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第13話「エーテル」

5日目の夕暮れ前


僕とゼンとノンは

大型の鳥型の魔物を

一時的でも大人しくさせた後


再び襲われる前に

遺跡の出口に向かって

歩き始めたのだが


魔物は

すぐに起き上がると

空へ飛び上がり


弱々しくも

僕たちがいる方向に

向かって飛んできた


「なんて魔物だ、

 あれだけやられても、

 まだ向かってくるのか」


僕たちは

再び臨戦体勢を取るが


魔物は僕たちがいる場所の

上空に留まると

しばらく僕たちを見つめ


そして

ゲリラホーク2体を連れて

そのままどこかへと

飛び去っていった


「どうやら、

 この場を離れることに

 したようですね」


「あぁ、正直助かった。

 さすがに3戦目をやる体力は

 残ってないからな」


「そうですね。

 ゼンも、モネも、

 本当にお疲れ様でした」


そして僕たちは

昨日休憩した場所に戻り

今夜もそこで休むことにした


「それにしても、

 ノンの作戦がなかったら、

 こっちがやられていた

 かもしれないな」


「いえ、

 この調合薬にどれほどの

 効力があるのかは

 わかりませんでしたし」


「正直なところ、

 あの大型の魔物に

 効果があるかも賭けでした」


「それに、

 ゼンとモネが、

 私が提案した作戦以上に

 魔物の予測の裏をかくよう

 動いてくれたからこそ」


「この調合薬を

 使えるチャンスが

 生まれたのだと思います」


「頭の良い相手との戦いは、

 正攻法で戦っても

 勝てないことが多いからな」


「そういう場合は、

 正攻法で攻めてると

 思わせといて」


「ここぞというタイミングで

 予測の裏をかくような

 奇策な行動を取る」


「そうすると、

 こちらが攻めるチャンスが

 生まれる可能性が

 あるものなのさ」


「ま、その反面、

 その奇策が相手にバレると

 逆に利用されて痛い目を

 見る可能性もあるから」


「いかにこっちには

 こういう戦い方しかできない

 と思わせられるかが

 重要になってくるんだ」


「今回は、

 最初に洞窟で戦った時に

 魔物の動きを封じる

 調合薬を使わなかったことで」


「真正面から

 ぶつかっていくのが

 俺たちの戦い方だと思わせる

 ことができたんだと思う」


「あとノンが退却を

 提案してくれたおかげで

 あのまま洞窟内で戦闘を

 続けずに済んだこと」


「そして相手に有利な外での

 戦いの前のタイミングで

 その調合薬を使うことを

 提案してくれたこと」


「咄嗟の判断だったとしても

 その2つの状況を作って

 くれたのはノンだ」


「たぶん相手に有利な状況だと

 思わせることができたから

 あの時油断を誘うことが

 できたんだと思うんだ」


「今回の流れが

 例え偶然だったとしても

 やっぱりノンのお陰だよ」



「ふふっ

 ありがとうございます」


「ゼンって

 人を褒めたりする時に

 饒舌になるんですね」


「ゼンがどういう人なのか

 また1つ

 知ることができました」


「なんかそう言われると

 急に今の発言が

 恥ずかしく思えてきた」


「ふふっ

 ちょっとしたお返しです」


「この調合薬は

 アネスと呼ばれる

 麻酔効果のある

 エーテルなんです」


「へぇ、

 傷を癒したり、

 解毒作用のある調合薬は

 よく見かけるけど」


「麻痺させるような、

 攻撃的な調合薬も

 あるもんなんだな」


「はい。

 取扱が難しいものなので、

 恐らく町のお店では気軽に

 扱えないんだと思います」


「なるほどね。

 確かに素人が興味本位で買うと

 怪我する可能性もあるか」


「...ん?

 そうか、今思い出したよ」


「昨日この休憩場所に着いた時

 ノンが何やら植物を採取

 していたのは見てたけど」


「そのアネスエーテルを

 調合するための植物を

 採取してたのか」


 「はい。

  調合してから遺跡に

  向かうことも出来たのですが」



「何が起こるか

 わかりませんでしたし、

 場合によっては、

 私たちに危険が及ぶ

 可能性もありましたので」


「確かに、

 洞窟内で散布していたら

 そのまま動けずに

 魔物と仲良く洞窟暮らしが

 始まってたかもな」


「ふふふっ」


ノンはゼンの冗談が

面白かったのか

ゼンと一緒に笑っている


「ただ結局のところ、

 ノンの言う異常な現象が

 なんなのかは、

 わからなかったな」


僕も

ゼンの冗談を聞きながら

それを考え始めていた


あの魔物が

洞窟内で暴れ始める前

急に倒れたのは

しっかりと覚えている


それまで

特に怪我をしているような

素振りは見せていなかった

ことから考えると


急に起こった

謎の現象ということになる


もしあれが異常な現象の

正体なのだとしたら

原因がさっぱりわからない


あの洞窟内には

僕たちとあの魔物以外に

いなかったはずだし


僕たちは

そもそも洞窟から

出ようとしていた訳だから


あの巨体をどうこうできる

わけもなかった


遺跡の門跡付近で

襲ってきたゲリラホークも

ただ頭の良い魔物としか

思えなかったし


考えれば考えるほど

異常な現象以外の言葉が

思い浮かばない


しかもその現象は

洞窟内で1度起きただけで、

再び発生することはなかった


ノンが用意した

アネスエーテルによる

麻酔効果でも

あんなに急な倒れ方は

していなかったし


そもそも洞窟内で

あのエーテルが散布されていたら

ゼンの言う通り僕たちも

動けなくなっていたはずだ


「まぁ、

 あの魔物が原因ではない

 ということはわかったし」


「あの遺跡自体に

 問題がある訳でも

 なさそうだった」


「今はその情報が確認できて

 無事に帰ることができる

 ということで、

 良しとしようじゃないか」


「確かに、そうですね」


「ゼン、モネ。

 今回は調査にご協力頂き

 本当にありがとうございました」


「それで、ノンはこれから

 どうするんだ?」


「一旦

 モリの村に戻るのか?」


「いえ、モリの村では

 異常な現象について情報を

 得られませんでしたから」


「この森を南に抜け、

 そこから北東の方にある

 ソウゲンという村に

 向かおうと思っています」


「わかった。

 じゃあ俺たちも、

 そのソウゲン村まで、

 ノンに同行するよ」


「ありがとうございます。

 それでは今日も早めに

 休むことにしましょう」


「ああ!おやすみ!」


「おやすみなさい」


どうやらノンは

これまでのやり取りから

ゼンがどういう人なのか

分かった上で


諸々の確認の言葉や

申し訳ないという

自身の気持ちを飲み込み


一緒に旅をしてくれるという

その善意を素直に

受け取ることにしたみたいだ


そう僕は解釈し

ゼンとノンに尻尾で挨拶を交わし

そのまま眠りについた


チュン...

チュンチュン...チュン...


「おはようございます」


ゼンは体を起こしながら

僕は丸まった姿のまま

ノンに朝の挨拶を交わす


そしてノンは

僕とゼンの側に来ると

怪我の具合を確認してくれた


昨日休憩場所についた後

ノンに塗り薬を

塗ってもらっていたお陰で


大分

痛みは治まっている


「大丈夫みたいですね。

 朝食を作りましたので、

 たくさん食べてください」


「ノン、いつもありがとう!

 まずは森を南に抜けて、

 そこから北東だったよな」


ゼンは

ノンの作ってくれた

朝食を食べながら

改めてルートを確認する


「はい。

 しばらく歩き通しに

 なるでしょうから、

 しっかり準備をして

 向かうことにしましょう」


僕とゼンは

ノンが作ってくれた

朝食を食べた後


引き続き

ノンの旅の同行者として

ソウゲン村を目指し

新しい旅へと歩み始めた



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