………ヴェルティ某所。
廃墟のビルの屋上から、ヴェルティ国立中央病院のある方向を眺めながら……緑の長髪を後ろで束ねた軍服の青年が嗤う。
「……どうやら、【死神】が本格的に動き始めたようだね。僕という【魔王】を差し置いて」
その呟きに、壊れたデスクに座った……前髪で顔の半分を隠し、胸元の開いたドレスを纏った妖艶な女性が朗らかに、それでいてねっとりとした口調で応える。
「なぁに?《スアサイダル》にジェラシー?」
「はっ、そんな訳ないだろ。でも───」
「でも?」
「僕はあいつが嫌いだ。あいつの病が流行したら人類が滅んでしまうだろ。現にヴェルティの人口は激減している。僕達 《病魔》の使命は【死国】を築き上げる事なのに、あいつがやってる事は僕達への反逆だ!」
「あのコもまだ幼い……若気の至りってヤツよ。……本当に嫌ならアナタも感染を広げればいいじゃない、出来るものならね…うふふ」
「……今感染を広げたところで、あいつの病に負けて撲滅されるだけだ。凶悪な症状を持つ癖に《病魔》としての力も強いとか、本当に最悪だ」
「───《サタナス》、最悪の事が起こりそうになったら俺が審判を下す。故に、【死国】が建国される前に人類が滅ぶ事は無い……《ソルシエール》もあまり《サタナス》を挑発するな…」
「いやね《ペカトル》、挑発じゃなくて助言よ?」
「挑発だろこの【魔女】」
「魔女様とお呼び、坊や」
《ペカトル》と呼ばれた、貴族のような高貴な衣服を纏いつつも手錠と足枷をした老紳士ははぁ、と溜息を吐いた。全く、こいつらは《病魔》としての自覚が足りないのでは……そう思いながら。
「───《スアサイダル》、お前の望む世界は何だ?」
《ペカトル》は厳かにそう口にする。
それに応える者もまた、この世界で誰も存在しなかった───。