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第24話 何十人もの人たちにトイレ待ちされているとさすがにちょっと恥ずかしい……

「ふぅー、間に合った……」


 正直ちょっと危なかった……。

 なんでこう、意識し出すとトイレってギリギリになるんだろうね。


【AIの私にはわからない感覚です。申し訳ございません】


 って、≪サポちゃん≫いたの⁉

 ここトイレの個室の中なんですけど⁉


【いつでもどこでもそばにいる。それがサポートAIの役目です】


 トイレの間は外に出てて!

 音も聞かないで!

 デリカシーなさすぎ!


 ふぅ……さすがにAO2の世界に音姫みたいな気の利いたものはないよね……。でもなんていうか……水洗トイレってだけでもちょっと驚いています。ううん、その前にそもそもトイレがあることに驚いています! だってここにいる人たちってみんなNPC……じゃないけれど、プログラムで動いている人たちなんだよね? プログラムなのにトイレ必要? だけど普通に使用感があるような……いや、ちゃんときれいに掃除してあるから大丈夫だけどね?


【まだですか?】


 だから堂々と空中から覗くな!

 やだもう……。


 まさか、この映像って配信されたりしてないよね⁉


 良かった。

 ちゃんと『生配信中』のランプ消えてた……。


【急いで戻らないとギルド加入試験に遅刻しますよ】


 わかってるってばー。

 あれ、今何を考えていたんだっけ?……まあいいか。すっきりしたし、手を洗って急いで戻らなきゃ!



* * *


「≪アルミちゃん≫おかえりなのじゃ」


「ただいまー! すみません、お待たせしました!」


 一斉に周囲の視線が集まるのを感じる。


 何十人もの人たちにトイレ待ちされているとさすがにちょっと恥ずかしい……。

 あ、小のほうですからね⁉ そこのところくれぐれもよろしく!


「≪ピート≫の加入試験は終わったのじゃ。次は≪アルミちゃん≫の番じゃ」


「えっ、もう⁉ 結果は⁉」


 と、闘技場の上に立つ≪ピート≫くんのほうを見ると、満面の笑みでブイサインを送ってきた。


「お、おお……おめでとう!」


 すごいなあ。

 こんな短時間で合格できちゃうなんて。

 まあそうだよね。『調教師テイマー』は求められていたJOBだし、きっと≪ピート≫くんは有能だろうし、このギルドと相思相愛なんだろうなあ。


 わたしの『配信者ストリーマー』はめずらしさはあるだろうけど、何かに使えるかって言われると……ギルド貢献ってできるものなのかな? 外向きに配信してお金を稼ぐ広報的な役割だけど、それってAO2の運営にとってはメリットがあっても、AO2の中の1ギルドにとって何のメリットがあるの? せめてAO2内でも広報的な役割を担えれば話は別なんだろうけど。


「して、ユニークJOB『配信者ストリーマー』の≪アルミちゃん≫よ。おぬしはわらわに何を見せてくれるのじゃ?」


 お前の特技を見せろ、か。


【お任せください。120秒後に『デモンストレーションモード』を起動します】


 急に≪サポちゃん≫がAIっぽい機械音声でしゃべり出した⁉


【説明をしながら加入試験に臨みます。≪アルミちゃん≫は、私の指示に従ってください】


 は、はい!

 ところで『デモンストレーションモード』って何ですか⁉


【まず、基本的なことですが、『配信者ストリーマー』は文字通り配信する者です。配信するだけでは戦闘行動をとることができません】


 まあね、わたし、銅のナイフしかないし、鎧も布の服しか持っていないし。


【そんな『配信者ストリーマー』にも戦闘が行えるようにしたのが、『他職への変身システムトランスフォーメーション』です】


 トランスフォーメーション⁉

 なんか急にかっこいい⁉


【しかし本来であれば、生配信を見てくださっている方の同時接続数によって戦闘力が変化し、投げられるギフトの量によって使用できるスキルの種類、威力に変化があります】


 うーん、でも今は200人くらいしか視聴してくれていない……。


【ギフトを贈ることができる配信サービスを利用している必要がありますが、一時的に増加した視聴者を除くと、現在のほとんどはオーラムオンラインPhase.2の公式サイトからの閲覧です】


 ということは?


【公式サイトは、ギフト機能を有していないし、コメント機能も存在していない、ただの視聴用のサービスです】


 それは困ったね……。

 とりあえず気合で『ゼリン』とか倒してみる? 銅のナイフでもなんとかなると思うけど……。


【それで加入試験に合格できると思いますか?】


 さすがに厳しめだと思うの……。


【そこでサポートAIの権限によって解放できる特別救済措置として、『デモンストレーションモード』を使用します】


 うん、特別ね。

 それってどんな感じなの?


【シミュレーターに入力した架空の視聴者数、架空の獲得ギフトを使用して戦闘行為を行うのが『デモンストレーションモード』です】


 え、じゃあ、実際に視聴されていなくても、10万人が視聴していたら……みたいなことができちゃってこと?


【可能です。1度使用すると再使用までにクールタイムがありますが】


 でも助かる!

 それがあれば今ここでトランスフォーメーションで戦闘職に変身して戦えるってことだよね?


【そうなります。さあ、『デモンストレーションモード』準備が整いました。いきますよ】


 は、はい!

 とうとう初めての戦闘だー!

 ワクワクドキドキが止まらない!


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