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喋る遺体 - 封じられた言葉 -
喋る遺体 - 封じられた言葉 -
苔葉
ホラーホラーコレクション
2025年01月23日
公開日
1.9万字
完結済
吹雪に閉ざされた山間の町。その町にある古びた火葬場で、一人の遺体衛生保全士・成瀬宗一郎が、不可解な遺体と対峙する。口を黒い糸で縫われた身元不明の死体――そして、その遺体がかすかに囁いた。「に……げ…ろ……」。

そこへ訪れた刑事・佐伯綾乃は、近隣で起こる連続失踪事件を追っていた。町の住人が忽然と消え、代わりに現れる口を縫われた遺体。やがて、二人は火葬場の地下に広がる“封じられた空間”へと足を踏み入れる。そこには、人間と入れ替わった“黄泉のモノ”が潜む異界への扉があった。

町の住人は本当に人間なのか? 死者の口を縫う理由とは? そして、成瀬自身に隠された衝撃の真実とは――。

すべてを終わらせるため、成瀬は最後の決断を下す。 しかし、それは本当に終焉だったのか?

闇に沈んだ町と、戻らぬ者の記憶をめぐる戦慄のホラーサスペンス。

第1話 闇に潜む影

夜の闇が、まるで生き物のようにうごめいていた。

荒れ果てた市街地には、すでに人間の気配はなかった。ビルの壁は黒く焼け焦げ、地面には割れたアスファルトと血のように濃い影が滲んでいる。


「来るぞ……!」


鋭い声が闇を裂く。

瓦礫と化したビルの影に潜む兵士たちは、息をひそめながら銃を構えた。

街路に広がる濃い霧の向こうから、何かが蠢いている。


「……数は?」


「12、いや……15はいる」


双眼鏡を覗き込んだ兵士の声がかすかに震える。


――黒い影が、不自然な動きでゆっくりと近づいてくる。


「撃て!!」


号令とともに、火を噴く銃口。

夜闇を裂く銃声が響き、弾丸が影を貫く。


だが、それは止まらない。


黒い影は、一瞬形を崩したかと思うと、まるで霧のように散り、再び姿を現した。

まるで銃弾など存在しないかのように――。


「チッ……やっぱり普通の武器じゃダメか」


兵士の一人が舌打ちする。


「第二波、準備!」


すぐさま特殊弾が装填される。

細工が施された閃光弾丸、呪符を巻き付けた刃――人類が編み出した、唯一"彼ら"に対抗できる手段。


「撃て!!」


閃光とともに、弾丸が放たれる。

黒い影は弾け飛び、辺りに血のような暗黒の飛沫が散った。


「やったか……?」


兵士が息を呑みながら確認しようとした瞬間――


"それ"は、まだ立っていた。


崩れた影の奥から、静かに姿を現す者がいる。


背筋を凍らせるほどの静寂。


「……嘘だろ」


兵士の一人がかすかに震える声で呟く。


暗闇の向こうから響く、ひたひたとした足音。


そして、それは言った。


「無駄だ……お前たちはすでに、死者の領域に足を踏み入れた……」


その声に、兵士たちはぞっとした。


「逃げろ……!」


叫びながら、兵士の一人が閃光弾を投げた。


轟音とともに白光が炸裂する。


"それ"は一瞬、闇の中に霧散した。


しかし、それはほんの一時の猶予にすぎない。

"それ"は消えたのではない。

より深い闇へと潜り、次の襲撃の機会を伺っているのだ。


――この戦いに、勝ち目はあるのか?


影が、迫る。

次の犠牲者を求めて――








崩れたビルの一角で、影から逃れた兵士たちはつかの間の休息を取っていた。


空は黒く染まり、夜が深まるにつれて、世界はより静寂に包まれていく。


銃を手入れする者、弾倉を確認する者、傷の手当をする者――

彼らは皆、生き延びるために動いていた。


その中で、一人の兵士が口を開いた。


「怖い話を聞きたいか?」


「こんな時にか?」

仲間の一人が顔をしかめた。


「通信士、隊長が狂ったと本部に連絡しろ。」


別の兵士が冗談を言い、場がわずかに緩む。


「まあ聞け。」


リーダー格の男は、暗闇を見つめながら続けた。


「今から25年前、ある町で……"最初の異変"が起きたらしい」


その言葉に、周囲の兵士たちは無意識に耳を傾けた。





「……すべては、田舎の小さな町から始まったんだ」

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