からよくよく頼まれておる。おぬしがこの部屋にたどり着くことができた時には、ギルド加入試験に参加し、見事合格できた暁には、本格的な冒険者活動が開始できるように取り計らってほしい、とな」
そんな話だったのね。
つまりミミちゃんがいなくなったのも、≪ダレン≫さんと≪ニャンニャン姫≫の間で話し合いがあったから。≪ピート≫くんがミミちゃん失踪事件の謎を解いて、この『猫の眼』ギルドにたどり着けたなら、冒険者として1人前と認められる。そういう筋書きだったってことかな。
【それだけはないと推測します。ブラックウィングレパードが成獣になった時、現在と同様に制御し切れるかは不明です。少しでも成功確率を上げるためには、優秀な『
まあね、ボスモンスターの幼獣なんて聞いたことも見たこともないしなあ。いきなり街で暴れ出さないとも限らないもんね。≪ピート≫くんは将来有望そうだし、『
「訓練場の予約をしました。みなさん、移動をお願いします」
しばらくの間そのままぼんやりと部屋の調度品を眺めたり、≪ニャンニャン姫≫の耳やあごをモフったりしていると、長身のお姉さんが部屋に入ってきた。ギルドの受付にいた人かな?
「訓練場? 加入試験って戦闘もあります?」
「もちろんなのじゃ」
「で、ですよね……」
さあどうするー?
わたし、初期装備の銅のナイフしか持ってないんですけど? そもそもLv.1なんですけど?
「どんな試験なんですか……?」
「なんだビビっておるのじゃ? 心配はいらぬ。それぞれの特技を見せてもらうまでじゃ」
「特技、ですか……」
「非戦闘職に過剰な戦闘技能は求めぬ。自分の身は自分で守れることは証明してほしいがの」
自分の身を自分で守れ……か。
今のわたしからすると、だいぶ過剰な要求をされている気がしてならないんですが……。
「さて、着いたぞよ」
おお、ここが訓練場かあ。
狭そうに見える造りのギルドハウスだったのに、奥にはこんなに広い施設が!
軽く野球場くらいはありそうな広さの敷地。中央部分には、敷石で作られた正方形の闘技場みたいなものがいくつも見える。端のほうには武器や防具が整理整頓して置かれているし、ダンベルみたいな訓練用の機材もあるね。
「皆の者、少し手を止めるのじゃ!」
≪ニャンニャン姫≫が声をかけると、それまで訓練に勤しんでいたギルドメンバーたちがピタリと動きを止めた。20人くらいはいるかな? 多すぎて正確な人数はわからないけど。
「これから、ここにおる2人の加入試験を執り行う。『
わたし、めっちゃ注目されている!
これこれー♡
「『
この感じを待っていたのー♡
あー、気持ちいい♡
【≪アルミちゃん≫のその感じ……】
何よ。
良いでしょ!
特別扱いされるのが好きなんだからしょうがないでしょ! 放っておいて!
【すごくステキです】
えっ?
【承認欲求の塊とはこのことを言うのですね。まさにユニークJOB『
あ、今わたし、褒められてる?
参ったなー♡
まだぜんぜん『
【なんですぐに脱ぎたがるんですか? 痴女なんですか?】
普段注目されることなんてなかったからつい……。
でも≪アルミちゃん≫は清楚系アイドルで売ってたから、やっぱり脱ぐのはちょっと……。
【何があっても脱がないでください。アカウントが凍結されたら困ります】
そうは言うけどさー。わたしの姿って、今も配信されているんだよね?
【そうですね。24時間配信されています】
今はまだ昼間……もうちょっとで夕方だから良いけどさー、夜とかどうするの?
【暗くなりますね】
そうじゃなくてー!
着替えとか! お風呂とか!
【以前にも少し説明した気もしますが、独自のフィルタリングをかけていますので、≪アルミちゃん≫が服を脱ぎ始めたり、なにかこう、ラブロマンス的な行動に出た際には、生配信から自動でこれまでの活躍をまとめたダイジェスト映像やNiceboatな映像に切り替わるようになっています】
そう言えばそんなことを聞いたような……。
じゃあわたしは別に気にせず、ここで生活していれば良い感じにしてくれるってことね?
【そうです。お任せください】
ホントに配信されていないかを確かめる方法は……?
さすがに服を脱ぐときは緊張する……。
【コンソールを開いて左下に『生配信中』のランプが点灯していませんか?】
ああ、これ?
確かに赤く光っているね。
【そのランプが消えます】
なるほど。わかりやすい!
ん、ちょっと待って?
ここってVRMMOゲームの世界だけど、お風呂に入ったりトイレに行ったり、睡眠を取ったりする必要あるんだっけ?
【もちろん必要です。健康を維持するためには、現実世界と同じように行動をする必要があります。実は今、尿意があったりしませんか?】
えっ……なんかそう言われると……すごくトイレに行きたいかも……。
さっきイチゴジュースを飲んだから⁉
この世界ってトイレあるんだよね⁉
【尋ねてみたらどうですか?】
そ、そっか。
「あの……お姉さん」
隣にいるギルド受付のお姉さんに声をかけてみる。
「はい、どうかしましたか?」
「トイレって……ありますか⁉」